170621 高層ビルの危険 <ロンドン火災「釜山、上海と似る」>などを読んで
今朝は久しぶりの雨。とはいえ小糠雨程度でした。予想ではかなりの降雨量が各地で発生するような予報でしたが、当地はほんのおしめり程度でした。これでは田んぼや畑をもつ農家にはとても恵みの雨とはいえないでしょうね。
わが家から見る近景はスギ・ヒノキ林、中景は谷底に広がる柿畑と棚田状のわずかな田んぼ、そして谷から上る丘陵部には低層の住宅地、その手前は白壁の蔵のある瓦屋根の家が点在しています。そして遠景は高野の山々から西方に和歌山市近くまで延びる低山が連なっています。
なによりいいのが、高層ビルがないことでしょうか。当地にも数えるほどですが10階建て程度のビルないしマンショが数えることができるくらい、ほんのわずかにあるくらいです。この紀ノ川南岸になるとそういった高層建築物もなく、まさに農業振興地域らしい風景となります。そこになにか住宅地・商業地・農村としても、安らぎを感じるのは私だけではないのではと思うのです。
消防署も小さいのが市役所そばにありますが、高台に多少大きめのがあり、それ以外に地域によっては地元で消防団が作れ、消火活動の補助的役割を担っているようです。時折消防車のサイレンが鳴りますが、大過なくきているように思えます。いわゆる木造密集地域がありますが、それぞれの長年の注意で、大きな火災にはなっていないようです。
さて今日は、もう6時をすぎてしまいましたが、報道ニュースを見ても、加計学園問題や豊洲市場問題などがいつものように賑わっていて、ちょっと食指が動かず、何日か前の日経アーキテクチャの記事を思い出し、見出しのテーマで書いてみようかと思います。
この<ロンドン火災「釜山、上海と似る」>の記事では、<英国のロンドン西部に立つ高層公営住宅で6月14日午前1時ごろ(日本時間14日午前9時ごろ)に大規模火災が発生した。24階建て(120戸)の「グレンフェル・タワー」は最上階まで炎に包まれた。>とされています。
私もTVでほんのちょっと垣間見ただけですが、すごい火炎でまるだタワーインフェルノの映画を見ているようなかんじになりました(中身は覚えていませんが)。わが国でもこの種の外観がすっきりした形の高層ビルが増えてきましたね。いやこのレベルではなく、2000年代ころからはこの2倍近い超高層ビルが林立するようになったと思うのです。
私自身は、若い頃は高いところが好きでしたので、高層マンショにも住んでみたい気持ちもありましたが、せいぜい10回程度のマンションに住んだくらいでした。90年代中葉以降は戸建て住宅しか住んだことがないのは、そういった高層マンションに興味がなくなったというよりは、その周辺に与える影響を考えると、戸建て住宅を選択することになったのかなと思うのです。
最初の感覚は、カナダ・バンクーバーで、当時、香港が中国に返還されるということで、多くの香港人・資本が海外に移民したのではないかと思います。その中でも、バンクーバーは割合、移民受け入れも寛容で、住みやすかったのではないかと思うのです。で、私がバンクーバーを訪れたのが94年でしたが、そのころ、建築ラッシュで、外装がガラス張りのような高層ビルが軒並みに建っていました。たしかに外観はきれいに見えるともいえますが、私自身は興味がそがれてしまいました。むろんバンクーバーはたしか5つくらいの市が大バンクーバー都市圏を作っていて、インフラなどを共同化していた記憶で、郊外はすてきな住宅街が広がってはいましたね。
私の友人の教授はカルガリーに住んでいましたが、バンクーバーは以前の面影がなくなり、地価も高くなる一方だし、あまり住みたいとは思わないといって、私と同じ思いを抱いていました。
で、余談を挟んでしまいましたが、本論のロンドンの高層ビル火災の原因についてはまだ事実関係が明らかになっておらず、ここでは建築専門家のいくつかの推論を踏まえて、考えてみたいと思います。
まず、防耐火技術に詳しい早稲田大学創造理工学部建築学科の長谷見雄二教授は、いくつかの推論を示しています。
長谷氏は過去に起こった<2010年10月に韓国の釜山で起こった高層ビル火災(38階建て高層雑居ビルの4階から出火、外壁沿いに上層まで延焼した)や、中国の上海で10年11月に発生した超高層住宅の全焼火災(28階建て高層住宅の火災で58人が死亡、関連記事はこちら)と基本的に構図は同じだ。>というのです。
