<ノロ猛威>人で流行し海へ カキに蓄積か
宮城県内の海域で生食用カキからノロウイルスが検出され、県漁協が出荷を休止した問題で、県内で流行している人のノロウイルスが影響したとみられることが21日、分かった。県漁協は検査対象の県内11海域のうち、石巻市の雄勝湾を除く10海域でノロウイルスの陽性反応を確認した。
【都道府県別で見る】感染性胃腸炎の1医療機関当たりの患者数
県水産業基盤整備課によると、感染者の嘔吐(おうと)物などに含まれるウイルスは一般的に下水処理を施しても完全に除去できず、一部が海に流出してカキに蓄積された可能性が高いという。
県内では11月からノロウイルスなどによる感染性胃腸炎が流行。県疾病・感染症対策室によると、5~11日の1医療機関当たりの患者は41.44人で、全国平均の19.45人を大きく上回った。2006年と10年にも流行したが、今年は過去と比べてかなり多いという。
県は手洗いの徹底や、感染者が嘔吐した場所を塩素系漂白剤で消毒するなどして感染拡大を防ぐよう呼び掛けている。
県漁協は11海域で毎週検査を実施。19日の検査で雄勝湾を除く10海域で陽性反応があり、県漁協を通じて流通させる20日と22~25日の出荷分を休止した。26日の検査結果を踏まえて今後の対応を検討する。
ノロウイルスが各地で猛威、細菌とウイルス、どう違う?
ノロウイルスが各地で猛威を振るっている。10~11月には、病原性大腸菌O(オー)157が原因の集団食中毒が発生した。ウイルスと細菌は、どのような違いがあるのか。
「細菌は生き物だが、ウイルスは生き物ではない。この点が最も大きな違い」と東京大学教授の畠山昌則さん(微生物学)は話す。
生き物は食べ物を摂取しエネルギーを作り、自力で子孫を残す能力が最低限必要。細菌は一つの細胞が個体として生きる単細胞生物で、分裂して子孫を残すことができる。
一方ウイルスは、自分の体を作る「設計図」(全遺伝情報=ゲノム)がたんぱく質の殻に包まれているだけの構造で、自力で増えることはできない。他の生物の細胞を乗っ取り「工場」として利用し、自分の複製(クローン)を大量に作り出す。「企業に例えると、生産工場を持つのが細菌、設計部門しかないのがウイルスです」
大きさにも差がある。例えば大腸菌は長さが1ミリ・メートルの約1000分の3だが、インフルエンザウイルスは1ミリ・メートルの1万分の1しかない。
病気を引き起こす仕組みも異なる。細菌は毒素で細胞を死なせ、ウイルスは細胞に侵入して破壊する。
約1万種ある細菌のうち、肺炎球菌やピロリ菌などは人体に害を及ぼす病原細菌だ。病原性大腸菌O157なら「ベロ毒素」が大腸や毛細血管の細胞に入り込み、細胞を死に追いやる。その結果、腸管出血を引き起こし、症状が進めば死に至る場合も。病原細菌による病気には、抗生物質や合成抗菌薬などが有効だ。
数千万種以上確認されているウイルスも、病気を起こす数百種が知られている。侵入(感染)した細胞の中で自らのクローンを大量に作り、細胞を破壊し次の細胞に侵入、増え続ける。破壊された細胞が一定数以上になると、感染部位に応じて症状を引き起こす。インフルエンザにかかるとせきなどの症状が出るのは、喉の細胞がウイルス感染するためだ。
ウイルスには抗生物質が効かず、予防ワクチンや治療薬が開発されていないものも多い。畠山さんは「流行期や感染経路を知り、手洗いの励行など予防策を取ることが肝心。デング熱など蚊が媒介するウイルスもあるので気をつけてほしい」と助言する。
■季節で違う 食中毒の原因
下痢や嘔吐(おうと)などの食中毒症状は細菌もウイルスも引き起こすが、「夏は細菌、冬はウイルスが原因であることが多い」と東京家政大学客員教授の藤井建夫さん(食品衛生学)は話す。細菌は生物なので夏に活動が活発になるが、ウイルスは乾燥した冬を好むためだ。
冬に激増するノロウイルスによる感染性胃腸炎の予防には、原因食品になりやすい二枚貝を生で食べるのを避け、中心部まで十分に加熱することを心がけたい。また食品を介さなくても、患者の嘔吐物や便に触ったり、それらが乾燥した微細な粒子(エアロゾル)が口に入ったりして、感染するケースも増えている。