おじさんが公園に入ってきた。すみれは、何故か懐かしい感じがした。
「元気そうだね」
「おじさん、仕事、決まったの?」
「うん、タクシー会社だ。今までの仕事とまったく違うものだが、仕事しないでは暮らしていけないからね」
山谷と名乗ったおじさんは、すみれに笑って見せてから、ベンチに腰を下ろしている千代に挨拶をした。
「すみれちゃんの一番目の友達ですって? 私は二番目の友達の千代おばぁさんです。嬉しいねぇ、私とも友達になってください」
千代は山谷に手を差し出した。山谷は両手でその手を包み、少し揺すった。
「ね、おじさん、いつからお仕事するの」
「タクシーを運転するのだけど、これから二種免許を取得しなくちゃならない」
「ふぅーん、大変なの、おじさん」
「山谷さん、若いから大丈夫。私の子供と言ってもいいくらいの歳だろうから」
千代が山谷を見あげて言った。
「ええ、頑張らなければ。すみれちゃん、学校はちゃんと行っているのかい」
「うん。行っている」
「この千代おばぁさんと約束したんだよね。学校だけは休まないって」
「そうか、よかったね、友達が増えて。おじさんは、しばらくはここへは来られない。何かあったら電話くれるといいよ」
山谷は、会社の電話と自分の携帯電話の番号を手帳に書くと切り取り、すみれと、千代にそれぞれ渡した。
山谷が帰ると、すみれは千代を自宅まで送ることにして一緒に歩き出した。千代はシルバーカーにもたれるようにして歩いた。
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著書・夢幻に収録済み★連作20「すみれ五年生」が始まります。
作者自身の体験が入り混じっています。
悲しかったり、寂しかったり苦しかったり、そのどれもが貴重なものだったと思える今日この頃。
人生って素晴らしいものですねぇ。
楽しんでお読みいただけると嬉しいです。
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