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続・シリア難民はアサド転覆戦争の犠牲者

2015年10月08日 18時08分34秒 | 外交問題
(続きです)


5)国際社会の初期対応はどうだったのか?

アサド打倒を目指す米国からすると、2011年の騒乱の発展に時間がかかってしまってイライラしていたことだろう。デモ隊の鎮圧とか、叛徒の制圧といった話で終わってしまうと、戦争の儲け話にはつながらない。

反政府テロ集団には、散発的に銃撃戦をさせたり、自動車爆弾で自爆テロを仕掛けさせたが、戦争という状態ではなくテロ行為でしかなかった。が、どうにか騒動を継続させ、ようやく国連人権高等弁務官事務所をして、「これは事実上の内戦である」と言わしめた。

当初の予定では、2012年中には米国他が”参戦”できる計画を組んでいたのかもしれない。それには、介入の口実にできる、「大義名分」というものが必要だった。これが中々難しかった。市民を虐殺した罪?人道上の罪?
そういった口実を見出そうとはしていたのだが、どうも決定的な理由にはなっておらず、安保理決議なんかでも中国やロシアを説得する論拠が乏しかった。何らかの決定的証拠が必要とされたのだ。

そこで、アラブ連盟の監視団、という手を使うことにしたのである。イスラム世界の対立勢力をぶつける、という手であった。国連監視団よりも、まずアラブ連盟を用いたのには、ワケがあったのだ。それは、ボスニア紛争時の介入と似た手段を用いよう、というものだった。国際紛争ではなく、内戦、この人道上の罪、軍事介入の正当化と口実はこれだ、と。その初手が、11月のアラブ連盟の資格停止処分という制裁措置だった。


ここで、アラブ連盟の地域的取極と国連憲章8章の権限を適用するんだ、という算段が立てられたということ(恐らく主導していたのは、GCC諸国ということになろう)。この件は、類似事例として、イエメンでの紛争例を先日書いた。

国連憲章8章適用を画策した例
15年9月>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/44139d7f8938875ef83a7c779568577b


アサド大統領は、アラブ連盟に対して中立的立場からの停戦・仲裁を拒否していたわけではない。むしろ、申し出に対しすんなりと受け入れているのである。

2011年12月23日
>http://jp.reuters.com/article/2011/12/23/tk0693202-arab-league-syria-idJPTYE7BM00X20111223

[ベイルート 23日 ロイター] シリア反政府デモへの弾圧停止に向けたアラブ連盟の監視団の先遣隊が22日、同国に到着した。
同連盟筋によると、先遣隊は十数人で金融や法律の専門家らが含まれる。約150人から成る本隊が今月末までに到着するための準備を行うという。
アラブ連盟はシリア政府に経済制裁を科したり、和平案を国連安保理に提出すると警告したりするなど、同政府に対する圧力を強め、和平案への合意を要求。アサド政権は19日、監視団受け入れを明記した同案に署名した。
一方、監視団受け入れ直前の今週、人権団体「シリア人権監視団」によると、北西部イドリブや中部ホムス、南部ダルアーで弾圧により130人以上が死亡。同団体は、監視団が到着する前に政府がイドリブやダルアーで弾圧を強めているようだと指摘した。
英国を拠点に活動する人権団体「Avaaz」は22日、反政府デモ弾圧による死者は、政府側も含めて6237人以上に上るとし、そのうち少なくとも400人は子どもだとしている。


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11年12月27日には、アラブ連盟の監視団本隊がシリア入りした。団長のムスタファ・ダービ団長は、ホムス入りして以降ロイターのインタビューに対し「恐るべきものは見なかった」と答えている。アサド政権軍が完全制圧して、市民を無差別攻撃したり過激な銃撃戦をやっていたということはなかった、ということである。

アサド打倒を狙う連中にとっては、濡れ衣だった、で終わっては、念願の戦争勃発に繋がらない。何としても、軍事介入できる理由が必要とされた。しかし、これといった成果が何一つ得られなかった上、アサド大統領の無実の証拠だけが報じられてしまうことになった監視団は、年明けすぐに撤収命令となってしまった。わずか1週間程度で、引き揚げたのである。
ここで監視団が留まり続けていれば、無駄な血が流されることはなかったかもしれないのに、だ。アサド政府軍が、欧米報道のような残虐行為をやっていたわけではなかったことがバレてしまっては、困る連中がいたんだよ。暴徒対処は、軍隊ではなく治安部隊がやっていたわけだし。政府側は、テロ鎮圧行動をとっていたに過ぎない。

