先日の日経社説に対して、批判が色々と出たらしい。
コレね>
産科医療のこれから 「戯言」「猛省を」日経社説に関係団体から抗議多数
私自身、常日頃辛辣に批判している日経さんですけれども(笑)、この一件に関しては、日経社説を支持せざるを得ませんね。かねてからの私の主張としては、「電子化」ですし。
日医側の言いたいことが分らないではないけれども、だからといって、それをいつまで続けるつもりですか、とは思いますね。どれも理由らしき理由にはなっていませんね、というふうにしか見えません。仮に今の方法を継続するとして、「一体いつまで紙で全部の事務作業を行うのか」ということがあります。どこかの時点で「紙は止めましょう」ということにするなら、いつかはそうなるわけです。「いつか」というのが、あと数年なのか、数十年先なのかの違いくらいしかありません。いま述べている反対意見の多くは、数十年先にも通用している意見なんでしょうかね。本当に優先すべき理由があるのであれば、何年経っても何十年経っても、「紙が正しい、電子化は間違い」みたいに言えるでしょう。そうじゃないなら、大した中身ではない、という程度なのでは。
以下、個別に反論を書いてみますか。
①専用コンピュータの投資負担が重い、作業ができない医師もいる
今までのレセプト請求はどうやっていたのでしょうか?(笑)
カルテを見て、手書きで請求を書いて出していたのなら、それを継続したらいいだけです。今のような明細書の形になる前にだって、変更に伴う面倒というのはきっとあったと思いますが、いかがでしょうか?
かつてだって、入力代行業やレセプト発行代行業のような業者がいたんでしょうから、そういうのを何ら変わらないのでは。要するに「手作業でしかレセプトが出せない」という先生には、できるところまでやっていただき、その手書きレセプトを「スキャナー」で読み込ませて電子データに置き換え、それを出力して提出してもらえば済むでしょうね。
これをやると、特別な設備投資も要りませんし、コンピュータ操作のできない高齢医師でも関係ありませんね。提出先が、これまでの「支払基金や国保連合会」などから、「代行業者」になるだけで、後はその代行業者がやってくれるでしょう。こういうのこそ、各医師会の立派なコンピュータにでも代行してもらえば済む話では(笑)。
レセプト1件につき20円としても、月100件の先生なら僅か2000円です。年間でもたったの24000円にしかなりません。引退するまでの間に趣味程度で診療しているのであれば、10年やっても24万円にしかなりませんよ。全然過重負担なんかではありません。代行業というのは、色んな業種にあるものでして、医療に特有といったものではありません。納税も自分で確定申告できますけれど、できない人には税理士とかがやってくれます。他にも、行政書士や司法書士とかの人もいれば、特許申請代行とか、「自分でできない業務」については自ら過重な投資(設備や知識や能力に関して)をせずともいいようになっているのが、今の世の中の大半なんです。英語などの言語にだって、できない人には通訳とか翻訳といった代行の人がいるじゃありませんか。それに、自分だけが頼むと単価が割高になるでしょうけれども、県内医師会で統一したりすれば一件当たり単価は10円程度に抑えられるかもしれませんよ。
だって、現在のスキャナー+コンピュータと読み込みソフトなんかは、一昔前に比べればかなり高性能かつ格安ですから。手書き文字の読み取りだってかなりの正確性が期待できるようになってきたので、これが決まった書式に書かれたレセプトの読み取りとなれば、もっと楽にできるはずだろうと推測しています。
なので、代行業者を医師会で契約するなりして、代行すれば解決できます。
それと、できない、と言ってる医師の数を、きちんと数字で出して下さい。医師会の医師数1万人中、何人ができない環境にあるのか、そういうのを具体的に出さないと、何らの説得力もありませんよ。
代行業を立ち上げるとして、どの程度の需要が見込めるのか、ということにも関係しますから、具体的な数字を挙げたらいいですよ。例えば全国で1万人の医師が代行を委託するとして、1人の先生が月平均200件であれば200万件の定期需要が見込まれますから、1件当たり10円としても2千万円の売上があることになり、これはかなり「おいしい商売」ということはあるでしょうね。だって、殆ど全部を機械で自動的に読み取って電子データに変換し、後はオンライン請求すればいいだけだもの。まさにコンピュータの得意領域なのでは。
②小泉構造改革の負の側面
よく分らない意見なのだが、何が負の側面なんだろうか。
入澤氏は「財界が医療を食い物にしようとすることに対して我々が声を上げ、患者国民に実態を伝え、訴訟を起こし、世論が動き始め、与党が問題視したことにあせって、財界の代弁者である日本経済新聞の社説で論陣を張ったに過ぎない」とか主張しているのだが、他の規制緩和や改革路線という話と、電子化とはあまり関係がないようにしか思われない。
実際、規模の大きい病院なんかであると、既に紙を止めたんじゃないでしょうかね。膨大な量の印刷を止めることでコストも人手も時間も大幅に節約になっていると思いますけど、多分。昔みたいに、オール人力で手書き時代だと「死ぬほど書かないと」作業が終わらないんじゃないかと思いますけど。指が千切れそうになるくらい、書いて書いて書きまくらないと、数万件ものレセプトが完成できないと思いますけど。そういう無駄な作業から解放されて、一体何が困ると言うのでしょうか?
