これには驚いたよ。この前から幾度か読み返してみたけれど、あまりに残念な判決と言わざるを得ない。最高裁判事は魂を売ったのか?
ここ最近の判決を見るにつけ、ちょっとどこかおかしいな、という感が否めない。これは最高裁ばかりではないけれど(高裁も、だな)、言ってみれば、「そんなに批判されるのが悔しいか」というようなものである。ザコを相手にどうこうというのもないとは思うが、それにしても、あまりに「体制寄り」判決が気になるところである。
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平成20受1240地位確認等請求事件
これを読んで、さすがは最高裁判決、天晴れである、などとは到底思えないわけで、一体全体どうしちゃったの?と思わざるを得ない。他への影響が大だから、波及範囲が大きいから、ということがあるとしても、だからといって、強引な理屈をひねり出してくるのが最高裁の役目とも思われない。
最高裁が一部高裁判決を破棄した部分であるが、これは、「会社側」が本当にそういう理屈を主張したんですか?その担当弁護士がそういう理屈を生み出し、弁論でも同じく主張したものですか?
最高裁は、主張してないことを自ら作り出してもいいですよ、ということなのかもしれません。まあ、そういうもんだ、ということなら、仕方がないでしょう。
何度も言うが、高裁とか地裁判決は、どうして迅速にネット上で公開できないのかね?全部ではなくてもいいけど、最高裁まで行ったような事件については、全文を公開するべきだ。
本判決について、見てゆくことにする。
『請負契約においては,請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが,請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人にゆだねられている。よって,請負人による労働者に対する指揮命令がなく,注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には,たとい請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても,これを請負契約と評価することはできない。そして,上記の場合において,注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば,上記3者間の関係は,労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。そして,このような労働者派遣も,それが労働者派遣である以上は,職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないものというべきである。』
大雑把にまとめると、
ア)「請負契約」という法形式を採っていても請負契約ではない
イ)請負契約だが、実態として、「労働者派遣」である
ウ)派遣先と労働者の雇用契約はない
ということです。
『しかるところ,前記事実関係等によれば,被上告人は,平成16年1月20日から同17年7月20日までの間,Cと雇用契約を締結し,これを前提としてCから本件工場に派遣され,上告人の従業員から具体的な指揮命令を受けて封着工程における作業に従事していたというのであるから,Cによって上告人に派遣されていた派遣労働者の地位にあったということができる。そして,上告人は,上記派遣が労働者派遣として適法であることを何ら具体的に主張立証しないというのであるから,これは労働者派遣法の規定に違反していたといわざるを得ない。』
ここからは、
エ)H16.1.20~H17.7.20はCとの雇用契約による派遣
オ)派遣労働者の地位にあったが、派遣法違反
カ)上告人は労働者派遣として何ら具体的に主張立証しない
『しかしながら,労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質,さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば,仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても,特段の事情のない限り,そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである。そして,被上告人とCとの間の雇用契約を無効と解すべき特段の事情はうかがわれないから,上記の間,両者間の雇用契約は有効に存在していたものと解すべきである。』
キ)労働者派遣法違反の派遣が行われたとしても、派遣元との雇用関係は有効
ク)無効と解すべき特段の事情はうかがわれない
はっきり言って、これが本当に最高裁判決なのか、と思う程に酷い判決です。これは、最高裁判事が誰からも、結論をひっくり返される虞がない、という圧倒的優位にあるからなのではないかとさえ思えます。
ア)、イ)、ウ)から、
「違法だけど、実態としては派遣だから、お前は派遣労働者だ」
最高裁はこう言ったわけなんですよ。
だったら、他にもいくらでも同じ理屈は通用するでしょう。例えば、違法な資金集めをして運用したりする犯罪がありますよね?出資法違反だか、証券業法違反だか、信託法違反だか知りませんが。
適当に客から金を預かって運用し、儲けを分配しますよ、ということで、取引一任勘定で運営したとして、これが大損を出して金が戻ってこないとしますか。そうすると、「違法だけど、実態としては特定金銭信託だから、契約は有効」ということになってしまい、出資した側は金を取り戻せない、ということになりますわな。契約時の謳い文句にもよるのかもしれませんが、投資損は普通だから「そんなの自己責任じゃん」ということで片付けられますよ、と(笑)。
こんなの、いくらでも通用しますよ。
「違法だけど、実態としては○○だから、契約は有効」
ってな。どんな理論なんだ、そりゃ。
カ)の派遣先企業が何らの主張立証をしない、というのに、最高裁が代弁してくれて、被告人が行っていない立証を肩代わりしてくれましたぜ、ということなんでしょうかね。弁論主義だか、そういうのはどうなったのか?(笑)
エ)より、契約締結時には、特定製造派遣は一律禁止であって、「派遣労働者」というものが存在しなかったのに、法的身分としては「派遣労働者」ということになるって、どういう論理なんですか?
