杏子の映画生活

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六人の嘘つきな大学生

2024年11月22日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2024年11月22日公開 113分 G

誰もが憧れるエンタテインメント企業「スピラリンクス」の新卒採用。
最終選考まで勝ち残った6人の就活生に課せられたのは“6人でチームを作り上げ、1か月後のグループディスカッションに臨むこと”だった。
全員での内定獲得を夢見て万全の準備で選考を迎えた6人だったが…急な課題の変更が通達される。
「勝ち残るのは1人だけ。その1人は皆さんで決めてください」
会議室という密室で、共に戦う仲間から1つの席を奪い合うライバルになった6人に追い打ちをかけるかのように6通の怪しい封筒が発見される。その中の1通を開けると…「・・・は人殺し」
そして次々と暴かれていく、6人の嘘と罪。誰もが疑心暗鬼になる異様な空気の中、1人の犯人と1人の合格者を出す形で最終選考は幕を閉じる。
悪夢の最終面接から8年が経ったある日、スピラリンクスに1通の手紙が届くことである事実が発覚する。それは、<犯人の死>。犯人が残したその手紙には、「犯人、・・・さんへ。」という告発めいた書き出しに続き、あの日のすべてを覆す衝撃的な内容が記されていた。残された5人は、真犯人の存在をあぶりだすため、再びあの密室に集結することに…嘘に次ぐ嘘の果てに明らかになる、 あの日の「真実」とは――(公式HPより)


浅倉秋成のミステリー小説の映画化で、監督は佐藤祐市、主題歌は 緑黄色社会「馬鹿の一つ覚え」です。

人気企業の最終選考を舞台に、6人の登場人物の裏の顔が暴かれていく“密室サスペンス”と、8年後にそれぞれの暴かれた嘘と罪の真相が判明する“青春ミステリー”が合わさっていて、犯人探しの息詰まるような緊迫感を味わった後に、思いがけない感情の揺さぶりがあって面白かったです。

最終選考に残った6人は、洞察力に優れた主人公・嶌衣織(浜辺美波)、まっすぐな性格でムードメーカーとなる波多野祥吾(赤楚衛二)、冷静で的確なリーダーシップをとる九賀蒼太(佐野勇斗)、語学力と人脈に自信を持つ矢代つばさ(山下美月)、口数が少なく分析力に優れた森久保公彦(倉悠貴)、スポーツマンでボランティアサークルの代表を務める袴田亮(西垣匠)です。

最終選考の結果次第では6人全員に内定を出すと言われ、全員内定を目指してグループディスカッションを重ねて事前準備に取り組む中で仲を深めていった6人でしたが、急に課題が変更されて戸惑います。

それは6人で話し合い内定者を1人だけ決めるというものでした。
当日、正六角形に配置されたテーブルを囲んだ6人は、自己PRを行いながら15分毎に投票し総得票数で内定者を決めることにします。
1回目の投票の後、怪しい封筒が置かれていることに気付いて中を覗くと、それぞれの宛名が書かれた封筒が入っていました。

最初に九賀が自分宛の封筒を開けると、袴田の高校時代のいじめ記事が入っていました。以後の投票で票を得ることができなくなり自暴自棄になった袴田は、それぞれの過去が暴かれることで相対的に自分にもチャンスが生まれると考えて、次の手紙を開けることを要求します。

九賀、矢代、森久保・・暴露される者が増えていく中、嶌がこの封筒は会社が置いたものではないのではと指摘したことで、封筒を置いた犯人探しが始まります。
録画されていたビデオを確認すると、森久保が置いたことがわかります。森久保の否定の言葉は聞き入れられず、投票は続いていきます。
全員の手紙の開封を望む既に暴露された4人に波多野は迎合せず、これまでの関係に戻ろうと説得した彼の熱弁に心を動かされ始めるメンバーでしたが、九賀が暴露写真の特徴(傷と撮影日)に気が付いたことで、撮影日に唯一予定がなかった波多野が犯人と断定します。波多野は自分が犯人だと認め、嶌には暴露するものがなかったので封筒の中身は空だと言います。
最後の投票で、嶌が票を集める結果となって、彼女が内定者に決定します。

この日までは熱い友情が育っていたように見えた6人が、内定を勝ち取るためにエゴを剥き出しにして互いを非難し合う姿が醜くも人間臭い温度で迫ってきます。まさに彼らの裏の顔が剥き出しになったかのようで迫力がありました。

ここで終わりかと思いきや、シーンは8年後に。
スピラリンクス社員として働く嶌を、波多野の妹・芳恵(中田青渚)が訪ねてきて、
兄が病死したことを伝え、遺品を整理していて見つけた「犯人、嶌衣織へ」と書かれた手紙とUSBメモリーを届けます。ここで真犯人は嶌?と誘導されるわけね。😒 

USBメモリーにはパスワードがかかっていて、ヒントは”犯人が愛したもの”となっていました。身に覚えのない嶌は、事件を調べ直すことにします。暴露写真の撮影時間と場所の矛盾点から、波多野が犯人ではないと気付いた彼女は、最終選考の録画ビデオを見直して、矢代と森久保の不審な動きを見つけます。こういう観察眼の鋭さは彼女の得意とするところですね。

あのときの4人を呼び出した嶌が、犯人に証拠を突きつけるのが最終展開です。
波多野のより明確な証拠暴露写真を使わなかったのは、「彼」がお酒を飲めな(知らな)かったからなのね。
真犯人の動機は何とも稚拙に感じました。だって尊敬する先輩がスピラリンクスに落ちたのは人事部の見る目が無かったからと決めつけ、最終選考に残った自分への自己評価の低さもあって、5人を巻き込んで人事部に復讐しようとしたのですから。

彼の告白の後で、嶌は彼の口癖だった“fair”を入力してUSBメモリーを開きます。そこに保存されていた音声ファイルを開いたことで全ての伏線が回収されていきます。

犯人扱いされたことに絶望した波多野は、メンバーの悪行を更に曝け出そうと、彼らに関わる人物を訪ねていました。しかし、そこでそれぞれの秘密や罪には事情があったことを知ることになります。(例えば袴田は苛められていた後輩を守るために学校に告発した結果、加害者が自殺しており、彼に責任はなかったなど。)

善人面していたように見えたメンバーたちは、本当は悪人ではなくそれぞれの正義や道徳があったことを知った波多野は同時に自分のしようとしていた行為の下劣さに気付いたと告白し、5年、10年後に再会した時に胸を張って生きていたいと残していました。

ラスト。波多野の妹と墓前に手を合わせた嶌は、これで終わりではなく、ここからスタートだと前を向きます。

企業への就職活動をしたことのない身には、彼らの切実さを共感することは難しいのですが、最終選考の場の極限の精神状態の中で繰り広げられる密室劇はヒリヒリした緊迫感が伝わってきて犯人探しのスリルと共に目が離せませんでしたが、裏の顔=悪人というわけではなかった結末に救いを感じました。
嶌の暴露が最後まで出なかったのが気になると言ったら己の野次馬的好奇心の醜さを曝すことになるのかな。そこまで考えての構成だとしたら見事です。
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