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藤棚の下のベンチに、八十歳代に見える老女が腰を下ろしていた。日陰なので気づかなかったが、シルバーカーを前に止めてある。老女はすみれに横顔を見せ前方を向いたままだ。すぐ側まで近づくと、はじめて反応した。
「おや、お嬢ちゃん一人かい」
無言で頷いたすみれに自分の隣を手で示し、座るように勧めた。
「この公園は子供の少ない所だ。今日も誰とも話をしないで過ごすのかと思っていたけど。お嬢ちゃんがきたからよかった。私は毎日のように誰とも話をしないで過ごすことが多いんだ。つまらない人生さ」
「おばぁさんは独り暮らしなの」
「いや、娘と二人。娘は勤めの関係で夜遅く帰ってくるし、朝は忙しく出かけてしまうし話なんてする暇がない。ガスは危ないから使うなって言うんだ。お湯はポットで沸かして、娘の用意したおかずをレンジでチンして、昼も夜も、そうやって独りで食べるんだ。娘がいつ帰って来たのか分からない。私は早く寝てしまうからさ。毎日毎日、独りで居るようなものだよ」
「寂しくないの?」
「だから公園まで頑張ってくるのさ。少しでも、誰でも良いから話したいと思ってね」
すみれは、私もこのおばぁさんと同じだと、思った。
「足が痛いんだけど、歩かないと歩けなくなるって、娘が。心配はしてくれるけど、一緒に歩くことはない」
老女は膝をさすり、遠くを見た。
「おばぁさん、私明日またここへ来るよ。私このポピー公園が好きなの」
「そうかい、そりゃあ嬉しいね。じゃ明日もお話が出来るね」
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著書・夢幻に収録済み★連作20「すみれ五年生」が始まります。
作者自身の体験が入り混じっています。
悲しかったり、寂しかったり苦しかったり、そのどれもが貴重なものだったと思える今日この頃。
人生って素晴らしいものですねぇ。
楽しんでお読みいただけると嬉しいです。
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