たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

竹を活かす道 <日立製作所 バイオマス、竹から製造 新技術>を読んで

2017-03-10 | 農林業のあり方

170310 竹を活かす道 <日立製作所 バイオマス、竹から製造 新技術>を読んで

 

今朝はどんより曇っていましたが、霜もわずかで、少し暖かくなってきたかなと、のんびりと着替えをして新聞に目を通すことができました。

 

改正道路交通法特集で「高齢者運転の支援」といった記事や、災害非難の歳に支援を求める希望者の名簿づくり「命のリスト」(和歌山)など、いくつか取り上げようかと思う内容があったので、ウェブ情報で探しましたが、見つかりませんでした。そこに珍しく竹を取り上げた東京版の記事で、見出しと同じものに遭遇し、今日はこれにしようと決めた次第です。

 

私はこのブログで時々取り上げていますように、竹の間伐というか整序というか、この作業を当地にやってきて以来、ずっと続けています。むろん竹の利活用もそれなりに挑戦しましたが、なかなかうまくいきません。

 

そして山々を日々見ていますと、竹林があちらこちらで密集しているのも目につきます。以前、京都に住んでいるとき、竹林が風にそよいだり、雪に覆われたりするのが家から見えていましたので、とてもいい雰囲気を感じていました。しかしそのときは確かめませんでしたが、多くの竹林は管理されず、密集しすぎて、周囲のスギ・ヒノキ林や畑などに進出したり、他方で、自立できずに倒れてしまったりして、健康な竹木は少ないように思うのです。

 

数十年前から各地で竹林整序のボランティアの組織ができあがり、一定の成果が上がっているとは思いますが、竹の繁茂の力が断然勝っているので、蟷螂の斧に近い状態かもしれません。とはいえ遠くから見ていると、それなりの山林景観の一部となっていて、多くの人はさほど不満を感じていないかもしれません。ただ竹林の土地所有者や隣接地主にとってはやっかいなしろものと感じているでしょう。あまり酷くなり、周囲に迷惑となったり、苦情がでると、業者や森林組合に依頼して伐採してもらうのでしょうが、これはほぼ毎年継続しないとあっという間に元の木阿弥になるので、経費が大変となります。

 

さて本題の竹のバイオマス、これは面白いと思うのです。うまくいけば竹林の適正な管理と再生エネルギー資源としての活用、地産地消のエースになるかもしれません。しかし、竹のバイオマス事業は、なかなかやっかいで、後でも触れますが、補助事業としても過去それなりに行われているものの、事業化できず裁判になったケースもあります。そういう実態の一端を知っているものですから、さてさてどのような技術なのか、興味を持ち、日立製作所のウェブサイトまでたどり着き、それを見ながら、今後を検討してみたいと思います。

 

毎日記事では、<竹からカリウムと塩素を抜き取ることで、バイオマス燃料に使う技術を開発したと発表した。>と報じて、その概要を紹介しています。問題点として、以下を上げています。

    竹に多く含まれるカリウムと塩素は、設備の劣化やダイオキシンの発生につながる。

    竹を破砕すると、刃が短期間で摩耗して劣化する。

    竹の伐採や切断処理などに人手と費用がかかる。

 

といった問題に対して、新技術では、以下のように対処して解決したとのことです。

    については、竹を専用の破砕機で細かく砕き、水に浸すことでカリウムと塩素を溶出する。脱水してペレットに固めると、木質のバイオマス燃料と同レベルの品質に仕上がる。

    については、破砕機の刃が短時間で摩耗しないよう工夫を加えた。

    については、枝葉ごと処理できるため、重機での大量伐採が可能になる。

 

これでは技術開発の要領が素人には少し分かりづらいと思います。日立の記者発表文を見ると、より明解になるかと思います。

 

    の問題について、竹の特性と燃焼させることによる問題点を次のように言及しています。

(1)    木質に比べてカリウムが多量に含有されているため灰の軟化温度が680900℃と低く、大型のボイラで燃焼させると炉内にクリンカという溶岩を生成する

(2)    塩素濃度が1,0005,000ppm(0.10.5)と高く、ボイラで燃焼した場合、耐火物や伝熱管を腐食させやすい

(3)    ダイオキシン類の発生も懸念

 

基本的問題は、竹に含まれるカリウムと塩素ということですから、この除去をどのように行うか、コストがかからないようにできるかということかと思います。

 

