杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

モルフェウスの領域

2024年02月22日 | ドラマ
海棠尊(著) 角川文庫

モルフェウス――眠りを司る神。未来医学探究センターに勤める涼子は、コールドスリープによって眠る少年・佐々木アツシをそう名付けた。「彼」が目覚めるとき、医学界、法曹界には様々な問題が立ちはだかる……。(内容紹介より)


佐々木アツシは5歳の時に網膜芽腫を発症し、東城大学医学部付属病院で右眼球摘出手術を受けますが、数年後に左眼も発症します。進行抑制薬「サイクロピアン・ライオン」は日本未認可のため、アツシの両親は人口凍眠で認可を待つ選択をし、アツシは9歳で世界初の「スリーパー」となりました。未来医学探求センター地下1階で眠り続けるアツシの「サポーター=見守り役」は非常勤の日比野涼子です。彼女はセンターに住んで、膨大な資料の整理とアツシの容体管理をしています。涼子はアツシを「モルフェウス」(ギリシャ神話の眠りを司る神)と呼びました。

アツシの目覚めまで半年を切った12月。涼子は東城大学医学部付属病院に赴き、院長の高階に面会します。アツシの両親は彼が眠りについて1年後に離婚して双方共親権を手放しているため、目覚め後のケアは病院で行わなければなりません。
高階はアツシの当面の生活の場として小児科センターを提供し、メンタルケア役として「愚痴外来」の田口公平を、社会復帰の教育係として看護師長の如月翔子を紹介されます。

4月、目覚めの日。システムを開発したヒプノス社の西野昌孝によりアツシは無事に凍眠状態から生還します。サポーターはスリーパー覚醒後の接触を法律で禁じられているため、涼子は職を解かれました。

小児センターに入院したアツシは心を閉ざしていましたが、同い年の入院患者・佳菜との接触で感情を取り戻していきます。アツシは肉体的には14歳ですが、精神的にはいまだに9歳のままでした。田口から両親が離婚し医療費の負担と息子の引き取りを拒否したことを聞かされたアツシはショックを受けます。翔子は涼子に頼んでアツシと佳菜をハイパーマンランドへ連れて行ってもらいます。この日を境にアツシは「目覚め」ます。

翔子は時折涼子にアツシの近況をメールで報告していましたが、涼子からは「間もなく遠い国に旅立ちます」というメールの後連絡が途絶えました。

6月。西野が東城大学医学部付属病院を訪ねてきます。彼は日比野涼子の代理人と名乗り、彼女が2人目のスリーパーとなっていることを告げ、アツシに涼子のサポーター役になることを依頼します。涼子はスリーパー=アツシの人権を守るために自らスリーパーとなったのでした。

センターを訪れたアツシは、かつて自分が5年間眠っていた水槽に横たわるモルフェンヌ(眠り姫)のような涼子を目にして、彼女が目覚める5年後までに肉体的にも精神的にも成長した19歳になることを誓うのでした。

アツシの目覚めまでは、涼子の心の葛藤が描かれます。
5年間の時限立法であるコールドスリープ法は『ジーンワルツ』の曾根崎理恵の夫の曾根崎伸一郎(ゲーム理論の若き覇者でマサチューセッツ工科大学教授)が提唱した『凍眠八則』に基づいて作られていますが、その中の、「凍眠中は市民権・公民権を停止し、個人情報は国家の管理統制下におく」 「凍眠者は覚醒後に、以前の自分と連続した生活か、他人としての新たな生活を選択する。他人としての生活を選択した場合は、以前の属性は凍眠時に遡り死亡宣告される。連続した生活を選択した場合は、凍眠事実の社会への公開を要す」が問題!凍眠者のプライバシーは無いに等しく凍眠中の情報は全てオープンってことらしい。

更に『リバース・ヒポカンテス(逆さ海馬)』プログラムを使えば凍眠者の記憶を書き換えることも可能という・・・眠っている間に勝手に書き換えられても本人気付かない恐ろしいプログラムじゃん😡 

いつしかモルフェウスに特別な感情を抱くようになった彼女は、西野からこのプログラムを消去するか否かを迫られ苦悩した末に消去を選択します。
(アツシの記憶を奪うこと=アツシの死 であり、アツシが目覚めた後に自分の存在を忘れること=5年間見守り続けた涼子という存在の死ということらしい。)

涼子は、施設維持に巨額の費用がかかるためコールドスリープの稼働をアツシ1人で終わらせたい厚労省の思惑を阻止するため、自分がスリーパーになることで更に5年間法律が自動更新され、その間に八則の問題点について社会的な議論がされるようにと考えたわけです。

西野のキャラもなかなか特異です。コールドスリープ装置の開発者で、躁病で不眠症、一度見聞きした事は決して忘れない・・・めんどくせ~。で、涼子に惚れてしまった彼は、彼女の気持ちがアツシにあることに嫉妬してアツシの記憶をちょっとだけ弄ってしまう。それ犯罪だから!

アツシの左眼は、日本での承認がようやく降りて治療できました。それには官僚政治的手腕がどこからか発揮されたようです。そして物語は『アクアマリンの神殿』へと引き継がれていきます。😁 




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