文部科学省とスポーツ庁で数年前から検討されてきた運動部活動の改革です。
令和5年以降に実施する具体的な方策として、2つの提言がなされています。
Ⅰ.休日の部活動の段階的な地域移行
Ⅱ.合理的で効率的な部活動の推進
この改革により学校教員労働時間や仕事量を軽減することができ、生徒は民間クラブで専門性の高い指導をうけることができるようになります。
この改革を全国展開するために2023年度から全国中学校体育大会(全中)に民間クラブから出場できることとなりました。
この取り組みは高等学校においても同様の考え方をもとに取り組みを実施することと提言されています。
つまり数年以内にはインターハイにも民間クラブからの出場が可能となるということです。
現在、ほとんどの競泳選手はスイミングクラブに所属して練習していますので、運動部活動やスポーツのありかたを考えるとこの改革は確かに「合理的」です。
しかし「合理的」な改革で失われるものもあることを認識する必要があると考えています。
失われるものとして確実なのは、長年続いてきた学校対抗の全国大会である全中やインターハイです。
おそらく全国中学校体育大会やインターハイという名称も変わることになるでしょう。
私たちのように全中やインターハイの総合優勝を目標として活動している部活動は、チームとしての最大の目標を見失うこととなります。
私が影響を受けた思想家は、イギリスのエドマンド・バークです。
バークはフランス革命に反対し、『フランス革命の省察』を著しました。
フランス革命はそれまでのフランスの歴史や伝統をすべて否定し、人間の理性を絶対視することで一から国家を形成しようとした改革です。
フランス革命における農民の反乱は全土に及び、ギロチンによる大量処刑やクーデターが繰り返され、多くの人の血が流されました。
バークは人間の理性に基づく「合理的」な改革の危険性を主張しました。
祖先が築いてきた歴史や伝統は先人の偉大なる知恵であり、人々の生活にバランスをもたらし、物事を安定させる力があります。
人間は不完全であり、その判断が常に正しいとは限らないため、先人の知恵がその助けとなるわけです。
急進的な改革による変化は、それまで受け継がれてきた大切なものを失わせる可能性があります。
それをバークは『フランス革命の省察』で次のように表現しています。
「生活についての古来の思想や貴族が取り去られたとき、その損失はおそらく計り知れぬものがあります。まさにその瞬間から我々は、自らを治めるための羅針盤を持たず、一体どの港に向かって舵を取っているのか、しかとはわからなくなります」
歴史や伝統の破壊は、海上に浮かぶ船に乗りながら方向性を見失い、どこを航行しているのかもわからない状態に陥っているのと同じであるということです。
確かに学校の運動部活動に伴う課題は多いと思いますが、一方でそれが続いてきたことにも大きな理由があるはずです。
私たちにとって「運動部活動の地域移行」というのは、部活動の存続にも関わる大きな改革です。
日大豊山水泳部は創部が1912年であり、100年以上にわたって諸先輩方が築いてきた歴史と伝統があります。
それが「学校水泳」であり、「55の教え」です(水泳部HPをご覧ください)。
今回の「合理的」な改革が先人の知恵ともいうべき歴史と伝統を失わせないものであることを祈るばかりです。
旧校舎の写真です。
2011年の総合優勝
竹村知洋