川に棲む水生昆虫というとカゲロウやカワゲラ、トビケラ、ユスリカ、ガガンボなどです。釣り人の呼ぶいわゆる「川虫」というと大体カゲロウやカワゲラ類です。カゲロウやカワゲラがユスリカやガガンボなどと異なる点は、ひとつは飛ぶ力が強いことです。蝶や蛾と同じくらいのスピードで飛ぶことができます。蝶というとまったりしたイメージですが、実際にはかなりのスピードです。
その飛翔力に優れたカゲロウやカワゲラの類ですが、幼虫時代これらの多くは流れに逆らって上流へ移動することができません。そうすると必然的に、水生昆虫の生息域は徐々に下流へと移動していくだろうと予想されます。
けれども実際のところはそうではなく、冬から夏にかけて、通常、生息域はむしろ上流へ上流へと移動していきます。
水生昆虫の成虫の多くは、日中は単独で渓谷沿いの森の茂みなどに身を潜めているのですが、産卵時刻が近づくと、どこかを目指して飛び始めます。1匹1匹の個体がほとんど例外なく、明らかに一つの方向に向かって飛んでいくのです。そして川の上を飛ぶということは、――待ち構えているキセキレイなどの餌食になるリスクを伴うということでもあるわけですが――、狭い空間を同じ方向に飛ぶわけですから、やがて自然に大きな集団を形成していきます。そうすると虫たちは非常に効率よく産卵できるというわけですね!
そして、1匹1匹が目指して飛ぶ方向とはズバリ「上流」です(もちろんこれは窒素や燐の循環にもつながります)。
果たして、これらの現象・行動は関係があるのでしょうか、ないのでしょうか。関係があるとすれば、一体どうやって水生昆虫はどちらが上流でどちらが下流なのかということを見分けるのでしょうか。
先月号の雑誌「ニュートン」で、兵庫県の高校生達が、モンカゲロウのこれらの不思議な習性について調べていると報じられました。
モンカゲロウというのは釣り人が「砂虫」と呼んでいるあれです。
「ニュートン」7月号によると、取り組んでいるのは兵庫県立福崎高校の生物部(顧問:久後地平教諭)とのこと。
記事によると、福崎高校生物部の調査では、モンカゲロウの成虫が川上・川下の判別に風向きを利用しているのではなかったのだそうです。
ちなみに、川をよく観察してみると、無風の日でも、水面付近では上流から下流に向かって常にわずかに風が吹いていることが分かります。いつも川の水に接している、冷たい風です。これは、周囲の大気と比べて温度が低いので、他の風と容易に区別することができます。
カゲロウたちがこの微妙な“冷風”を利用して上流と下流を区別しているのであればこの不思議な現象は簡単に解決します。しかしながら、今回の報告でこの可能性は否定されたようです。こんなに便利な風があるのにも関わらず、虫たちがこれを利用していないというのは意外な結果ですね。
“風”ではないとすると虫たちは一体どうやって上流を識別しているのでしょうか。
調査では、虫達が水面の光を認識していることが分かってきたのだそうです。
確かに、そういわれてみれば、夜、カゲロウが自動販売機のアクリル板に停まっているのを見かけます。カゲロウの眼は、水面の反射を常に意識しているのかもしれません。
久後先生は、ビニールシートを利用した調査方法を考案し、実験を重ねたそうです。
ビニールシートを使うというのは画期的なアイデアですが、そのユニークな調査から分かってきたことは
ということだったそうで、さらに、先生によれば、
という仮説が今のところ有力なのだそうです。
これは全く意外や意外。
亜成虫から成虫へと脱皮したモンカゲロウが、水面の明るさの違いによって上流と下流を区別して飛ぶのだなんて、そんな馬鹿な話が!と思ってしまいます。
確かに上流から下流に向けて傾斜がついていますから、明るさの差は確かにあるでしょう。けれども、それだけで本当に川上・川下を区別できるほどの差が現れるのかどうか?