>http://jp.reuters.com/article/2012/01/02/tk0697308-syria-arab-league-withdrawal-idJPTYE80100N20120102


何が起こっているか世界の人々がよく分からないまま、12年2月には米国大使館の撤収にはじまり、英仏大使館もこれに右に倣えで在シリア大使館を閉鎖した。日本大使館は、これに遅れること約1カ月後、同じく撤収となったのである(日本の方が遅かった理由というのは、明らかではない。これまで日本大使館の方が現地に長く留まり続けた例というのは多いのだろうか?)。

4月、今度は国連監視団が入ることになった。安保理決議で派遣されることが決まったわけだが、4ヶ月後の8月には撤収が決まった。停戦に効果がないからという理由で、だった。治安悪化の最大の理由は、反政府テロ集団との小競り合いが続いていたことであり、小規模戦闘が繰り返され、数百~千人レベルでの死亡者が出ていた。

そして、この撤収翌日、8月20日に、ジャーナリストの山本美香さんが射殺された。
戦争を生み出す為である。
シリア政府軍を攻撃する口実にしたいが為だ。
政府軍による銃撃で射殺された、と公表したのは、自由シリア軍の報道官という人物だった。日本人ジャーナリストなんかに、シリアで起こっている本当のことを報道されては困ることがある、ってことだ。日本人にテロの恐怖を植え付け、アサド政府軍の罪を喧伝することに利用されたんだ。


1月のアラブ連盟監視団を撤収したことも、国連監視団を増強せず、或いは平和維持軍の派遣に繋げることもせず、敢えて「騒乱を長引かせたい」と。「ここでやめてもらっちゃ、困る」という連中が、大勢いたんだよ、シリア国外には。

12年10月には、ブラヒミ国連・アラブ連盟合同特別代表らの停戦案がアサド政府と反政府勢力とに提案されたが、履行されることはなかった。わざと停戦合意を破るように仕掛けていたからさ。もう、次の行動の絵図が出来上がっていたから、だ。

そして、11月、いよいよ米国が本腰入れて参戦する準備が整ったかに見えた。

>https://kotobank.jp/word/%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%82%A2%E5%9B%BD%E6%B0%91%E9%80%A3%E5%90%88-190351

2011年1月から続いているシリア騒乱の中、バッシャール・アル=アサド政権への対抗勢力として12年11月11日に結成された政治組織。反体制各派が合同し、軍事組織「自由シリア軍」をも傘下に収めた統一組織として発足した。発足時のメンバーは約60人。代表は、穏健派イスラム教説教師でイマーム(イスラム教徒の統率者)であるムアーズ・アル=ハティーブ師。発足当日の11日から13日にかけて、湾岸協力会議、アラブ連盟、フランス、米国が、シリア国民連合を「シリア国民の正当な代表」として承認、アサド政権後の受け皿となる暫定政府づくりを促した。
(2012-11-16)

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このように、米仏とGCC・アラブ連盟が協力して、アサド排除を既定路線とし、暫定政府を承認することとしたものである。拙ブログにおいては、「尚早の承認」ではないかと指摘したものだ。
アラブ連盟は13年3月にこの団体の加盟資格を正式に認めた。つまり、外形的に正統な代表政府ということにした、ということ。シリアが内戦状態であるとしても、正統政府をアサド政権から反政府テロ集団に移動させることになれば、重大な国際問題となるわけである。
こうした「アサド政権憎し、アサドを排除すべし」という目的の為に、反政府テロ集団であった武装勢力に、米仏やGCC諸国を筆頭とするアラブ諸国が実質的に軍事支援を続けたことが、シリアの現在の崩壊を招いたのだ。
初期の対応が根本的に誤っていたから、ここまで悲惨な状況を生んだのだ。

外国政府を転覆せんが為に、米仏GCC諸国がテロ支援を継続した。本当に邪悪な連中は、誰なのか?テロ支援国家たる、米仏ではないのか。


6)フランスが加担したワケとは?