それについては<成長の早い植物の断面が多孔質の繊維で構成されており、微粒化により内部開放を行えば、水溶性の無機物質であるカリウムが容易に溶出できるとする知見>を得て、これに基づき、次のような技術開発をしたというのです。

<竹を専用の粉砕機で粒径6ミリ以下まで微粒化し、それを水に浸すことで、カリウムと塩素を溶出させ、脱水することによりカリウム濃度と塩素濃度を低下させることに成功>

 

塩素ついての知見は触れていませんが、カリウムと同じ水溶性があるのでしょうか?そのような知見というか文献があるのか確認できていませんが、結論としては溶出出来たと言うことでしょうね。6mm以下に粉砕ということですが、微粒化といっても、思ったより大きい粒子で溶出可能だということですから、驚きです。ただ、このカリウムと塩素の処理はどうなるのでしょうかね。カリウムは肥料として利用できるということですから、残りは塩素でしょうか。

 

この技術は、<孟宗竹、真竹、淡竹、笹や雑草類、未利用の杉の皮でも分析と改質を行い、同様の効果があることを確認しました。>とありますから、その点では汎用性も相当程度認めてよいのでしょう。

 

次に、毎日記事では取り上げられていなかった<抽出物の肥料化(有効利用)>として、先のカリウムのほかに窒素、リン酸が微量に含まれているということで、<抽出物を高濃度にしたものが植物育成剤として利用が可能>と小松菜の実証実験結果も報告されています。他方で、有害物質の検出はないとのことで、これで十分な検査かどうかという点は、原発事故で放射性物質が拡散飛来した場所や大気汚染公害(過去の話でもないと思いますが)の影響を考慮する必要がある地域以外は十分ではないかと思うのです。

 

    の問題について、<これまで竹は、表面にあるケイ素成分によって機械の刃を短時間で磨耗させると考えられてきました。しかし、日立では、竹のケイ素濃度は高くないことから別の要因があると推測しました。結果、弾性体の竹外面で竹蝋により刃が横滑りをすることで刃先が欠損していたことと、竹に付着した泥や小石、砂類によって摩擦が発生していることがわかりました。>と新たな発見を指摘しています。

 

私は竹を粉砕したことがないので、よく分かりませんが、竹をノコで伐採したり、切断したりしているとき、滑りやすさは感じます。竹蝋によるというのはだいたい理解できます。とはいえそれで刃先が欠損しやすいということまでは粉砕器の刃の性状にもよるのかなと感じています。

 

とはいえ節の部分の硬質なところや、繊維の方向と刃の方向によって刃こぼれが生じないのかといった疑問も浮かびますが、付着泥などは量的にはたいしたことがないと思いつつ、分かりますね。

また竹の幹を切断するのでも、竹の表面に違いがあり、さっと切れる側と、容易に切れない側があります。竹の繊維の性質なのか、表面の性質によるものかは分かりませんが、竹は意外と奥が深いように感じています。

 

    の対策については前処理と明解です。<破砕機で竹を破砕する際は、事前に竹表面と端部の泥類を取り除くとともに、竹を割って竹の内側面より刃があたるように前処理をすることで破砕機の刃の摩擦延命化が可能である知見を得ました。>

 

この前処理、意外と大変かなと感じます。単に竹を輪切りにして一定の長さにすることは林業用のハーベスタ(立木の伐倒、枝払い、玉切りの各作業と玉切りした材の集積作業を一貫して行う自走式機械)に類似した機械を使えば簡単でしょう。しかし、竹を割るというのは機械化する場合にちょっと工夫というか、新たな機械が必要で、従来のように人が作業するのでは効率性が極端に落ちるでしょう。

 

    の問題については、<一般的な竹収集では竹を定尺に玉切りし、枝払いして収集していますが、大半の作業が人手によるもので、原料コストを引き上げています。>と述べています。

 

そうなんです。とても大変です。私の場合全身傷だらけになってやっていますが、プロでも手間は結構かかると思います。とくに手入れしていない竹林の場合、枝がかなりやっかいです。それはよく分かりますね。

 

その解決策として、<日立では、重機による竹の伐採および伐採直後に竹専用細断機で細断し、気流搬送によりバキュームカーで収集することが可能であることを確認しました。>

その結果、伐採収集運送が効率化出来るというのです。<これにより従来の伐採収集に比べ輸送効率が34倍に向上することから、3分の15分の1程度、費用低減が可能であると推定しており、原料コスト削減に寄与します。>