久後先生によると、実際川の中に立ってみると、確かに上流方向と下流方向とで、明るさが違って見えるのだそうです。専門家じゃないんで、詳しいことは分かりませんが、もしかすると暗闇の中で、水の流れる方向と、自分の目線の方向がピタリと一致したとき、偏光の加減で水面が明るく見えるのかもしれません。
さらに、久後先生はモンカゲロウの幼虫の体長の差から、2つのタイプがあることを見つけていて、それがバッタの「群生相」「孤独相」と似たようなものではないかと注目しています。
こちらも研究が進むとすごいことになりそうですね。
その飛翔力に優れたカゲロウやカワゲラの類ですが、幼虫時代これらの多くは流れに逆らって上流へ移動することができません。そうすると必然的に、水生昆虫の生息域は徐々に下流へと移動していくだろうと予想されます。
けれども実際のところはそうではなく、冬から夏にかけて、通常、生息域はむしろ上流へ上流へと移動していきます。
水生昆虫の成虫の多くは、日中は単独で渓谷沿いの森の茂みなどに身を潜めているのですが、産卵時刻が近づくと、どこかを目指して飛び始めます。1匹1匹の個体がほとんど例外なく、明らかに一つの方向に向かって飛んでいくのです。そして川の上を飛ぶということは、――待ち構えているキセキレイなどの餌食になるリスクを伴うということでもあるわけですが――、狭い空間を同じ方向に飛ぶわけですから、やがて自然に大きな集団を形成していきます。そうすると虫たちは非常に効率よく産卵できるというわけですね!
そして、1匹1匹が目指して飛ぶ方向とはズバリ「上流」です(もちろんこれは窒素や燐の循環にもつながります)。
果たして、これらの現象・行動は関係があるのでしょうか、ないのでしょうか。関係があるとすれば、一体どうやって水生昆虫はどちらが上流でどちらが下流なのかということを見分けるのでしょうか。
先月号の雑誌「ニュートン」で、兵庫県の高校生達が、モンカゲロウのこれらの不思議な習性について調べていると報じられました。
モンカゲロウというのは釣り人が「砂虫」と呼んでいるあれです。
「ニュートン」7月号によると、取り組んでいるのは兵庫県立福崎高校の生物部(顧問:久後地平教諭)とのこと。
記事によると、福崎高校生物部の調査では、モンカゲロウの成虫が川上・川下の判別に風向きを利用しているのではなかったのだそうです。
ちなみに、川をよく観察してみると、無風の日でも、水面付近では上流から下流に向かって常にわずかに風が吹いていることが分かります。いつも川の水に接している、冷たい風です。これは、周囲の大気と比べて温度が低いので、他の風と容易に区別することができます。
カゲロウたちがこの微妙な“冷風”を利用して上流と下流を区別しているのであればこの不思議な現象は簡単に解決します。しかしながら、今回の報告でこの可能性は否定されたようです。こんなに便利な風があるのにも関わらず、虫たちがこれを利用していないというのは意外な結果ですね。
“風”ではないとすると虫たちは一体どうやって上流を識別しているのでしょうか。
調査では、虫達が水面の光を認識していることが分かってきたのだそうです。
確かに、そういわれてみれば、夜、カゲロウが自動販売機のアクリル板に停まっているのを見かけます。カゲロウの眼は、水面の反射を常に意識しているのかもしれません。
久後先生は、ビニールシートを利用した調査方法を考案し、実験を重ねたそうです。
ビニールシートを使うというのは画期的なアイデアですが、そのユニークな調査から分かってきたことは
モンカゲロウ成虫は、光の反射によって、川が流れていることを認識する
ということだったそうで、さらに、先生によれば、
モンカゲロウ成虫は、水面の光によって、上流と下流とを識別しているのではないか
という仮説が今のところ有力なのだそうです。
これは全く意外や意外。
亜成虫から成虫へと脱皮したモンカゲロウが、水面の明るさの違いによって上流と下流を区別して飛ぶのだなんて、そんな馬鹿な話が!と思ってしまいます。
確かに上流から下流に向けて傾斜がついていますから、明るさの差は確かにあるでしょう。けれども、それだけで本当に川上・川下を区別できるほどの差が現れるのかどうか?
久後先生によると、実際川の中に立ってみると、確かに上流方向と下流方向とで、明るさが違って見えるのだそうです。専門家じゃないんで、詳しいことは分かりませんが、もしかすると暗闇の中で、水の流れる方向と、自分の目線の方向がピタリと一致したとき、偏光の加減で水面が明るく見えるのかもしれません。
さらに、久後先生はモンカゲロウの幼虫の体長の差から、2つのタイプがあることを見つけていて、それがバッタの「群生相」「孤独相」と似たようなものではないかと注目しています。
こちらも研究が進むとすごいことになりそうですね。