元公安庁長官の緒方氏逮捕という異例の事態となりましたが、この事件について少し考えてみたいと思います。
Yahooニュース - 毎日新聞 - 朝鮮総連仮装売買 緒方元長官ら3人逮捕 詐欺容疑
(以下に一部引用)
調べでは、緒方元長官らは4月中旬~5月下旬、総連が中央本部の土地・建物の売却先を探していたことを利用して、この不動産をだまし取ろうと計画。購入代金を支払う意思も能力もないのに、総連側代理人の土屋公献(こうけん)・元日本弁護士連合会会長(84)らに「金主(出資者)が確実にいる」などと虚偽説明をした。
さらに、総連側に「先に所有権を移転登記し、後で売買代金を払う形にしたい。金主は登記手続きができて初めて安心して金を出せると言っている」と要望。5月31日に緒方元長官が社長の「ハーベスト投資顧問」を売却先とする売買契約を締結させ、翌6月1日に所有権移転登記を申請して、中央本部の土地・建物をだまし取った疑い。
緒方元長官はこれまでの会見などで「取引は仮装売買ではない。出資予定者が資金を必ず調達してくれるものと信じていた」と主張し、実現見込みのない売買契約だった疑いを否定していた。
特捜部は、中央本部の売却先が緒方元長官の会社だったことが毎日新聞の報道で発覚した今月12日、緒方元長官から初めて任意で事情聴取。13日には、電磁的公正証書原本不実記録・同供用容疑で関係先の家宅捜索に乗り出し、関係者の事情聴取を続けていた。
初めの頃は、売買を偽装していたのではないか、という疑いが持ち上がったのですよね。それが丁度RCC関連の判決直前の話であった。この時には、朝鮮総連と投資顧問会社との間で、強制執行を逃れる為に売買を偽装して、所有権の移転登記を行ったのではないか、というのが疑われていたと思う。これと非常によく似た説明が、虚偽表示 - Wikipediaに出ていた。
AはCからの借金を返せる見込みがなくなった。Aの財産で見るべきものは先祖伝来の土地のみであったが、この土地に対する強制執行を免れるため、Aは友人のBと相談して、Bへ売却したように装い、土地の登記名義もAからBに書き換えた。Cによる強制執行の危機が去った後、AはBに登記名義を戻すよう要請したが、Bは「この土地は買ったものだ」といって応じない。この場合、AB間の売買契約は両者の通謀によって作出された虚偽の関係であり無効とされるから(民法94条)、AはBに対して登記名義の移転を請求できる。もしもBがこの土地をDへ売却してしていた場合(登記していなくても)、DがAB間の虚偽表示について知らなければ(善意であれば)、Dとの関係ではAB間の売買は有効なものとして扱われる。すなわち、AはDに対して土地の返還を請求できない(民法94条2項)。
「虚偽表示」といっても、日常で用いられる用語とは異なっています。ミートのやった牛肉とかコロッケなんかの「虚偽表示」みたいなものとは違いますよ(笑)。この具体例で登場するAが朝鮮総連、Bが投資顧問会社、CがRCCということになるでしょうか。朝鮮総連の場合には損害賠償ですから借金ではないのですが、大して違いなどないでしょう。
で、通謀によって作出された虚偽の関係がAからBへの土地所有権の移転登記ということであり、これは民法94条第1項により無効となる、ということですね。この場合には、売買契約が無効となって「BからAへの移転請求が可能」ということです。しかし、全くの別人DにBが土地を売ってしまったら、Dが善意の第三者であると「虚偽表示」を知ることができないので、Bの所有権が有効となってこれを買った契約は効果を持つことになる、と。そうなってしまえば、AがDに「Bに売ったのはウソだったから、土地を返してくれ」と言っても、返せません、ということになりますよ、と。なーるほど。
民法第94条第1項は、『相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。』、第2項は 『前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。』となっている。これが、朝鮮総連仮装売買事件と関係していた可能性があったわけですね。