 

要は2つの機械の活用なんですね。重機というのはハーベスタみたいな機械でしょう。竹専用細断機がどのようなものか分かりませんが、単に長い竹(通常長さ10m前後ありますし、孟宗竹だと15mを優に超えるものもあります)を伐採しただけでは、この専用細断機を使うことはできないでしょう。やはりハーベスタのような機械で、枝条と幹を分け玉切りした後、専用細断機を使うのではないかと思うのです。

 

で日立は、<本技術は、従来バイオ燃料には不向きとされていた竹類を有効なエネルギー源とするとともに、持続可能なバイオマス再生循環システムの確立につながるものです。

  なお、本技術は、林野庁の補助事業である「木質バイオマス加工・利用システム開発事業」として、福岡県八女市と北九州市の協力のもと、2年間にわたり開発を進めてきたものです。>と発表しています。

 

ここでも話題の補助事業です。それで果たしてこの技術開発が事業化がどの程度可能かについて次に検討したいと思います。

 

この日立の技術開発について、詳細に取り上げたスマートジャパンのウェブ情報では、<今回開発した燃料改質技術の今後の展開については「現時点では技術開発が完了した段階で、事業化や展開方法などについては未定。今後検討していきたい」(日立)としている。>

 

この「未定」というのがみそだと思うのです。私がこんなに詳細に引用した理由を次に述べてみたいと思います。

 

まず効率的伐採収集という点ですが、仮に人手を使わずに重機と専用細断機をシームレスに使用するとすると、果たしてそのような利用が効率的にできる竹林がどこにあるのか、といった問題に突き当たると思うのです。九州、中国地方に竹林が多いと言われていますが、といっても広大な面積の竹林は、ほとんどないといえるのではないでしょうか。スギ・ヒノキについては拡大造林といった植林政策で、わが国でも50ha100ha以上のかたまった林地は相当程度あると思います。しかし、竹林はそのような林業施策もないわけで、長岡京や京都の嵯峨野のように丁寧に竹林管理をしているところは別として、多くは放置しているところに自然に成長してきたものではないかと思います。つまりは山林などの中にまだら状に生育しているのがほとんどではないでしょうか。

 

そこには重機1機を入れるのでも大変でしょう。多くは林道もないでしょうから、重機が入るような林道づくりをしないといけませんが、林道をつくるコストに見合うだけの竹林の材積量はないでしょう。ここに事業化する場合の大きなネックがあるように思うのです。

 

この問題の解決ができないと、折角の技術開発が有効に活用できず、事業化するには難問ではないかと思います。さらにいえば、竹林は放置されている場合が多いのですが、その所有者を確認し、その同意を得る作業が大変だと思います。農地の零細錯圃と同様に、竹林の零細で散在している状況は、その作業をさらに困難にさせることになり、これまでの竹利用のバイオマス補助事業で成功したという報告を私の狭い知識では知りません。

 

私自身は、竹バイオマスの成功を望んでいますし、どのようにすればうまくいくかを徒然に考えることもありますので、このような消極的意見は、できれば実効性ある事業をさらに研究してもらいたいとの願いからでたものであることを念のために述べておきます。

 

ある裁判例を一つ紹介します。もうそろそろ時間切れになったので、詳細はまた別の機会にしますが、地元では大変な問題となり、議会は特別調査委員会を立ち上げ報告し、住民も町長を被告にして損害賠償請求の訴訟を提起し、9200万円超の勝訴判決を勝ち取りました(控訴していますが取下確定しています)。

 

平成26年10月27日熊本地裁判決で、町が竹バイオマスの新規事業を実施するため、国から交付金を受け、事業実施主体である会社に交付金と同額の補助金を支出したが、その事業の実施が中止とされたため、町が会社から補助金の返還を受ける前に国に対し自主的に交付金の返還をしたところ、町の住民らが、町長がした会社への補助金の支出と国に対する交付金の返還はいずれも違法な財務会計上の行為であるなどとして、町に対し、町長に対する損害賠償請求をすることを求めた住民訴訟につき、原告らの請求が一部認容されたものです。

 

本件では、竹のバイオマス事業の技術的可能性は問題になっておらず(それすら検討していない疑いがある事業ではないかと思っています)、当該会社の資金調達の見込みについて調査等が十分でなかった点が違法とされています。いつか機会があれば、他のバイオマス事業などの裁判例とともに紹介したいと思います。