
廻り廻りて
輪廻を離れぬ
妄執の雲の
塵積つて
山姥となれる
赤尾です。加藤さんの画面全体に神経を張り巡らせた超力作、遂に完成です。
黒人女性を陰影の強いラトゥール風に描いたり、ダリの絵を緻密に模写したりと、加藤さんの精神力と作品のテーマ性には毎度胸を打たれます。今回は初の日本画への挑戦。
和のテーマにどんなモチーフを選ばれるのだろう・・・とドキドキしていたところ、能の演目「山姥」からの選択!
深い山々のどこかにいるという鬼女で有名な山姥ですが、この演目の山姥は仏法の深遠な哲理を説き、さらに真の山廻りの様子を表して舞ううちに、その姿はいずこかへ消え、見えなくなってしまう儚さもあるそうなんです。人々を恐怖に陥れるというよりも、どこか不思議で懐かしく、広大な存在感を持つ山姥の姿。画材や絵の描き方は違えど、加藤さんの今まで描かれた作品にも通じるものがあるなあ・・・と、山姥の演目を調べるうちに感じました。
細密描写に慣れている加藤さんとはいえ、粒子の粗い岩絵の具はなかなかいつものように描写できず、もどかしく感じられることもありました。粒子が粗いとそのぶんムラができやすく、顔などのちょっとしたポイントですぐに印象が変わるような部位を岩絵の具だけで思い通りに描くにはとても苦労します。そんなときは粒子が細かく不透明でムラなどをカバーしやすいアクリル絵の具と併用するのがお勧めです。せっかく現代には便利な画材がありますし、有効活用して目指したい絵に近づけましょう。もちろん使いすぎると日本画の独特な空気や質感を損なってしまいますが、加藤さんはアクリルで描写する箇所を顔付近に絞っているため、絵にメリハリが生まれました。
また着物の柄も、絵の具を重ねて見えなくなったらまた墨入れして・・・と、何段階もの肯定を踏んでここまでの細かい模様を描き切りました。この描写は息を呑みます。部分的に貼った金箔も、この絵の華やかさを増しているポイントです。
水曜クラスでも大人気だったこの作品、加藤さんの絵に対する熱い魂を感じます!
画材の壁を越えるテーマ性を感じる加藤さんの作品ですが、その代表作の一つに加えたい一枚になりました。