ところで、この前すごく適当に書いてしまったのだが(日本の憲法学者の真意を問う)、「意思表示」のような言葉は法律用語では全て決まっているものだったのですね。失礼しました。「意思表示」「錯誤」「売買」「贈与」とか、普通に使っている言葉とちょっと違うので結構困るよね。専門的意味で用いる時には、何かの印みたいなものがあればいいのですけど。経済学用語もそういう面が多いかも。中には、非常に悪い印象を与える言葉として定着してしまったものもある。「合理化」とか(笑)。最近あんまり見かけないけど。昔、立て看板とかプラカードとか、そういうものには「合理化反対!」って赤字で書いてあったな。何となくのイメージでは、「合理化」というのが「首切り」のことかと思っていた。
話が逸れてしまったが、逮捕容疑は詐欺罪ということのようで、これについて考えてみる。
民法上の詐欺と刑法上の詐欺罪は、似ているが異なっているようである。
詐欺罪 - Wikipedia
中身から大雑把に言いますと、詐欺罪成立には
①欺罔行為をする
②相手方が錯誤に陥る
③相手方の意思で利益の処分をする
④利益が行為者又は第三者に移転する
ということが必要で、①~④には因果関係が認められること、行為者の故意であること、というのが必要になる。
今回の事件でいえば、
・容疑者A、B、Cが最初から「(詐欺を)やる気があって」共謀
・Aがその過去の経歴や肩書き等をもって相手方を信用させた
・結果、相手方とその代理人は錯誤に陥った
(=自分たちの条件を受け入れる売却先が見つかると信じた)
・錯誤に陥ったので現金と移転登記を行った
・それら利益はA、B、Cに移転された
ということになるだろうか。
因果関係については、割と明瞭になっているのではないかと思われる。朝鮮総連と代理人が登記移転に応じたのは錯誤に陥ったからであり、Aらが登場しなければ所有権移転の登記は行われることはなかったであろうし、現金を渡すこともなかった。
問題になりそうなのは、
・故意が確認できるか
・緒方元長官の行為のどれが欺罔行為に当たるか
・相手方も通謀していたという主張を否定できるか
といったあたりだろうか。
仮に、「最初か売却先が見つけられないとしても、登記さえ移転しておけば強制執行からは逃れられる。だからたとえ資金提供者が現れないとしても損することはない」みたいに言っていたとすると、相手方が偽装表示に同意していたということがなかったのかどうかはよく判らない。
それと、共謀したA、B、Cが移転登記によって虚偽表示をしておき(総連側から所有権を移転し売買が成立したかのように見せかける)、これを「善意の第三者」のDに売却してしまったとしたら、総連側がDに返還請求はできなくなる。なので、共謀したA、B、Cが、全くの「善意の第三者」を装った本当は悪い人E(裏で共謀者の誰かと密通して買い取るという人)に売却し、これが成立してしまった場合には、どうなるのだろうか。Eには過失がなかったと言えるか?
普通の注意力をもってすれば、物件の所有権を辿れば「朝鮮総連の不動産」ということはすぐ判り、総連が「RCCと訴訟になっている当事者である」ということは十分知りえるわけであるし、売却が本当に行われたものであるか否かに疑問を抱く余地はあるのかもしれない。すると、民法94条第2項の善意の第三者には対抗できない、という規定が適用できない可能性もあるのだろうか?
だが、もし対抗できないとなれば、共謀者たちは本当に売却してしまい、売却先からの利益も得ることが可能になってしまうようにも思われるがどうなんだろうか。その場合、相手方がAらに「通謀していた契約なのだから、返せ」と求めても無効(Eへ所有権は既に移っている)であるので、損害賠償請求くらいしかないのかな?どうなんだろうか。
捜査開始時に推測された偽装売買であると、刑事事件としての捜査は可能だったのだろうか?強制執行を逃れる為に所有権を移転すると、何の罪になるのかな。よく判らないのだが。
最初の家宅捜索の時に別件捜査でやったのだが、あの時には具体的な罪状がなかったような気がする。電磁的公正証書原本不実記録とかって、微罪で取り掛かったということですもんね。詐欺じゃないとしたら何で逮捕だったのかな、とちょっと疑問に思ったので。
ちょっと追加。
強制執行妨害罪だそうな。
>東京新聞緒方元公安庁長官を逮捕 詐欺容疑、仲介役らも社会TOKYO Web
そんな罪があるとは知らなかった。でも、これって、○ちゃんだかの「裁判で判決が出ても賠償金を払わなくてもいいんだよ~」とか言ってたような人には適用にならないんだろうか?財産を隠しても罪になるんじゃないの???