電子化すると、医療が食い物にされますかね?関係ないとしか思えませんけど。
違憲だ、という訴訟を起こすと、世論が動きますかね?多分、全然そうは思われてないと思いますけど。
電子化の是非と一切関係のないご意見が、財界がどうだの、構造改革路線がどうだのということです。
③違憲
「電子化は違憲」とかいう主張は、よくこれで訴訟提起しようと思ったもんだな、とは思いますね。医師会の顧問弁護士とか、きちんとアドバイスをしなかったんでしょうか?それとも、ダメでいいけど訴訟を起こしてもらうのは金になるから、まあ「法律音痴な医師たちが満足してくれるなら、ま、いいかな」というようなことでもあるんかいな、と勘繰りたくもなりますが、きっと大真面目に「勝てる!」と思って提訴したんでしょうね、多分。訴えるのは自由ですから、まあ好きにすればいいと思いますけど、時間と金と労力の無駄なんではなかろうか、というのが、私の率直な意見です。
笑える。
もしも私が医師会会員ならば、そんなところに金を無駄に突っ込んで、会費をドブに捨てるようなマネは止めてくれ、ってなことは思いますわな。自民党は支持率が超低空飛行なので、「医師会にさえ離れていかれたら、もっと窮地に立たされる」というような、足元を見られているだけでしょう。それだけなのに、与党が問題視したことをあせってる、とか言われて、日経さんだって困るでしょう。
④電子化すると裁量権が失われる
日医の役員だから、ということなのかもしれませんが、
「医師の裁量権が失われ、さらに患者の特性に応じた医療が制限される恐れがある。新たな医療・高度な医療へのインセンティブが弱まり、医療の平均水準が低下する。」
と言ってるんですよね。
レセプトを電子化するのと関係ない話ですね。今後、そういうデータを蓄積していけば、「標準化」とか「コスト」を考える時に役立つんじゃないかな、という話でしょう。因みに、標準化すると「裁量権が失われる」という理屈はどうやって出てくるのか、甚だ疑問です。一定範囲内においては自由裁量でよい、というのが、標準化の基本的な仕組みなのでは。
携帯電話のセット料金みたいなもんですよ。「なんとかプラン」にしたら、通話時間の自由裁量が失われてしまった、なんて話は聞いたことがないわけで。ある範囲内においては、「その料金ですね」ということで、実際には自由ですよ。個別に色んな場合がありますよ。「なんとかプラン」にした人たちは、全員同じ利用状況にしかならない、とかいう話があるわけないじゃないですか。個々で違いますよ。でも、同じ料金体系、プランでやれるんです。
新たな医療、高度な医療の多くは、殆どの場合に大学病院とか基幹病院等の「規模の大きい病院」で実施されているんじゃありませんか?ひょっとすると、小さな一般開業医でも何か高度な医療が行われているのかもしれませんが、電子化すると「そういうのができなくなる」といった特別な理由というものがあるんですか?
