山岳ガイド赤沼千史のブログ

山岳ガイドのかたわら、自家栽培の完全手打ち蕎麦の通販もやっています。
薫り高い「安曇野かね春の蕎麦」を是非ご賞味下さい

13初冬天狗岳12月2,3日

2013年12月03日 | ツアー日記

 唐沢鉱泉から上って黒百合ヒュッテへの道はうっすらと雪が積もってはいたものの、この所の冷え込みで雪質は乾いていて、歩く度にギュッギュッと靴が鳴る。こんな時はアイゼン無しでも足下は滑らなくて具合がいい。雪の量はまだまだ薄く数センチから多くても10センチぐらいだろう。それでも、里から見上げる八ヶ岳はすっかり雪が被ったように見える。それも多分この冬の寒さが原因で、そう多くはない雪が融けないでいると言うことだ。

 2時間ほどで今日の宿「黒百合ヒュッテ」に到着した。ここは僕が大好きな山小屋の一つ。小屋の中も外も、昔ながらの風情を色濃く残す。その基本的な造りはあくまで華奢な感じの和風なもので、土間から一段あがった板間は、かつてそこには囲炉裏があったのだろうと容易に想像出来る。猟師や木樵達が拠り所とした・・・・まさしくそんな風情だ。それを大切に、工夫をして使っている感じがなんとも落ち着くのだ。しかしそれは、ただノスタルジックというのではなくて、壁に掛かる画や、売品や、家具にはモダンでお洒落な雰囲気がある。そんな風情というものは、とうてい一日や二日で醸し出せるものではない。多くの人達が愛情を込めて、触り磨き暮らしてきたからこそにじみ出るもの。変わらず居ることの素晴らしさをこの小屋の人達は知っているのだと思う。何処を見ても暖かさが伝わって来る・・・・・・素晴らしいことだと思う。僕の家も築120年の古民家だが、こんな使い方を見習いたいと思うのだ。

使い込まれ磨かれたランプ


喫茶兼売店・・・・なんか落ち着く


いろんなバッジが売られている


ハイカラなワッペン(買ってくれば良かったと後悔している)


ヒモを引っ張るとカラコロ鳴る


可愛い膝掛け こんな気遣いがいいね


大型の薪ストーブ、力強い暖かさ


 板間には一つ炬燵があって、夕食までお茶を飲んだり、おちゃけを頂いたり。炬燵ってやっぱりいいな、文句なく和む。少々部屋の中が寒くても平気だし、他が寒けりゃみんなそこに寄ってくるし、そうすれば会話も生まれて自然と笑顔になる。しかも、なんと言っても炬燵は省エネである。こんなご時世、電力会社に原発再稼働の為の口実を作らすのもなんかシャクで、実は我が家でもこの冬から炬燵を復活させてみた。今も炬燵に足を突っ込んでこのブログを書いている。裸足の足がほんわか温かくて実に気持ちがいい。

 この小屋はほぼ全ての電力をソーラーで賄っているのだそうだ。小屋の脇には最新鋭のソーラーパネル施設があって、その生み出される電力の殆どは浄化槽の保温と酸素供給に使われ、残りを明かりやら何やらに使っているのだとのこと。だから、照明は控えめでほの暗く、これがまた素敵な雰囲気だった。

 夕方までは寒気の影響か、灰色の雲が八ヶ岳の上空を重く覆っていたのだが、夕食を頂いてから外に出てみると、その雲は嘘のようになくなって満点の星が輝いていた。ちょうど東から冬の星座の代表格オリオン座が上ってきていた。僕は中学生の頃星が大好きで、特に冬の夜空が大好きだった。オリオン座、双子座、牡牛座、おおいぬ座など冬の星座はとても解りやすいし、冬の星達はよく瞬く。キラキラ星っていうのは冬の星のことなのだ。これは気流のせいらしいのだが、夏の星は殆ど瞬かない。

 今ここで僕らが目にしている星たちは太陽を別とすれば近いものでも4光年、遠いものは132億光年の彼方に存在する。その光がそれぞれの時間を掛けてこの宇宙空間を突き抜け今地球に到達し、僕らはそれを一緒くたに見ているのだ。つまり、今生まれたばかりの光と、132億年前の光を同時に見ていると言う事は、宇宙の歴史そのものを見ていると同じと言えるのだ。そこにはもはや存在しないかも知れない天体も沢山あるのかも知れない。時間こそが空間であるとすれば、宇宙の果てのその先はいったいどうなっているのだろう?宇宙物理学者の中には、宇宙は人間がそれが存在するとイメージするから存在するとまで言う人もいるし。ああややこしい、僕には物理学者は無理だ。まったく不思議だね。

右にオリオン大星雲(1,600光年)、左の明るい星の横には馬頭星雲(1,500光年)わかるかなあ?フォトチャンネルでご覧ください。


窓ガラスに発達した霜


 翌朝、朝食を頂いてから天狗岳へ出発した。風は殆どなくて、気温はマイナス15度なのだがそれほどの寒さは感じない。太陽が当たれば体も心も安心感でいっぱいになる。昨日以上に靴がギュッギュッとなる。顔を上げれば、太陽の光が容赦なく目を刺すから、目を細めて歩く。途中でアイゼンを装着して難なく東天狗岳に到着した。硫黄岳、赤岳、阿弥陀岳、南アルプスや北アルプスまで、遮る雲は何もない。まだ冬山には中途半端と思われがちのこの季節だが、この引き締まった空気と、一年中でもっともクリアーな視界は今だけなのだ。人も少なくて、山小屋はゆったり快適である。日帰りで歩く登山者も目立った。

 

発達した結晶はまるで羽毛の様だ


硫黄岳、赤岳、阿弥陀岳


東天狗岳 遠く北アルプス


 西天狗岳へ上ってそのまま西尾根を唐沢鉱泉へ下った。雪も少ないので夏時間とさほど変わらず下山できた。この時期でもひとたび天候が荒れれば、そこは極寒の稜線であることは間違いない。だが、冬晴れのこんな日、さくさくっと歩ける八ヶ岳って、ほんとに魅力的。

 縄文の湯にて入浴、「みつ蔵」の新蕎麦をたぐる。この時期ならではの緑色を帯びた新蕎麦はとても薫り高くツルツルでなのであった。