Yahooニュース - 毎日新聞 - 朝鮮総連仮装売買 緒方元長官ら3人逮捕 詐欺容疑
(以下に一部引用)
調べでは、緒方元長官らは4月中旬~5月下旬、総連が中央本部の土地・建物の売却先を探していたことを利用して、この不動産をだまし取ろうと計画。購入代金を支払う意思も能力もないのに、総連側代理人の土屋公献(こうけん)・元日本弁護士連合会会長(84)らに「金主(出資者)が確実にいる」などと虚偽説明をした。
さらに、総連側に「先に所有権を移転登記し、後で売買代金を払う形にしたい。金主は登記手続きができて初めて安心して金を出せると言っている」と要望。5月31日に緒方元長官が社長の「ハーベスト投資顧問」を売却先とする売買契約を締結させ、翌6月1日に所有権移転登記を申請して、中央本部の土地・建物をだまし取った疑い。
緒方元長官はこれまでの会見などで「取引は仮装売買ではない。出資予定者が資金を必ず調達してくれるものと信じていた」と主張し、実現見込みのない売買契約だった疑いを否定していた。
特捜部は、中央本部の売却先が緒方元長官の会社だったことが毎日新聞の報道で発覚した今月12日、緒方元長官から初めて任意で事情聴取。13日には、電磁的公正証書原本不実記録・同供用容疑で関係先の家宅捜索に乗り出し、関係者の事情聴取を続けていた。
初めの頃は、売買を偽装していたのではないか、という疑いが持ち上がったのですよね。それが丁度RCC関連の判決直前の話であった。この時には、朝鮮総連と投資顧問会社との間で、強制執行を逃れる為に売買を偽装して、所有権の移転登記を行ったのではないか、というのが疑われていたと思う。これと非常によく似た説明が、虚偽表示 - Wikipediaに出ていた。
AはCからの借金を返せる見込みがなくなった。Aの財産で見るべきものは先祖伝来の土地のみであったが、この土地に対する強制執行を免れるため、Aは友人のBと相談して、Bへ売却したように装い、土地の登記名義もAからBに書き換えた。Cによる強制執行の危機が去った後、AはBに登記名義を戻すよう要請したが、Bは「この土地は買ったものだ」といって応じない。この場合、AB間の売買契約は両者の通謀によって作出された虚偽の関係であり無効とされるから(民法94条)、AはBに対して登記名義の移転を請求できる。もしもBがこの土地をDへ売却してしていた場合(登記していなくても)、DがAB間の虚偽表示について知らなければ(善意であれば)、Dとの関係ではAB間の売買は有効なものとして扱われる。すなわち、AはDに対して土地の返還を請求できない(民法94条2項)。
「虚偽表示」といっても、日常で用いられる用語とは異なっています。ミートのやった牛肉とかコロッケなんかの「虚偽表示」みたいなものとは違いますよ(笑)。この具体例で登場するAが朝鮮総連、Bが投資顧問会社、CがRCCということになるでしょうか。朝鮮総連の場合には損害賠償ですから借金ではないのですが、大して違いなどないでしょう。
で、通謀によって作出された虚偽の関係がAからBへの土地所有権の移転登記ということであり、これは民法94条第1項により無効となる、ということですね。この場合には、売買契約が無効となって「BからAへの移転請求が可能」ということです。しかし、全くの別人DにBが土地を売ってしまったら、Dが善意の第三者であると「虚偽表示」を知ることができないので、Bの所有権が有効となってこれを買った契約は効果を持つことになる、と。そうなってしまえば、AがDに「Bに売ったのはウソだったから、土地を返してくれ」と言っても、返せません、ということになりますよ、と。なーるほど。
民法第94条第1項は、『相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。』、第2項は 『前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。』となっている。これが、朝鮮総連仮装売買事件と関係していた可能性があったわけですね。
