今年度もあと少しで終わりですね。
毎年買っている有元利夫のカレンダー、三月は「覆われた時計」となっています。
この絵のタイトルには画面にはない時計という小道具が書かれています。
へぇ、どんな時計なんだろ?とか思う訳ですが、有元さんは実際に制作時には時計を描いていたそうです。
しかし、人物と時計の意味関係が強くあらわに出過ぎてしまう気がして赤い布で覆ってしまったのだとか。
でもその関係が全くなくなってしまうのも困るからタイトルで種明かしをしたそうです。
もともと有元作品はシンプルなタイトルが多いのですが、この作品に関してはそういう経緯で捻りを感じます。有元さん自身もタイトルは見る人を絵の奥へいざなうことが出来る入り口と言っています。
タイトルと言えば、私も学生の頃に絵を制作したあと、小さな公募展に出す為に題名をつけなくてはなりませんでした。
題名を考えて描いていなかったのでかなり悩んだことがあったのを思い出します。
絵は人物画で、自分の母が洗濯物をたたんでいる様子を描いたものでした。背景に青い空の窓があったので、天気のタイトルをつけようと考えつきました。
できたら長雨のあとの晴天がいいなとあれこれ考えて、梅雨の合間に晴れる日にしようと思いました。
そこで何か正式な気象用語でもあるかもと、気象台に問い合わせたのです。
今思うと笑えますが、気象台の方も「うーん、梅雨の晴れ間?とか梅雨晴れとか?特に呼び方はないのですけど…」
という回答。
まぁ、絵のタイトルなのでイメージでよいか、と「梅雨晴れ」にしました。
その後、ありがたくもその絵は小さな賞をいただいたのですが、大学の先生や公募展の関係の方が
「この絵はタイトルが良いね」(そこ?笑)
とか、
「どーんとお母さんを描いて梅雨晴れってのがいいね。」
と言われました。
捻りを効かせたつもりはないし、母を描いたのも、実は元は大学の課題でもあった「人物画」だったからなのです。
ただ、人物画とは言え背景に情景的なバックにしたせいもあり天気のタイトルになった。
単純な経緯ではあるけれど、タイトルは少なからず作品に影響する。
改めてそんなことを感じた経験でした。
有元利夫のカレンダーの月が変わるたび、近眼の目で小さなタイトルを除き込む。
そしてもう一度絵を観る。
そんな小さな愉しみも絵を観ることのひとつなのだなぁと思います。