
遠田 潤子 (著) 新潮社(刊)
秘密を抱える旧家で育った少女が見つけた、古くて新しい家族のかたち。大阪万博に沸く日本。絵描きの父と料理上手の母と暮らしていた銀花は、父親の実家に一家で移り住むことになる。そこは、座敷童が出るという言い伝えの残る由緒ある醬油蔵の家だった。家族を襲う数々の苦難と一族の秘められた過去に対峙しながら、少女は大人になっていく―。圧倒的筆力で描き出す、感動の大河小説。(内容紹介より)
銀花の母・美乃里は美人で料理上手でしたが盗癖がありました。「手が勝手に動いてしまう」母の後始末は銀花の肩に重くのしかかります。
実家の醤油蔵を継ぐことになった父に連れられ移り住んだ先でも、厳しい祖母の多鶴子や父と年の離れた妹・桜子との関係に苦労することになります。
ある日、銀花が蔵の中で座敷童を見たことがきっかけで、自分が父と血の繋がりがないことが判明します。母が盗った杜氏の大原の帽子を返そうとした銀花は彼から盗人の疑いをかけられ、さらに友人のキーホルダー紛失も銀花の仕業と疑われてしまいます。
銀花の父・尚孝は家業を継いだものの絵描きの道を諦められずにいました。しかし彼の絵は世間に認められることはありませんでした。座敷童を見たものが当主の資格があるという言い伝えに振り回された彼は、ある夜杜氏の大原と共に川で溺死してしまいます。
盗癖があると噂され孤独な学校生活を送る銀花でしたが、桜子に連れて行かれた暴走族の集まりで、大原の息子の剛と出会います。自由奔放な桜子が家出した時も剛は助けてくれました。暗い目をした彼を恐れながらも惹かれていく銀花でしたが、やがて美乃里の万引きが元で彼は殺人を犯して少年院に送致されます。
多鶴子に将来を尋ねられた銀花は、尚孝との約束を思い出し、蔵を継ぎたいと申し出ます。初めは拒絶した多鶴子でしたが、銀花の強い思いに折れます。
病気に倒れた大原の妻が息子の将来を心配しながら亡くなると、銀花は剛を探しだして彼の母の願いを伝え、その後も手料理を持参して彼の元を訪れるようになります。しかし彼は銀花の想いを拒絶します。
盗癖が知られ、買い物禁止令を受けた美乃里は家事の他に家業の雑務を手伝うようになりましたが、ある年の夏、風邪が悪化して亡くなってしまいます。
想いを断ち切れずに剛の元を訪れた銀花に、剛は隠していたことを告白します。昔、銀花が見た座敷童は、尚孝に当主を継がせるために大原が息子に扮装させたものでしたが、失敗したこと。それが原因で彼と父親が不仲になったこと。尚孝に座敷童の正体が自分だと告白した夜、尚孝と父が溺死したこと・・・
殺人者となった自分は相応しくないと話す彼に、銀花は自分の出自(売春婦だった母が客との間にできた子供)を告げた上で、共に生きたいと言い切ります。また剛の話を聞いた銀花は父と大原の死は事故だったと確信します。
多鶴子を説得し結婚した二人でしたが、子供はできませんでした。
数年後、突然桜子が3才の双子(晃と聖子)を置いて行き、二人は我が子のように育てます。銀花は親となって初めて両親の気持ちを理解していきます。
剛から美乃里の盗癖は窃盗病 という病気だったのではないかと言われた時、銀花と多鶴子は初めて美乃里の苦しみに気付きます。
双子と養子縁組をすることになった時、多鶴子は銀花夫婦も自分の養子とします。多鶴子が病を得て最期を迎える際、彼女は銀花夫婦に過去に犯した過ちを告白します。父親が他所で産ませた男の子を引き取ったことが発端となり、自分が唆したせいで柿の木から落ちたその子の息の根止めたのが母親でした。昔のことですから、神隠しにあったということで事件にはならず、その秘密を抱えて生きて来た多鶴子もまた母親への憎しみを抱えていました。柿を食べてはいけないというのも、座敷童の言い伝えを捏造 したのも多鶴子の罪悪感からでした。更に彼女は恋人と引き裂かれて婿養子を取らされたことで、産まれた男の子(尚孝)に愛情を持てずに育てたことを悔やんでいました。
桜子はその恋人と再会して出来た子であり、桜子自身が中学生の頃に本当の父親から真実を聞かされていたことも明かされています。それを知った銀花は桜子が自分に辛くあたったのは羨ましく嫉妬したからだと気付きます。
やがて双子は成長し、聖子は晃の友人のロシア人サーシャと結婚して家業と継ぎ、彼らの間に双子が生まれます。作中で尚孝が愛聴していた仲雅美が歌う「ポーリュシカ・ポーレ」はロシアの曲で、かの地に憧れていた父を懐かしく思う銀花でした。
老朽化した蔵を改装した際に出てきた木箱に入っていたのは子供の遺体でした。銀花は「この家の守り神」と言い「やっと会えた。あなたこんなところにいたんだね」と心の中で呼びかけました。
登場人物全てが秘密を抱えているというけっこうヘビーな設定ですが、例え血が繋がっていなくても愛情は持てるし、血の繋がった関係でも憎しみは生まれるのよね。子育てを醤油作りに例えているのが面白かったです。
1968年から始まる物語はその時代時代の出来事や流行った玩具などを散りばめながら進んでいきます。大阪万博、阪神淡路大震災身近に感じたもの、自分と無縁だったことなども含めてただただ懐かしい気持ちになりました。