これも陰謀論的な話でしかない。ただ、英国がシリア問題対処で米国との共同歩調を拒否したこともあって、米国は誘える仲間がいないと踏み切れないという態度だったろう。そこで、袖にされた英国ではなく、フランスに転じたわけだ。すると、話に乗ってきてくれることになったわけである。


フランスでは、権力交代時期が重なっていたことが、シリア問題の片棒を担ぐことになったであろう。
サルコジ大統領は、どちらかと言えば「英雄」タイプであり、オバマ大統領の言うことをすんなり聞いて、どうこうしたいと思う人間ではない。もっと「自分が世界の中心だ」的な発想の、叩き上げ系の人間である。リーダーのタイプとしては、プーチンに近い。なので、独自路線というものを信じてきたし、大事にしたいわけだ。他人の指示だの米国の連なりだのといったものに、興味はないのである。

サルコジには、野望があったはずだ。以前から書いてきたが、中国との関係重視で、IMF改革―SDRと人民元―問題にいずれ踏み込みたいと考えていたであろう。

米国がフランスへの締め付けに使った最初の手は、ルノー日産の問題だった。多くの人は忘れたか気付かぬうちに終わってしまったかもしれないが、ちょっとした事件だった。因みに、米国が好んで用いるようになったのが、自動車会社叩きだということは覚えておくとよい(三菱とて例外ではなかった、ということは記憶しておくべき)。トヨタバッシングで効果絶大だったからね。VWの問題にしても同様。発覚経緯は、全て「盗聴、のぞき見」の集大成の結果である、ということだわな(笑)。


・ルノー幹部が中国へ情報漏洩したとされる事件は、「でっち上げ」
11年3月>http://www.afpbb.com/articles/-/2790593

この問題が発覚した当初、ルノー幹部が仏検察の取調べとなり、ゴーンさんはサクっと首切りをした。けれども、事件そのものがでっち上げだったことが判明。でも、米国はこれで終わるはずがない。次の一手も当然あった。

・ストロスカーン前IMF専務理事の事件
11年7月>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/274685b14fb9f5a88e37b647cf1786a2


サルコジは次第に政治力を殺がれていった。12年に入ってからは、自らの大統領選に忙殺されてしまった。しかも、リビアコネクションが醜聞として報じられ、カダフィ大佐からの巨額資金授受などで評判を落とした。そして、大統領選挙の結果、オランド大統領の誕生となったわけである。サルコジは去った。
さて、オランド大統領に交代して間もなく、サルコジ時代には冷たくあしらってきた米仏関係の改善が図られることになった。その効果は即、目に見えたわけだ。
それが、シリア問題における米国と一致協力して反政府テロ集団を「政府代表」として承認を与える、というものだった。先進国では、フランスだけが歩調を合わせたということ。
(ユーロ安は、その恩恵かどうか分からないが、オランド交代後に大きく戻したでしょう?偶然かな?ん?どう?その後に、ロシアのルーブルが売り込まれたのも、ただの偶然だと思いますか?通貨は攻撃手段なのだよ、米国側にとっては。だから、世界の通貨改革なんぞやられたら、米国の特権的地位を失うから恐れているし、それを封じよう、邪魔しようとするんだよ)


オランド大統領は、よき同調者であり、今年初めにフランスでのテロ勃発とその後のイスラム国退治の一連の活動は、そうした成果なのだよ。


7)まとめ、とか、その他雑感諸々

もしも、米国以外の主要な同調者が現れなければ、シリアへの破壊工作は中断か諦めていたかもしれない。しかし、12年中には攻撃開始ができそうだと予定を立てていた軍関連の方面からすると、本格参戦ができなかったことが大いなる誤算だった。
仕方なくお友達を待って(フランスだ)、GCCを軸とするアラブ連盟で「有志連合」を形成し、正統政府の入れ替え儀式をやって、さあ13年にはシリアへの本格攻撃だ、と仕切り直したわけだよ。化学兵器攻撃というのも、そうした軍事介入の正当化に用いる口実として用意したものだった。



当初は、アサド政権の「人道上の罪」で攻撃しようとした。市民弾圧、と。
しかし、監視団は正直に報告してしまい、その根拠が極めて弱いということになり、小規模戦闘を現地テロ集団(ヌスラ戦線とかアルカイダのお友達とかみたいなのも含む)に託して時間を稼いだ。
次が、シリア内戦として、正統(自分たちが承認した)政府との軍事協定、からの8章適用ないし集団的自衛権行使を目論んだ。
が、これも「でっち上げ感」満載でロシアとかには簡単に見破られて、ちょっと待ったということになったわけだ。
それで、もっとテロの凄いのを口実にしよう、ということで、イスラム国立ち上げで、イスラム国への攻撃を隠れ蓑にして、アサド政府軍への攻撃を繰り返すということになった。

イスラム国のプロパガンダは、よく効いた。違法だろうと、堂々とシリア領内への空爆を有志国連合が繰り返したくらいだから。
しかし、その嘘も長続きはしなかった、ということ。


遂には、ロシアが参戦することになった。
ロシアがグルジアに介入した後、南オセチアで現在のシリアのような紛争が続いて住民がみな脱出し、難民になったという話を聞かないが、それはどうしてなのだろうか?
むしろ、停戦に強力な効果が発揮されたから、ではないのか?


