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当たり前だが春は再生の季節である。今年は4月に入ってから毎週大雪に見舞われて、ここは冬山かと錯覚する様な山行が続いていたが、今回はようやく春らしい登山となった。
僕は元来冬が大好きである。何もかもが休眠し動きを止めてくれるから、追われるような感覚がなくて、しっかり一つのことに専念できるから。僕は百姓でもあるから夏は田の世話やら草刈りやら、蕎麦だって蒔かなくてはならない。野菜だってどんどん大きくなって人間の都合などお構いなしにそれぞれ自分たちを全うしようとするので、それらに追いまくられてガイド業が休みの日は森羅万象のお世話係をしているのだ。心の底から休めるのは大雨の日ぐらいなもんである。夏の僕の頭の中は恒に忙しさという混乱の渦の中にあると言って良い。
だが、春は冬の間何となく内省的になってしまった心の中にも否応なしに入り込み、カラフルな色をまき散らしたり、花粉症で完全に鼻を詰まらせたり、忙しさに僕を引きずり込んだりして、そんな個人的な感傷を忘却の彼方へと追いやってくれる季節でもある。辛いこともいつか必ず忘れていく。残酷でもあるのだが時はそうやって僕らを癒してくれているのだ、きっと。
さて、先週も登った笈ヶ岳ではあるが、仕事とはいえ僕もご苦労なことだ。今回はお客様は2名様。前日に白山一里野の民宿「やまびこ荘」に入って、朝食を朝3時に出してもらって出発した。朝早くて悪いから、お弁当でいいと言っても、ここの若女将は
「いや、大丈夫、つくりますよ」
と、暖かな朝食を用意してくれる。朝飯をしっかり食べられるのはやっぱり元気がでる。ありがたい。
未だ空けやらぬ3時40分に登山口への出発時は予報に反して、またもや雨が降っていた。しばら車で進むとミゾレに変わってくる始末。予報は悪くないとは言え前回のことも有るし少し憂鬱な気分だった。だが今回は少し様子が違っていた。うっすら雪が積もった急峻な尾根をよじ登っていると次第に夜が明けてきたが、ミゾレはいつしか止んで雲の切れ間から光が差し込みはじめた。ふり返ると白山も頂上こそ見えないがその姿を現した。
未だ芽吹きもまばらな樹林のずっと向こうでアオバトが鳴いている。オカリナのような声で、アーオーー、アーオーー、オアオーー♪と鳴く。アオバトがアオアオ鳴くんだから話が出来すぎだ。音程的には シー ファ シー ファ 、シファシー ♪ほんとに誰かがオカリナを吹いているんじゃないかと思うほど。声だけは春先に林のずっと奥から聞こえることがよくあるのだが、その姿は未だ見たことがない。アオバトを見た人は幸せになると言う。コガラやシジュウカラも鳴き交わしながら忙しく枝を渡って行く。
冬瓜平を過ぎた辺りから青空がどんどん広がり周りの山も見え始めた。雪も締まってとても歩きやすくアイゼンなしでも快適に歩ける。ホワイトアウトして、行くのか帰るのか悩ましい葛藤を繰り返しながら進んだ前回とは大違いである。鼻歌交じりで歩ける今回だ。
主稜線へ登り上げる頃には笈ヶ岳もいよいよ顔を出してくれて、登るべき目標がはっきり確認できたので勇気が沸いて来る。主稜線を左にたどってあっさりと山頂へ到達した。所要5時間50分。前回は7時間20分。随分違うものである。 北には間近に大笠山、奈良岳、大門岳。東には人形山、猿ヶ馬場山、遠く御岳、乗鞍が裾野だけ覗いている。南には山頂は雲に覆われているが、もちろんずっしりと白山。
山頂 後方は白山
白山方面
主稜線直下でねじ曲げられ苦悶するダケカンバ君(ハリーポッターの世界)
山頂をゆっくり目に楽しんだあと、のんびり(お客さんは結構必死?)下山した。何カ所かある登り返しもさほど気にならず楽しめる。冬瓜平辺りからふり返ると笈ヶ岳が美しい。鷲が羽を広げたように見えるのは僕だけだろうか?なんて素敵な姿だろう。この山は何度来ても飽きない理由は男前だから、だねきっと。しかも今日は新雪が降ったお陰で、飽くまでも雪は白く空は蒼い。目に痛い。おっといけない、サングラスしなくちゃ。
冬瓜平付近のブナ林
冬瓜平を過ぎ急峻な尾根を慎重に下る。うっすら積もっていた雪もすっかり溶けて道が乾きはじめていた。花たちが太陽の光に暖められて花を咲かせている。久しぶりに見る鮮やかな山の色彩。心に染みこむ様なそんな花の色が目に心地よい。
ミヤマキンバイ
イワウチワ 結構妖艶
カタクリ パリッ!
くちづけ ちゅっ!
またしてもハリーポッターの世界 あのブンブン飛んでる奴 なんつーのあれ?スニッチ?
ネコノメソウ
さらに標高が下がるとそこには春がはじけていた。慎重に下って自然保護センターに到着し所要10時間50分。道すがらはカタクリの大群落だった。そしてニリンソウ、エンゴサク、ツボスミレ、キクザキイチゲ等々。春は言葉もなく僕らの心を満たしてくれる。おまけにタラの芽頂きました。これでお腹も満たされる春。
初回の笈ヶ岳は状況が悪くホワイトアウト中、息詰まるような雪中行動でしたが、今回は快適な雪山で、報告文も晴れ晴れとして、鳥のなき声も聞こえ、花々の写真も美しく楽しく読ませていただきました。
今回の登り5時間50分ならわたしにも登れるかな、と安易に来年登ることを思い描いています。但し、好天気に限りますけどね。
大丈夫、行けますよきっと。
カッコいい笈ケ岳を見せていただきありがとうございます。
なんか胸のつかえが取れました。
花々も誇らしげに映っていますね。
まあ、また来年。笑