170626 医師と倫理 <医療事故 頻発医師27人、日医が指導・勧告 13~16年度>を読んで
最近は早朝の読書(といっても一時間くらいですが)が楽しみになってきました。私の関心事、紀ノ川の歴史的な変遷、流域の土地利用、そこに生きる百姓(農民を含めた多様な職業者)の生き様など、わずかながら文献を読み解くにつれ、おぼろげながら見えてきたりするものがあります。近世では有吉佐和子著助左衛門四代記 』はさすがという内容です。渡辺尚志著『百姓たちの水資源戦争』は河内南部(石川と大和川の合流地点付近)の近世水利戦争を扱っていますが、現代アメリカの水戦争には劣りますが、18世紀の百姓にみる合理的な主張立証の戦略を訴訟等を通じて明らかにしています。
で、いろいろ乱読していると面白いのは先日援用した木下晴一著『古代日本の河川灌漑』が取り扱っている中で、ほぼ似通った地域の古代版を取り上げていて、比較するのに面白いのです。前者は水利権論的なアプローチですが、後者は河川工学や技術論的なアプローチが中心で、多面的な理解が可能になります。
そういえば、皇太子殿下(一応敬称を付しておきます)がコペンハーゲン訪問中、地元の人と一緒に「自撮り」をしたということで、話題になっていますが、皇太子もまもなく天皇になるわけで、自らの象徴天皇像を体現しようとしているのかな、なんて勝手な推測までしてしまいます。
しかし、皇太子は、戦後の人間宣言した象徴天皇制を、今上天皇・皇后の日々の姿を見てきたわけで、元々自分の考えをできるだけ体現してきたのかもしれません。といって皇太子の行動に関心があるわけではないので、とくに知っているわけではありませんが、紀ノ川との関係で言えば、皇太子が国連などで水をめぐる研究成果を発表していますが、平成27年11月には「人と水とのより良い関わりを求めて」というタイトルで、紀伊国(現在の和歌山県北部)に成立した桛田荘(かせだのしょう)の絵図などを示しながら、ため池灌漑だけに頼っていた時代から紀ノ川支流の静川からの灌漑用水を利用していく展開を示して、水路ネットワークの話をされています。そして皇太子は実際、その灌漑用水を見聞するため、以前私が紹介した宝来山神社まで訪れています。皇太子の長年にわたる国連でのスピーチは一貫しており、その確固たる姿勢は、将来の象徴天皇像に新たな一ページを飾るにふさわしいものになることを期待しています。
と長々と前座が続いてしまいました。本論は軽くしたいと思います。
毎日朝刊大阪版は一面トップに<医療事故頻発医師27人、日医が指導・勧告 13~16年度>を掲載しています。それほど重大なことかといぶかしむ人もいるかもしれません。
しかし、事はやはり重大です。<日本医師会(日医)が、医療ミスや不適切な医療行為を繰り返していたとして、2013~16年度の4年間で医師27人に再発防止を指導・勧告していたことが、25日分かった。日医会員が医療事故に備えて加入する保険の支払い請求が多いケースについて、治療経過などを調べて判定した。>というのです。
この記事を見て驚いたのは、<医療ミスや不適切な医療行為を繰り返していた>ことが放置されていたということ、それに対する措置が<4年間で医師27人に再発防止を指導・勧告>で終わっているということです。
医療ミスは一回でもやれば大変な事です。それを繰り返すことを放置してきたことになります。それでは監督主体として日医は適切な体制がとれていないことにならないのでしょうか。
このリピーターについて、<ミスを繰り返す医師は「リピーター」と呼ばれ、重大な医療事故が相次いだ1999年ごろからたびたび問題視されてきた。昨年12月には、愛媛県内の産婦人科医院で05年以降に死亡3件を含む6件の重大事故が起きていたことが発覚し、県が立ち入り検査した。>ということですから、行政もお粗末な状況ですね。
そもそも<リピーター医師を見つけ出す国の仕組みはなく、15年10月に始まった「予期せぬ死亡」を第三者機関に届け出る医療事故調査制度でも、把握できない。>ということで、医師は信頼できるという前提に制度ができあがっていますが、現実離れしているといえないでしょうか。
<対象となった医師は、地元の医師会から、重い順に▽指導▽改善勧告▽厳重注意--のいずれかを受ける。東京都医師会はこれまでに3件の指導をし、幹部が事故の経緯を聞き取った上で、危険性の高い手術を今後行わないと誓約する書面を提出させるなどしたという。>
これでほんとに大丈夫といいたくなりますが、医療事故訴訟を手がけてきた立場からの一面的な見方でしょうか。
一緒にしては申し訳ないですが、弁護士も昔は自由と正義を担う信頼される存在と言った建前?からか、弁護士法に基づき懲戒制度があり、依頼者などからの申立により懲戒処分を行ってきましたが、手ぬるい、迅速な対応ができていないなど批判があがり、最近はかなりスピードアップして、懲戒処分を受ける弁護士も相当数になってきています。毎月送られてくる日弁連の「自由と正義」でよく見るのはその欄です。名前の知っている人も時に出ていて、その懲戒事案の概要もわかるので、他山の石にしています。
弁護士の場合、問題があれば、懲戒申し出制度があるので、依頼者などの主観的な思いからでも申立を受け付けるので、申し立てられた弁護士は大変です。そして最近は驚くほど、弁護士倫理の基準が厳しくなってきました。いずれも弁護士にとっては結構な負担となりますが、襟を正すためにはやむをえないでしょう。弁護士が増えてきて、信じられないような不祥事というか、ミスというか、適切さを欠いたというか、さまざまな問題を起こしているのですから。
では医師の場合は、そういう制度がなくてよいのでしょうか。医師の倫理観にゆだねることでよいのでしょうか。
かなり昔のウェブ情報<日医「医の倫理シンポジウム」報告>があり、西欧諸国では医師に対する倫理基準あるいは懲戒的な制度が確立しているようです。15年も前の議論ですが、事態は進展していないようです。そういう意味で毎日記事は十分意味のあるものと思います。
いろいろ話題があったのですが、少々疲れてきましたので、今日はこの辺で終わりにします。