シリア難民の真の敵は、米仏であり、彼らが支援したテロ部隊である。善人の顔をした邪悪な連中が、紛争を煽り、テロを支援し、育て、武器を与え、全てを破壊させたということである。どうりで、イスラム国が破竹の進撃を続けたわけだな。


シリア難民はアサド転覆戦争の犠牲者

2015年10月08日 14時09分23秒 | 外交問題
世界中が数百万人にも及ぶシリア難民問題について、高い関心を持つようになったが、このような惨状が生じた最大の責任は誰にあるのか、よく考えてみるべきである。これほどまでに事態が悪化する前に、厳しい批判の目を向けておくべきであったのだ。それができなかった為に、壊滅的な状況となってしまった。


シリア問題については、過去に拙ブログで取り上げてきた。


12年8月>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/b3314873404dcf29512d58a4143a804f

13年8月>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/ed32bb044e401db26eedc835b8647143

13年9月>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/808b0173b976212af4c721c37b261b46

15年2月
>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/6e8003678144e5aaaa05e76e50bfc249
>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/9bd2212390f5f52161566e6f0483925d


最近になって、ロシアがシリア政府への軍事支援を開始するに至ったが、拙ブログでは基本的な考え方は変わっていない。

そもそもの発端は、2011年の「アラブの春」といった革命機運の高まりということではあるが、それは人為的に発生させられた運動であり、その主導的役割を担ったのは米国であろう。煽動工作活動が、見事にうまくいった、ということだ。

その便乗として、シリアを親イスラエル・親米政権に統治させたいという目論見があったものと考えている。それが、アサド政権の排除計画であり、これは米国単独のものでなく、加担した国々は当然あった。

真の敵とは、一体誰なのか、それをよく考えてほしい。
拙ブログなりにこれまでの流れを整理し、簡単なまとめとして書いてみたい。


1)アサド大統領は極悪人だったのか?

テレビ映像でシリア難民がスマホや携帯を普通に使っていることに気付いた方々はいるだろう。ニュースやネット情報でも、現地に残っている人たちが、やはりスマホやネットを使っているということをご存じかと思う。

ここで、ふと疑問に思いませんか?
どうして、ネットワークが使えているのかな?と。戦火でボロボロのシリア都市部ですら、WiFi環境が残っているということを、不思議に思いませんか?
スマホの提供会社の通信網は現存しており、どういうわけだか完全破壊からは免れている、ということなのですね。
普通の激戦状態の国であると、放送・通信網は乗っ取られるか、それを妨害・阻止する為に設備は破壊されるでしょう。敵軍に鹵獲されて利用されるより破壊して逃げた方がよい、ということはよくあるのです。特に、相手がテロ勢力である場合、軍用の通信手段は保有していないことが普通であるので、携帯やスマホ通信網というのは、重要な通信インフラということになるでしょう。これをそのままにしておく理由というのは、ないわけです。


もしも、世間で喧伝されるが如く、アサド大統領が非情で極悪非道ならば、どうして一般市民に通信網を利用させておく必要性があるのでしょうか?北朝鮮とか中国共産党がやっているみたいに、制限を厳しく課すこともできるし、アクセス制御や情報統制も可能なはずです。政府軍関係者以外は使用できなくすることなど、難しいことではないでしょう。
仮に、反政府勢力に施設が占拠されてしまった場合であろうと、主要な基地局を破壊できれば、全部を使えなくすることはできるでしょう。シリアにスマホ通信網の供給業者が何十社も存在していて、残存通信網が何回線もあるのだというのも、ちょっと信じ難いですね。

