もう何年も前の話になるが、とある企業で私が派遣社員をしていた頃、ちょっと変わった仲間達との出会いがあった。
今までに私は様々な職種で色々な職場で仕事をしたことがあるけれど、この派遣社員の頃が一番のびのびとしていたように思う。
その職場は正社員はわずかで、ほとんどが派遣社員で構成されている部署。
立場は同じような人ばかりだけど、年齢や前職の職種は実に様々だった。
子持ちの主婦もいれば、前職が公務員、美容師、調理師、アパレル販売員、バンドマン・・・と、その、企業にはまるで関係のない経験の持ち主がたくさんいた。
当然 趣味も嗜好も違う。
そんな中 まだ配属されて間もない私に席の近かった同僚から一枚の紙を渡された。
そこには
「あなたもひげ部に入部しませんか ー」。
ひげ部・・・。
紙は何故かオウム心理教の麻原氏をパロった感じで髭を強調した写真入り。
用紙は一見怪しげだけど 宗教などではなく、ちょっとマニアックで面白く気の合う数人の女子のグループである。
大勢の派遣社員の中の一部の人で勝手に部活と称し、活動していたのである。
彼女たちは アートや映画、音楽や演劇などかなりカルチャーなこだわりの趣味を持つ人達だったのだ。
用紙には丁寧に 入部希望者の氏名記入欄があり、ひげ名…とまである。
一応その仲間の中には部長やマネージャー、幽霊部員…という肩書きの人までいた。
結局、私は ひげ名や肩書きなどはないままに入部していた。
ひげ部の活動はこれといって決まったものはないけれど、部員の中には劇団に入っていたりバンド活動をしていた人がいたので 芝居やライブを他のみんなと観に行ったりした。
冬になると、部員の自宅でクリスマス会もやった。
写真を撮るのも結構好きだったので、撮影会をやろう!と野外でピクニックがてら集まれば 皆一眼レフカメラを手にしていた。
パソコンも強い人達だったので、苦手な私は年賀状作りなどでもお世話になった。
仕事中もOA用紙をいかに無駄なく使うか工夫を凝らし、ちょっとしたエコ活動にもこだわったりしていた。
とにかく色々な意味でその仲間から教わることが多かったように思う。
自分はその時 既に30代になっていたが、まるで学生のような刺激的な日々だった。
そんなこんなで、現在までに疎遠な期間がありつつも、なんらかの繋がりを持っている仲間たちである。
私よりだいぶ若い人たちだが、そんな彼女達も今ではママになり育児に励んでいる。
数年前には 「ひげママ会」なんてこともやった。
相変わらずマニアックな話題も飛び出す。
何年経っても感覚は変わらない。
・・・ところで 「ひげ部」。
実は名前の由来は今でも私はよく知らない。
ひょんなことから付いた名前だと思うけど、多分そんなに意味はない。
女子のグループだし、誰も髭なんて生えてない。
まぁいいではないか・・・という集まりなのである。