何がかというと、<「基準整備の立ち遅れ」や「工事現場の安全管理のずさんさ」という要因>です。それは<欧州ではきちんとした実験的検証をせずに、計算づくで基準をつくってしまう傾向>であるとか、<「施工の問題」や「複数部材の接合部などをどう扱うか」というような点を軽視し過ぎている>とかの問題です。
より具体的な指摘があります。<「断熱のある外装(外断熱工法)の防火基準は、火災対策からみた場合にあいまいな点>があり、それは<外装に火炎が侵入しないようにする処置の仕方だ。断熱材や空隙のある外装を建物躯体の外壁に施工する場合、火災で火炎が窓から出てくると、外装・躯体間に火炎が侵入して煙突のように火炎が広がり大問題になる。火炎が侵入しないようにする必要があるが、その処置が明確ではない。>
たしかに外装部から炎上が広がっているようにも見えます。しかも<隙間ができないようにしたり、火災で加熱されたときの変形が生じないようにする方法が、どんな外壁や窓枠でもうまくいくようにするのは、容易ではないのではないか。>と施工方法の困難さを指摘しています。
長々と引用しましたが、現在わが国も外観がきれいな高層ビルがどんどんできあがっています。そして従来、マンションなどでは内断熱が中心だったと思うのですが、外断熱の有効性が強調されるようになり、欧米の外断熱方式が採用される場合も増えてきたのではないかと思うのです。その場合に、上記のような指摘がわが国の高層ビルにも妥当する可能性も感じてしまいます。
もう一つの記事<ロンドン火災、外観形状も延焼の速さに影響か>は、現在は火災原因の鑑定業務などを手掛けるベルアソシエイツ(東京都大田区)の鈴木弘昭社長の見解です。それは形状の点でも、住居系ビルの場合はベランダが多いわが国ですが、事務所系だとまさにこの推論が妥当しますね。
<火災現場となった高層マンションは外観はほぼ角柱状で、外側にバルコニーなどの突起物らしきものが見られない。こうした建築物で火災が発生した場合、建物外側に生じた炎は外壁に沿う形で上階に昇っていく。その際、バルコニーなどの突起物があれば、上昇する炎にとって障害となる。炎は建物の外側に巻くような形で伸び、上階の開口部からはやや離れることになる。>というのです。
<建物の外側に障害となる突起物がなければ、炎は外壁に沿う形で上に伸び、上階の開口部に直接接することになる。開口部に耐火ガラスなどを用いて炎の室内への侵入をある程度防いだとしても、輻射熱で室内のカーテンなどが発火するケースは少なくない。そうして上階の室内にも延焼が広がり、火の勢いはさらに増す。>
あのバルコニーの突起が外壁部からの炎上が上昇延焼するのを妨げる役割を果たすなんて、想像もしませんでしたが、滑らかな外壁線が容易に炎を上昇させるのを加速させるというのはなんとなくわかります。私の野焼きの経験からは、炎は基本的に上昇しますね。ただ燃焼物質がなければ炎自体は途中で空中で小さい火花となって飛び散る程度で終わります。でも燃焼する物質とかがあればどこまでも上っていきますね。
私はシュロの木で体験しました。偶然、近くあった高さ7,8mのシュロの木の根本付近に野焼きの火の粉が飛んでいき、あっと思った瞬間、木のてっぺんまで燃え広がりました。シュロの表皮は燃えやすいので黒焦げになりました。中身は燃えていませんでしたが。外壁部も外断熱方式で、一旦、一定の高熱になると、燃焼物質として最上階まで広がることを容易にするのかもしれません。
この点、<複数の報道によると、このマンションは外断熱方式だったという。外装材の継ぎ目と見られるラインで、炎が内側から外側に出るように上がっていた点は、そうした情報と合致する。>継ぎ目の問題という指摘でしょうか。
またこういう指摘もしています。<外装材自体は燃えなくても、熱によって断熱材が溶けてガスが発生し、パネルの継ぎ目から放出。それに火が付いて延焼範囲を急速に拡げたというメカニズムだったのではないかとみている。>
外観のよさはあっても、防火対策が的確にできていないと、高層ビルは、危険な建築物の象徴になるかもしれません。わが国の高層マンションについても言及がされてもよいかと思うのですが、いまのところそのような議論は見当たりません。
もう一時間を超えてしまいました。今日はこの辺で終わりとします。