この一事からでも、北朝鮮レベルの独裁国家とは思われず、中国の情報統制水準よりも緩いのではないか、としか思えないわけです。


騒乱以前では、日本人留学生がシリアに行っていたこともあるし、日本語教師としてシリア在住の人もいたようです。普通に考えると、極悪な軍事独裁者が支配する国に留学したり就業したりしに行くとは思えませんから、極端に迫害や統制が酷いとか文化・生活水準が著しく低いということではなかったでしょう。戦火の中でインターネット網やスマホ通信網の新設工事は行いませんから、2010年以前のインフラですら、それらが普通に利用できる程度には生活水準は保たれていたということです。
他には、シリアが国連の機関等から、虐殺が非人道的だとする非難が度々出されていたということもなかったのであれば、最悪レベルの極悪国家とは思えないわけです。アサド批判で出されるような、悪魔の権化が如しというのはプロパガンダに過ぎないのではないかということです。


2)2011年以前のシリアはどうだったのか

度々テロによる攻撃を受けていたことはあったでしょう。
ダマスカスにおいては、04年から毎年自爆テロが発生し、死傷者を出しています。また、06年には在シリア米国大使館の襲撃事件が発生、治安当局が対テロ戦を徹底して行う必要性に迫られていました。
アサド政権が自国民に発砲し死亡させた事件としては、08年3月に3人死亡、5人負傷、10年3月にも1人死亡、数名負傷ということがあったようです。いずれも、治安当局が、テロ犯罪を攻撃するということで発生した死傷事件であるということです。もしも、真に極悪非道国家だったのであれば、死傷事件のニュースなどは情報秘匿となって、海外に知られることはないでしょう。それに、反政府主義者たちを根絶やしにする為に、大規模な掃討作戦で殺しまくることがあっても不思議ではないでしょう(因みに、米国ははるかに大勢の民間人を世界中で殺害しまくっており、数千~数万人規模で殺害したテロ国家である)。

けれども、そうはなっていないわけです。
テログループは、主にクルド系の反政府活動を行う自爆攻撃をも厭わない連中です。シリアの治安維持の為に、自爆テロを行う犯罪者たちを射殺することがあっても、やむを得ない場合もあるのではないか、アサド政権が対峙していたのは、そうしたテロリストたちだったとしか言いようがないのです。


イスラエルとの関係で見れば、レバノン問題というのが最大の焦点だったろうと思いますが、どちらかと言えば、シリア側から攻撃的になるということはなく、むしろ退いていったものと思えます。シリア軍のレバノンからの撤退によって、イスラエルの増長は激しくなり、イスラエルはシリアへの空爆やガザ地区攻撃などの軍事行動が非常に目立つようになったのです。まさしく後顧の憂いが退縮したことで、思う存分に攻撃できるようになったかのようです。

振り返ってみれば、2000年代において、イラク、アフガン、イエメン、ソマリアなどが問題視されていたわけですが、これにイランや北朝鮮が加わっているとして、シリアが極悪非道の軍事独裁国家で、残虐暴君のアサド大統領が人道上の大問題である、ということなっていなかったのではないかということです。


3)シリア陸軍はなぜ弱体化したのか?

騒乱の当初であると、反政府テロ集団が対抗できる戦力というのは、たかが知れていたでしょう。あるのは、カラシニコフくらいだったはずです。
さて、叛徒が2~3万人で政府軍を攻撃できたとして、手持ちの武器が自動小銃のみであると、シリア正規軍の陸軍戦力に対抗できたでしょうか?
その可能性は、極めて乏しいというのが、拙ブログでの見解です。たとえ叛徒の勢力が5倍とかになって、10~15万人が各地で蜂起してシリア政府の正規陸軍と戦って勝利できるかというと、甚だ疑問です。

2011年の主な騒乱は、民衆の暴動であり、放火や爆弾テロといったものが主流でした。治安部隊への発砲や攻撃というのもあったわけですが、それでも銃撃戦程度であって、市民への被害レベルは限定的であり、街中が瓦礫の山と化すような戦闘にはならないでしょう。たとえ国際社会から批判を浴びたとしても軍隊を出動させるだろうし、戒厳令を敷いて軍隊が完全に制圧してしまえば、暴徒程度は雲散霧消できるし、自動小銃程度の攻撃能力しかない反政府テロ集団が陸軍部隊を壊滅できるはずもないでしょう。
アサド政権は無差別に住民を虐殺していたのではなく、むしろ軍隊による徹底した制圧戦を実行しなかったので、デモや暴徒が長期化したものと思われるのです。


