170612 弁護士の未来(3) <20回弁護士業務改革シンポ・自治体連携>を取り上げる
今朝も早暁の朝焼け前に目覚め、最近恒例となった「この国のすがたと歴史」を読みました。あっちこっちを拾い読みしながら一時間くらい楽しい時間を過ごします。いつも目から鱗を感じさせる内容なのです。たとえば帆船について、森浩一氏は岐阜県大垣市の荒尾南遺跡で、弥生時代のお墓の溝のところに小さな壺が埋めてあったのを94年発見された話を持ち出しています。その壺に見事な帆船が描かれていたというのです。しかも帆柱だけでなく、左右に80本くらいの櫂で漕いでいる船の絵もあったというのです。遅くとも3世紀にはその土器があったとのこと。
翻って遣隋使船や遣唐使船として想像されている船は帆船であっても、櫂で漕ぐ形ではなかったかと思います。それが7世紀のレベル。しかも小さい規模です。ですから8世紀に至っても空海が参加した遣唐使船4隻のうち、最澄が乗っていた船のみ無事に中国の地に着岸したものの、後は難破したり、空海の乗った船も遠く流されています。風任せですね。これがどうしても不思議に思っていたのです。
クレオパトラを巡って争ったギリシア沖の大戦では大型帆船でまさに何十人もの漕ぎ手によって力強く走行する軍船が活躍していることが映画などで表されています。紀元前の話です。その頃わが国は伝馬船に近い小型のボートといった船以下しかなかったかのような理解ではないかと思います。
しかし、森氏が指摘する壺の絵柄ではローマ帝国の軍船とまでいかなくても相当の規模の船が紀元3世紀には出現していていたことをうかがうことができます。伝説的な戦う女帝ともいうべき神功皇后も、そのような船を使って戦闘していたのかもしれません。書記では4世紀末頃の話ですが、わが国の造船技術がそれほどレベルが低かったとは思えないのです。
そもそも縄文時代は交易の時代だったかもしれず、それも太平洋・沿海州を自由に行き来していたかもしれません。それに相応する船は、森氏が指摘するような船ではないかと想像してみたい気がします。
わが国の造船技術の優れていることは、戦国期まではあまりわかりませんが、信長が西洋船の技術を応用して作らせた鉄で船体を構築した船や、幕末期にプチャーチンが乗ったロシア船が難破して大破したとき、伊豆の大工がロシア人に教えてもらいながら海洋船を作り、その船で帰国したというのですから、営々として引き継がれてきた造船技術はDNAとして潜在的に蓄積されているのではないかと勝手に想像しています。
さて、仕事が急に入り、いつの間にか6時を過ぎてしまっています。今日のお題は簡潔にしたいので、以前も取り上げた見出しのテーマの続きにしたいと思います。
実は前回の弁護士紹介制度の次が小規模法律事務所の経営ノウハウという多くの弁護士が抱え得る問題です。私が教えを請うた事務所はこの道では先駆け的な弁護士で、東京で成功した一人でしょうか。恩師のやり方は弁護士業務として見習うことは多々ありました。基本的な事が多かったですが、時間を守るとか、顧問先から質問があれば素早く文書で回答するとか、スピードと正確性を重視する事務所でした。その結果、顧問先も上場企業を含め多数あり、顧問料だけで事務所経営が成り立つ状態でした。それが35年以上前にできあがっていたのです。その要素は多数ありましたが、残念ながら、私は事務所にいる間はなんとかこなしていたように思いつつ、独立したとたん、ほとんど自分の性分と異なるためか、自分のものにできていなかったように思います。そんなわけで、この経営ノウハウというのは私にとって苦手な一つなので、パスすることにします。
で、次の自治体との連携における諸課題を克服するというテーマについて、少し語ってみたいと思います。つい最近まで自治体に弁護士が職員として入るということはありませんでした。弁護士が関与するのは、顧問や審議会の委員とかが一般的で、あくまで外部の専門家という立場での関与だったと思います。
ところで北米に調査などいくと、自治体のほとんどが弁護士スタッフを抱えています。法制度が弁護士を必要としているように思えます。たとえば、サンフランシスコだったか、シアトルだったか、20数年まえのことで少しはっきりした記憶がないのですが、環境アセスメントの制度運用をヒアリングしたとき、担当したのは弁護士職員でした。数人いたと思います。アメリカの環境法制は、市民訴訟条項などで、だれでもが個々の環境法令・条例に基づき訴訟提起できることから、自治体においても、各部門に弁護士スタッフを用意しています。わが国のこれまでのように、弁護士が訴訟になって初めて代理しても、迅速かつ的確にできるかというと、残念ながら相当部分を国でも都道府県でも、市町村でも、職員の担当部署の知見が求められています。それでは間に合わないと思っていました。
とくにアメリカの環境法制のダイナリズムはとても生半可な法律知識では対応できませんし、フォローするのも大変です。スタッフに弁護士を必要とするのは当然の成り行きです。
ではどのような活躍が可能かですが、日弁連ニュースで指摘されているような、「福祉、条例制定支援、公金債権管理」などはそのほんの一例でしょう。しかし、たとえば条例制定支援といっても、条例と法律との関係について相当しっかりした解釈論を準備し、かつ、議会へのロビー活動も含め、国の法令とどう調整するか、など高度な判断が求められ、また首長自身の指導力、英断も必要ですが、そのように首長をリードする能力も必要でしょう。
現在自治体で活動している弁護士はわずか100名を超える程度です。横の連携を図ってより実践力を培つとともに、使い道を他の行政職に理解してもらう必要があるでしょう。
私はカナダで、環境弁護士として最高裁まで州政府と闘った人が、今度は国のエネルギー委員会の事務局に入り、そこで行われる環境アセスメントの公聴会の中で法律顧問的な役割で、委員や参加者に対して法的運用をリードしている姿を見たことがあります。
弁護士は、様々な会議体の運用について、会議体の本誌的なあり方という基本的視座に立って、運営のあり方を適正にリードする能力を持つ人が少なくないと思います。中には軽視来て手続き論を声高に言って、円滑な運営に支障を来すようなこともあるかもしれませんが、それはごく例外ではないかと思うのです。
また、自治体の行政運営で不祥事が結構起こっていますが、第三者委員会として事後調査して是正策等を勧告することも重要な役割でしょうが、事前に、コンプライアンスとかガバナンスを適正に実施させることも、企業だけでなく自治体においても求められることであり、まさに弁護士が対応できることではないかとおもいます。
で、まちづくりや都市計画の分野にも、どんどん参加してもらいたいと思っています。北米の都市は個々にゾーニング条例を策定し自主的なまちづくりを法的に行っています。そしてちょっとした都市だと、都市計画の部署には弁護士が10人ないし20人くらいスタッフとしていることもあります。それくらい法的問題が多いのです。わが国はいわば中央集権的都市計画の実態ですので、開発許可権限とか建築確認権限が首長なし建築主事に付与されていますが、その要件が厳格で裁量の可能性がわずかなため、法的判断が問題になりにくい、その分画一的なまちづくりが行われることになってしまっていると思っています。
多少言い過ぎたこともありますが、一時間で書き上げようとしたので、内容も思いつくままとなりました。この辺で終わりとします。