たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

金融と土地 <アパート融資 地銀奔走 残高最大13.8兆円・・>を読みながら

2017-06-07 | 不動産と所有権 土地利用 建築

170607 金融と土地 <アパート融資 地銀奔走 残高最大13.8兆円・・>を読みながら

 

毎日が早暁というより暗闇の中目覚めています。今日は少し元気がよかったので、森浩一氏と網野善彦氏の対談集を掲載している「この国のすがたと歴史 (朝日選書)」を読みました。

 

考古学者と歴史家というか、いずれも多方面に造詣が深く、日本中はもちろん海外を自分の足で歩きその体験の豊かさで、いつも目から鱗状態になります。

 

本書もまだ読み始めですが、旧石器時代から明治時代くらいまで古今東西を具体的な資料を基に推論されるので魅了されます。とくに興味深いのは八丈島や隠岐の島が決して絶海の孤島ではなく、交易の拠点として、前者は太平洋を、後者は沿海州を、交通路として縦横に交易を生業にしていたといった話。黒曜石やさまざまな考古学資料を基に、交易の広がりを示すだけでなく、ベーリング海を渡ってペルーまでたどり着いていた縄文期の人々の存在、紀元前には近くはアムール川中流域まで交易を行っていたということとか、まだ咀嚼できていませんが、壮大で心を揺さぶられます。早朝枕元のライトで読むにはあまり似つかわしくないかなと思いながらも少しの時間楽しめました。

 

さて、今日はこの後和歌山まで行かないといけませんので、一時間程度でブログを書き上げたいと思います。

 

毎日朝刊の一面には<アパート融資地銀奔走 残高最大13.8兆円 相続税対策に対応>が取り上げられ、続いて三面には全面に<クローズアップ2017「貸家バブル」の様相 地銀・メーカーが建設攻勢 空室目立つ「アパート銀座」>が掲載されていました。

 

80年代後半、同じような状態で不動産バブルが突き進んでいき、多くの破産者がでたのを覚えています。そして2000年代にも、アメリカのサブプライムローンなど信頼性の乏しい多様な金融商品が生まれ、住宅バブルから証券バブルにとなったアメリカの影響で日本にも証券バブルが起こり、結局リーマン・ブラザーズの倒産などで一挙に破裂して、多くの庶民が財産をなくしたと思います。

 

最初の記事、地銀のアパート融資残高の急増は異常ではないでしょうか。では地銀だけが問題でしょうか。融資審査がバブル以降は厳しくなったとはいえ、以前、不動産価値に依存している実態が指摘されても仕方がない現状は、金融庁が従来型の指導をしても上滑りするだけかもしれません。背景に、(政府)日銀のゼロ金利政策があり、それに有効な対策を講じることができない地銀に問題があることはたしかでしょう。

 

と同時に、記事掲載中の写真では田んぼのど真ん中に農地転用して宅地化されたと思われるアパートが写っていますが、農地所有者を含む土地所有者の投資判断の杜撰さというか、従来通りの他人任せなところに問題があるかと思うのです。

 

なぜか、こういった貸しアパート融資は、銀行主導型もあるかもしれませんが、むしろ一般に言われているように、コンサルタント・建築業者・サブリース業者といった複合した提携組織というかグループなどが主導しているのではないかと思います。

 

そもそも相続対策というのは、バブル期以来、変わらない常套文句です。相続税課税が強化されたからといって、バブル前に比べればまだ低い水準ではないでしょうか。それは名目に過ぎないでしょう。

 

それよりもサブリースや賃料保証といった方式を巧みに構築して、初期段階では絶対に借り主や賃料収入を確保ないし保証するシステムをうたい文句に、絶対損しない、他方で相続税が安くなるか課税されないといったセールストークに、その契約全体を理解しないまま、組み込まれてしまう土地所有者がいて、そういう長期の返済計画が立てられた収支計算を基に、融資する金融機関融資担当がうまくのせられるということではないでしょうか。

 

このようなうまい収支計画書は、土地所有者ばかりか、土地を所有していなくても、買い入れてまで投資する個人客まで誘導する甘い内容となっています。

 

そこにはアパート経営なら、借り手の需要予測が市場競争の変化も組み込まないまま、勝手な長期予測で算定され、仮に借り手が不足したり、値下げ競争となって家賃が下がって収入が減ったとしても、一定期間家賃保証する方式となっていますが、その保証会社が倒産した場合には取らぬ狸の皮算用となるのが客観的には推測できる場合でも、個人投資家にはそのようなマイナス判断ができないようにうまいセールストークが用意されているのでしょうね。

 

ここまでは、前置きです。このようなうまい投資話、アパート融資は、多くの場合いつかはそれぞれの関係者のだれかがババを引くのでしょうね。それは個人というか、事業者というか、それぞれの経営責任でしょうね。だいたいそんなことだけで相続税対策というのはあまりに品がないですね。

 

相続税対策なら、少しは社会的な意義・価値を考慮してもらいたいものです。ビルゲイツを含め、アメリカの起業家は、それなりに相続税対策を考えているのでしょうけど、他方で、環境保全や社会経済的・福祉的価値に投資を行っていますね。

 

ではこのアパート融資はどうかというと、空き家対策と矛盾するというか、整合性がとれているとは思えません。むろん空き家対策は、行政が行うもので、事業家や故人は関係ないというかもしれません。

 

また、人口減少社会に突入し、借りても当然減っていく中、人口減少問題を等閑視して、自分の相続税対策や、融資残高増を増やすために、アパート融資を将来市場や社会を見据えないで増大していていいのでしょうか。まるで赤信号みんなが渡るからではないでしょうか。

 

いずれの問題も、アパートの増加と関係しているはずです。他方で、空き家対策にはなぜ経営資源を投じないのでしょうか。あるいは行政と協力して新たな事業への融資を考えないのでしょうか。また、人口減少への対策は数限りないですが、その一つ、保育所などの施設建設への融資にはどうしてもっと傾注しないのでしょうか。

 

また、現在どのような既存土地がアパート建築に活用されているか、資料がないのでなんともいえませんが、もしバブル期みたいに、郊外の農業振興地域内農地を転用してアパートになっているのでしたら、それこそ都市計画で目的としているコンパクトシティ構想と相容れないですし、ますます上下水道・ゴミ処理などが拡散して多大なコストを行政がふたんしないといけないことになりかねません。現在の法システムでは、そういった外部費用ともいうべき社会的費用の増大について、都市計画がコントロールできてなく、それをいいことに、相続税対策とか、ゼロ金利対策ということで、アパート融資の増大を放置していると、将来に禍根を残すことになるでしょう。

 

ちょっと脱線しますが、最近和歌山県は、林業分野で経済的利用エリアをかなり絞り込み、重点エリアとして、その中でしか搬出間伐を認めない方針に変更しましたが、アパート建築などについても、ゾーニングを新たな方針の基に検討する時代ではないでしょうか。本来のゾーニングは、欧米の例をみればわかりますが、それが当たり前で、決して財産権の侵害といった問題にはなりえないのです。それだけの合理的な理由と裏付けが必要ですが。

 

なお、毎日記事の具体的な紹介はしませんが、その問題の一端であるサブリース問題は以前から消費者問題などとして被害が発生しており、<サブリース契約に関わるリスク・注意点の一覧>やこの問題に対処している弁護士グループ<サブリース被害対策弁護団>の内容も参考になるかと思います。

 

私の問題意識がうまく伝わったかわかりませんが、そろそろ一時間になるので、これで終わりとします。