また、シリア陸軍には、ある特徴があります。それは、戦車の保有台数が非常に多い、ということです。世界中のベスト5に入るほどに、戦車を有しているのです。その全部がフル稼働できなくても、主砲が使えずとも弾避けにはなりますし、機銃掃射レベルなら反政府テロよりも圧倒的に強いでしょう。4千両のうち、1500両しか使い物にならずとも、相当な戦力であることは間違いありません。

旧式のT-72やT-64であろうと、反政府テロが有する自動小銃に比べ、圧倒的に有利なはずです。ところが、空軍基地を反政府テロに占拠されてしまったりしているのですね。遮蔽物の少ない空港で、歩兵戦力だけで、政府軍を完全排除できるものなのだろうか?装甲車両は、政府軍がたくさん持っているのに、です。


本当に戦車千両を相手に、歩兵が自動小銃でもって、戦って勝てるものなのでしょうか?そんなことは、到底考え難いでしょうね。

特別の支援がなければ、戦車部隊を相手に勝てるはずがない。特別の支援とは、第一に安価な対戦車兵器を十分に行き渡らせること、第二に対戦車ミサイルで攻撃できる無人機なんかが支援すること、第三にもっと規模の大きい航空支援攻撃ができること、でしょう。

当初の市街地戦で安価な兵器による攻撃が継続されたが、効果を挙げるには時間がかかったはずです。シリア陸軍だってバカではありませんから。
そこで、無人機攻撃が豊富にできるであろう米国やイスラエルが大活躍で、膠着状態の戦闘箇所で、政府軍の戦車を攻撃し破壊していったのではないかなと。これにもそれなりの時間を要した、ということになりますか(恐らく、本格投入となったのは、2012年末頃か13年に入って以降ではないでしょうか)。
大規模航空支援をするようになったのは、「イスラム国」喧伝でうまくいくようになってから、で、14年の夏以降、そして有志国連合でアラブ諸国も空爆参加するようになったというわけです。この頃になると、シリア軍の持つ対空ミサイル兵器はほぼ完全に沈黙状態にできるようになったから、でしょうね。破壊し終えたか、制圧(捕獲)したか、です。例えば戦争慣れしてないUAE空軍が空爆に参加して、これが楽々実行できるというのは、対空兵器の心配は極めて少ない(反撃はほぼゼロ)ということを意味するんですよ。


多分、シリア陸軍の戦車の数が多かったので、そこを潰すまでに時間がかなりかかった、ということではないかと思います。長期化の最大の理由は、これではないかな、と。シリア正規軍がテロ集団と同等レベルにまで弱体化したことによって、イスラム国のような軽装武力でも対抗できるようになってしまった、ということではないかな。



4)「たる爆弾」による攻撃は、本当に政府軍によるものか?

樽状の容器にガスボンベや可燃物などを大量に詰めて、金属片なども多数入れておき、殺傷力を高めてある急造の爆弾、ということらしい。
これがシリア政府軍によって大量投下されており、そのせいで民間人の死傷者が大量に出たという説明が付けられているようなのです。

この説について、本当にそうなのか疑問に思うので、書いておきたい。

いつ頃から、たる爆弾が投下されるようになったか、知らない。
ただ、初期の頃の反政府テロ集団の戦力と言えば、小銃しか持ってないのであれば、爆弾で攻撃する機会は、殆ど皆無に等しいでしょう。つまり、シリア空軍が航空戦力でミサイルや爆弾などの兵器類を消耗することは、殆どなかっただろう、ということです。市街地にバラバラに分散する歩兵に対し、一人や二人の攻撃の為に爆弾を投下してビルを吹っ飛ばす理由がない。

そんな無駄なことをするくらいなら、地上部隊が戦車隊と共に展開して掃討する方が確実だし手っ取り早い。シリア空軍が保有する攻撃機で地上攻撃をするのには、相手の戦力が相当数集結している拠点とか、比較的大きい戦線になっていて突破がどうしてもできないような場所になっていないと、空軍による攻撃という意味がない。

正規軍の進軍突破を阻止できるほどに強力な機銃陣地とか、相当数の歩兵の展開とか、そういう地点じゃないと攻撃目標が定まらない。


例えば民間人100人いるビルに、テロ2~3人がいて、治安当局と銃撃戦になっている時、そのビルを空爆して完全破壊するということは、想定しづらいということ。テロ部隊100人くらい、政府軍も数百人が撃ち合いになっている場所って、民間人がそのまま残っているような場所なのか?
しかもそこが、たる爆弾で空爆される、というのは、政府軍さえもが一緒に吹き飛べってことだよね?


