なんくるないさぁ~だんな と わたし と SLE と

  12歳SLE発症。ループス腎炎Ⅳ型。
早発閉経で妊活強制終了。子なし人生の幸せ模索中。

暇なので小説風に…

2018年04月10日 | 志織のあしあと
「190×160の朝」

個室から大部屋へ移動して2日が過ぎた。大部屋は驚くほど狭い。ベッドはもちろんシングルベッド。狭すぎてTV台はベッド側に向けられない。見舞客の椅子すら置けない。

ベッドの大きさから予測すると患者の1人分のスペースは190cm×160cmくらいの広さだろうか。見舞客はみんな立って話すかベッドに腰鰍ッる。外界の雑菌がウヨウヨついた見舞客が患者のベッドに腰鰍ッるのは感染症対策としてどうなのかとも思う。しかし、愛する家族や親しい友人のコトを思って訪れ、入院生活の息抜きのひと時を過ごす見舞客にむかって、さすがに看護師も「ベッドに腰鰍ッないで下さい」とは言えないのだろう。なによりも物理的に病室が狭過ぎる。

カーテン1枚で隔たれた隣のベッドも近い。下手すると寝息まで聞こえてくる。カーテンに向かって寝るということは隣の人とかなりの至近距離で顔を向かい合わせて寝ているのかもしれない。

入院している旧建物の病棟は本来4人部屋が妥当だと思われる広さに無理やりベッドをギュウギュウに詰めて6人部屋にしている。整形外科や小児科、産婦人科などは新建物の広々とした4人部屋。内科だけで全入院患者の半分以上を占めて旧建物を占領してしまってるので仕方ない。

病棟の朝は早く、カーテンの外はまだ薄暗い中、バイタルチェックの為に強制的に起こされる。朝のバイタルチェック担当は夜勤のナースだ。ナースにとっては長い一日の最後の一仕事ってわけだ。何のためらいもなく「おはようございます。血圧測りますね」と患者を起こす。ルーティンのバイタルチェックだけならまだいい。血液検査が必要で採血がある日は、まだ採血に不慣れな新人Dr.に何度も失敗される。そんな日は否が応でも目が覚める朝を迎えるが、どうやら今日は採血は無い。

血圧計を持った看護師に促されて右腕を差し出す。血圧計の加圧が腕を締め付け、右腕にわずかな痛みが走る。あ、そうか。と点滴のために針が刺さっていたことを思い出す。血圧計の加圧が下がるまでの、数秒間、血管の中で針が今どうなってるんだろう?と考えながら、我慢できない程でも無い痛みに耐える。「110と85。正常ですね(^。^)お熱を測ってて貰っていいですか?」と、体温計を渡してナースは一旦ベッドを離れ、隣のベッドの患者を起こす。「おはようございます。血圧測りますね」つい数分前と同じやりとりが隣のベッドでも始まる。

大部屋の窓際。せっかく窓際でも私の病気は日光に当たる訳にいかないので一日中カーテンは閉じたままだ。それでも毎朝、数分だけカーテンを開けてみる。体温計の測定完了の合図の電子音が鳴るまで、しばし外の景色を眺める。ひとつ道路を隔てた向こう側は、どの店もシャッターを下ろしたままで、まだ夜明けを迎えていない。自動販売機だけが煌々と光を放っている。向こう側から見た病院はどれだけ眩しく光りを放っているのだろう。そもそも救急病院なので24時間この周辺に光りを放ち続けているのであろう。窓から漏れる病室の光。そのひとつひとつに命がある。命の光。私は今その光の一室にいる。

5階の病室から見下ろす駐車場には通院患者だと思われる車が次々と入ってくる。通院患者の来院は早い。まだ診察が始まるまで3時間以上はある。診察の順番を取るための通院患者たちの熾烈な順番争いだ。私だって入院患者でなく、通院患者の時は同じだ。待ち時間の流さで有名な我が病院。少しでも早く診察を終わりたいと思うのは誰もが同じというわけだ。

ピピピピッピピピピッ。

体温測定完了の電子音が鳴る。「体調に変わりは無いですか?」「はい。大丈夫です」「ではまた後で」体温計を受け取ると看護師は隣のベッドで同じやり取りを始める。「体調に変わりは無いですか?」。

朝食までまだ時間がある。TVを付けてニュースを見る。病室ではイヤホン必須。どんな時間にTVを付けても病室内は静かなまま。自宅で毎朝見ていたニュースも入院中に見ると特別なものに見えてくる。「今日の占い」が1位でも、何も嬉しくない。入院しているのに1位は無いだろう。運勢的には退院するまでずっと最下位のはずだ。星座占いなんてそんなものだ。

外が明るくなってきた。道路の向こう側のシャッターはまだ閉じているが、太陽の光を感じたシャッターは確かに夜明けを迎えているように見える。太陽の光が病室に差し込む。私はカーテンを閉める。カーテンを閉めても太陽が代わりに光りを放ってくれるだろう。90×160。これが今の私の命の居場所。今日も病室での長い1日が始まる。





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