ところで、この前すごく適当に書いてしまったのだが(日本の憲法学者の真意を問う)、「意思表示」のような言葉は法律用語では全て決まっているものだったのですね。失礼しました。「意思表示」「錯誤」「売買」「贈与」とか、普通に使っている言葉とちょっと違うので結構困るよね。専門的意味で用いる時には、何かの印みたいなものがあればいいのですけど。経済学用語もそういう面が多いかも。中には、非常に悪い印象を与える言葉として定着してしまったものもある。「合理化」とか(笑)。最近あんまり見かけないけど。昔、立て看板とかプラカードとか、そういうものには「合理化反対!」って赤字で書いてあったな。何となくのイメージでは、「合理化」というのが「首切り」のことかと思っていた。
話が逸れてしまったが、逮捕容疑は詐欺罪ということのようで、これについて考えてみる。
民法上の詐欺と刑法上の詐欺罪は、似ているが異なっているようである。
詐欺罪 - Wikipedia
中身から大雑把に言いますと、詐欺罪成立には
①欺罔行為をする
②相手方が錯誤に陥る
③相手方の意思で利益の処分をする
④利益が行為者又は第三者に移転する
ということが必要で、①~④には因果関係が認められること、行為者の故意であること、というのが必要になる。
今回の事件でいえば、
・容疑者A、B、Cが最初から「(詐欺を)やる気があって」共謀
・Aがその過去の経歴や肩書き等をもって相手方を信用させた
・結果、相手方とその代理人は錯誤に陥った
(=自分たちの条件を受け入れる売却先が見つかると信じた)
・錯誤に陥ったので現金と移転登記を行った
・それら利益はA、B、Cに移転された
ということになるだろうか。
因果関係については、割と明瞭になっているのではないかと思われる。朝鮮総連と代理人が登記移転に応じたのは錯誤に陥ったからであり、Aらが登場しなければ所有権移転の登記は行われることはなかったであろうし、現金を渡すこともなかった。
問題になりそうなのは、
・故意が確認できるか
・緒方元長官の行為のどれが欺罔行為に当たるか
・相手方も通謀していたという主張を否定できるか
といったあたりだろうか。
仮に、「最初か売却先が見つけられないとしても、登記さえ移転しておけば強制執行からは逃れられる。だからたとえ資金提供者が現れないとしても損することはない」みたいに言っていたとすると、相手方が偽装表示に同意していたということがなかったのかどうかはよく判らない。
それと、共謀したA、B、Cが移転登記によって虚偽表示をしておき(総連側から所有権を移転し売買が成立したかのように見せかける)、これを「善意の第三者」のDに売却してしまったとしたら、総連側がDに返還請求はできなくなる。なので、共謀したA、B、Cが、全くの「善意の第三者」を装った本当は悪い人E(裏で共謀者の誰かと密通して買い取るという人)に売却し、これが成立してしまった場合には、どうなるのだろうか。Eには過失がなかったと言えるか?
普通の注意力をもってすれば、物件の所有権を辿れば「朝鮮総連の不動産」ということはすぐ判り、総連が「RCCと訴訟になっている当事者である」ということは十分知りえるわけであるし、売却が本当に行われたものであるか否かに疑問を抱く余地はあるのかもしれない。すると、民法94条第2項の善意の第三者には対抗できない、という規定が適用できない可能性もあるのだろうか?
だが、もし対抗できないとなれば、共謀者たちは本当に売却してしまい、売却先からの利益も得ることが可能になってしまうようにも思われるがどうなんだろうか。その場合、相手方がAらに「通謀していた契約なのだから、返せ」と求めても無効(Eへ所有権は既に移っている)であるので、損害賠償請求くらいしかないのかな?どうなんだろうか。
捜査開始時に推測された偽装売買であると、刑事事件としての捜査は可能だったのだろうか?強制執行を逃れる為に所有権を移転すると、何の罪になるのかな。よく判らないのだが。
最初の家宅捜索の時に別件捜査でやったのだが、あの時には具体的な罪状がなかったような気がする。電磁的公正証書原本不実記録とかって、微罪で取り掛かったということですもんね。詐欺じゃないとしたら何で逮捕だったのかな、とちょっと疑問に思ったので。
ちょっと追加。
強制執行妨害罪だそうな。
>東京新聞緒方元公安庁長官を逮捕 詐欺容疑、仲介役らも社会TOKYO Web
そんな罪があるとは知らなかった。でも、これって、○ちゃんだかの「裁判で判決が出ても賠償金を払わなくてもいいんだよ~」とか言ってたような人には適用にならないんだろうか?財産を隠しても罪になるんじゃないの???