たる爆弾は、あまりに疑問点が多い。
・そんなに爆発力があるのか?:
写真などで見ると、ビルがかなり吹き飛んでいたり、街角全体にブロック(コンクリート?)の破片が相当広い範囲に飛び散っている。ガソリン満タンで落としたって、ここまでの爆発力があるとも思えないわけだが。建物半分を吹き飛ばすには、かなりのガス爆発みたいなことにならないと無理。隣の建物とか、壁ごと吹き飛ばせないし。そういうのは、超巨大な樽じゃないと無理だ。

・どうやって点火できるのか?:
樽状の物体を落下させた時、着地した衝撃で毎回爆発させることってできるのかな?通常の爆弾だと信管みたいなのがあってきちんと爆発するが、たる爆弾は空中姿勢を制御できないから、落下面を一定にできないので、点火方法がない。直接点火してから落とすのか?火炎瓶みたいに?

・攻撃機にどうやって搭載でき投下できる?:
シリア空軍にはスホーイ24か何かの攻撃機がある、ということらしいのだが、たる爆弾を投下するとして、どうやって吊り下げる?あんまり太っちょでズングリな形だと、地面に着いちゃうんだよ?
お手製の爆弾だとして、パイロンに付かないと運べない。しかも、それがスイッチ一つの操作で投下できなければならないんだよ?よほど精巧な作りをしないと、無理では。


実際のシリア国内の写真
参考>http://www.afpbb.com/articles/-/3062281?page=3


運搬、投下、点火、爆発という一連の方法を考えてみても、たる爆弾がそんなにうまく爆発させられるというのが、不思議。ジェット攻撃機で投下攻撃なんかできるかな?
本当に政府軍攻撃機による投下だと誰が分かるのか?
ヘリか、投下口のある低速プロペラ機(輸送機?古い爆撃機とか?)とかなら、点火して落とすとか何らかの方法で爆発させられるかもしれないが、普通のジェット攻撃機では恐らく困難だろう。
これを、目視攻撃で、政府軍と対峙している敵勢力が展開しているであろう「辺り」に、どういう風に落下するか分からないけど、適当に落としてみるってことだよ?

どんだけ一か八かの作戦なんだ。
味方損害が出たらどうするか、って考えるでしょう?ならば政府軍が遠く離れている場合に使われると?
それは政府軍と戦闘していない場所なのに、反政府テロ部隊がそこら辺に集結している、とかが何故かシリア空軍にはまる分かりで(米軍みたいに無人機や衛星があるわけじゃない)、そこの辺りに適当に攻撃してみろ、と命令が来て、たる爆弾で空爆?
命中させる方が極めて困難で、まぐれ当たりを期待するしかないのに?


前述したように、当初空軍による攻撃は必要性が乏しかったはずであり、空軍のミサイルや爆弾類はほぼまるまる使われずに残されていても不思議ではない。そうであるなら、空軍力を活かすのならば、ミサイルや対地ロケットや機銃掃射などが選択されるはずだろう。それとも、戦車が何両か奪われて、それを爆撃とかならまだ分かる。けれど、たる爆弾で空爆という意味は、軍事的にはほぼ皆無だろう。住民への嫌がらせか、政府軍に罪をなすりつける為か、というものでは。

反政府テロ集団に、空軍基地を奪われたという報道があったやに記憶しているが、正規軍人でなくヘリのパイロット程度の能力しかないなら、そういう素人集団がやった可能性があるのでは。素人ゆえに、お手製爆弾を積んで、投下してみるということはあり得るのではないだろうかと。ジェット攻撃機は専門的訓練を受けた人間じゃないと無理なので。

それと、参考に挙げたAFPの記事に、毎日朝夕のだいたい決まった時間に軍用機が飛んでくる音がする、というのは、もしもそれがシリア政府空軍なら十分な運用能力がまだ残されている、ということではないかと。偵察飛行を毎日決まって行える、というだけで、空軍部門の余力がないと無理な話だろうと思うので。
そうであるなら、有志国連合が易々と空爆しに行ってるのは、ちょっとおかしいな。対空戦闘をケアしなくていい、なんてことはないわけで、対地攻撃任務に専念できるというのは、かなり疑問だな。

(もし米軍の無人機なんかが毎日飛んでいる、ということなら、話の筋が通るねってとは思う)


(つづく)