多分、何もないと思いますけど。それは電子化には、何ら関係がありません。
以上、かなり大雑把にしか見ていませんが、どれも「反対理由」とは言えないようなものばかりでは。
もっと身近な例で書いてみますか。
昔は、レジ打ちって、今のバーコードとかではなかったのです。全部、値段をぞれぞれに貼っていた。商品1個1個に、値段を示す「95」とかいうテープを打ち付けていたわけです。人力で。それとも、商品点数が限られていると、テープさえも付けないでレジ打ちをやっていたんですよ。昔の女性って、鬼のような記憶力を発揮させられて、全商品の値段を暗記させられたんですよね。後は、「そろばん」で計算か、でかい電卓キーみたいなレジか、だった。商品の数が50~100くらいだと、ほぼ暗記可、なわけですよ。それをいかに早く、間違わずに打てるか、という、今から思えば「神の領域」的なレジをやっていた。
野菜、肉や魚などの生鮮品は日々値段が変わることがあるので、そういうのは「覚え直し」していただろうし、特売品みたいなのや割引品なんかも、個別に暗記するわけですわ。時に、レジの脇には「アンチョコ」みたいなメモ紙が貼ってあったり、下敷きくらいのボール紙に書いた「値段表」のような一覧で確認したりすることが、たまにあったわけです。だから、ベテランさんのレジの列と、不慣れな人の列では、「歴然とした差」という、圧倒的な格差が見られたわけです。単位時間あたりにこなせる客数が、全然違うんですから。しかも、驚異の「ブラインドタッチ」を、平気な顔をしてベテラン女性はみんなやっていた。ゲームをやらせると、きっとあっという間に上達するだろうな、というような「驚異的指さばき」を見せていたわけなんですよ。子ども時代には、あのレジ打ちの技を眺めていて、シビれたもんです。多くの主婦たちは、必死の形相でレジのおばちゃんが打ち間違えないかどうかを監視していたんですよ。で、時に間違いがあったりすると、「この納豆、50円よね、ホラこの80円、間違ってるから」みたいに言うわけです。レシートと商品を持っていって、金返せ、みたいに訂正させていたんですわ(店側も防衛の為に、商品の種類によって分類番号を割り振っていたりしていたのではないかと思う。生鮮品は5番、乾物類は3番、みたいな)。
金額の訂正は、まあいい。要するに、品物全部の値段を頭に叩き込むとか、貼ってあるテープの数字を早く打ち込むとか、そういう特殊な能力を必要とされていた、ということです。それらは、多くが人力作業に依存し、間違いも数多く発生したわけです。ところが!
バーコードとか、読み取り機が登場してからは、どう変わりましたか?
かつての神業的な技能はなくても、今日来たバイトさんに教えれば、即できるようになった。しかも、欠品とか在庫管理とか、売上状況とか、そういう人力作業は、ほぼ要らなくなった。レジで集計できてしまうから。POSなんてのも登場するようになったしね。昔は、売れた数を確認したりして、発注をかけていたんだろうと思うけれど、今はほぼ機械でできる。棚卸も死ぬほど大変だったが、今は機械で管理できている。これが「効率化」ということの意味だ。
確かに、田舎の店なんかに行くと、骨董品なみのサビれたレジにお目にかかることがあり、なつかしいなあ~あのガチャガチャって響き、なんて思うことはある。それに、店内商品全部暗記、みたいな店はあるよ、本当に。だけど、大型スーパーなんかだと、そういうシステムを維持するのは、コストがかかりすぎるんだ。今は、お金勘定も自動だから、お釣りの渡し間違いも、ほぼない。昔は、50円玉と100円玉を間違えて渡した、とか、レジの集計と現金が合わないとか、死ぬほど辛い環境だったのだが(過誤が多ければ、きっと店長なんかに責められたに違いない)、今はそういうことからも解放されてきている。これが自動化、機械化の恩恵、ということだ。
レセプト電子化は、これまでの「全部人力レジ」から、機械化を進めましょう、というだけに過ぎない。導入すれば、病院事務の複雑な業務なんかは単純化されるし、特殊能力(昔のレジ打ちの女性みたいな)を養成しなくてもできるようになる、ということ。そういうのが、効率化につながるよね、という話なのに、一部の人たちだけが「できない、やりたくない」と反対すると、「機械化レジはダメだ」「バーコード反対、値段のテープにして」とか言ってるんですから。そういう旧式対応でやりたい人は、一部コストを負担してね(代行業者への手数料)というだけですから。他のみんなは、代行手数料を払わない代わりに、設備投資をしますよ、って言ってるわけだから。代行手数料が莫大な料金というなら、まだ分りますけど、多分1件当たり10~数十円程度でしかないですよ。それが不可能なわけない。
日医の反対意見は、説得力のあるものが一つもない、と言わざるを得ない。
まあ、日医さんは情緒を重んじて「永遠に人力レジで貫け」とか言うのかもしれんがね。バーコードレジにしよう、とか言ったら、「医療を崩壊させる」とか言い出すわけだ。時代錯誤も甚だしい。