百歩譲って、法的に存在し得ないはずの派遣であるとして、「派遣労働者」だということを認める、としますか。そうすると、派遣労働者であれば、労働者派遣法「40条の四」が有効となるので、1年を超えて同一労働者を派遣労働者として使用することはできない。
○労働者派遣法 第四十条の四
派遣先は、第三十五条の二第二項の規定による通知を受けた場合において、当該労働者派遣の役務の提供を受けたならば第四十条の二第一項の規定に抵触することとなる最初の日以降継続して第三十五条の二第二項の規定による通知を受けた派遣労働者を使用しようとするときは、当該抵触することとなる最初の日の前日までに、当該派遣労働者であつて当該派遣先に雇用されることを希望するものに対し、雇用契約の申込みをしなければならない。
事実関係からは、エ)の如く1年を超過していることは明白である。従って、派遣先においては、「雇用契約の申込み」義務があるのであって、本件企業がそうした義務を履行したのかと言えば、義務違反は明らかである。これが違法ではなくて、一体何なのか。40条の四の規定は、「35条の二第二項規定」の通知が条件となっており、当該派遣先が「通知を受けていない」という事実を主張するかもしれない。そうすると、本件では元々が違法な「請負契約」という法形式を採っているのであるから、派遣元と派遣先企業とが一致結託している限り、「請負契約」の法規制に基づき行動しようとするだろうし、かといって最高裁認定のごとく「これは請負ではなく、派遣だ」と事後的に法的身分を決められるわけだから、当時において派遣法に基づく「雇用契約の申込み」など起こるはずもないわけである。
もしも、労働者派遣法に基づいて企業が行動するのであれば、1年を超えて使用することができなかったのであるから、雇用関係はCとの派遣契約ではなく、1年経過以後には当該派遣先企業において「雇用契約締結」が行われねばならなかったはずなのだ。法的身分だけは派遣労働者だと認定し、派遣だったのだから「Cとの雇用契約は有効」という、派遣先企業に都合のよい部分だけを取り上げて認定しているのである。
派遣労働者であったにせよ、40条の四に違反しているのだから、1年経過以降の雇用関係というのは、派遣元であるCではなく、本来は派遣先企業が雇用の申込みを労働者側に率先して行うべきが法の趣旨である。
それを、最高裁は、労働者派遣法の「趣旨」「取締法規としての性質」「派遣労働者保護の必要性」について、何一つも示すことなく、つまりは抽象的な文言に留めて体裁を繕っているに過ぎないではないか。
上限金利と何が違うと思うか?
派遣期間を超過するのと、利息制限法にいう金利上限を超過するのと、何が違うの?
更には、労働基準監督署に申立をしたら、報復人事が行われたとしか見えないのであって、こういう企業側報復を肯定しているかのような姿勢には、甚だ疑問と言わざるを得ない。最高裁の神の如き物事を見通す能力によれば、たとえば「詐害意思のあったことは明らか」みたいに、そんな具体的証拠がないにも関わらずいくらでも判断できるみたいですから、本件のような「訴え出たので報復」としか見えない人事異動や雇用契約を正当化するというのは理解できない。
本件労働者は、違法な派遣であっても、黙って働いていたならば、「合法的で健全な(笑)」派遣労働者としてではなく、「違法だけど実態としては派遣労働者」として仕事を失うことなく、H18年1月31日以降にも当該派遣先で働いていたであろうことは想像に難くない。派遣労働者は、製造業であっても3年に延長されたのがH19年だからだ(笑)。
もっと言うと、最高裁は、現に「一度も雇用契約は延長されていないではないか」ということを取り上げているのである。こんな論理がまかり通っていいのか。
『前記事実関係等によれば,上記雇用契約の契約期間は原則として平成18年1月31日をもって満了するとの合意が成立していたものと認められる。(中略)
しかしながら,前記事実関係等によれば,上告人と被上告人との間の雇用契約は一度も更新されていない上,上記契約の更新を拒絶する旨の上告人の意図はその締結前から被上告人及び本件組合に対しても客観的に明らかにされていたということができる。そうすると,上記契約はあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたとはいえないことはもとより,被上告人においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合にも当たらないものというべきである。したがって,上告人による雇止めが許されないと解することはできず,上告人と被上告人との間の雇用契約は,平成18年1月31日をもって終了したものといわざるを得ない。』
ケ)雇用契約期間はH18.1.31満了との合意が成立していた
コ)雇用契約は一度も更新されていない
サ)更新拒絶意図は契約締結前から客観的に明らか
シ)期間の定めのない契約との混在はない
ス)期間満了後に雇用関係継続の合理的期待が認められる場合には該当しない
派遣先企業としては、当然の報復措置ということであって、サ)で企業側が暗に「お前のような反抗的労働者は雇うわけがない」という意思を示せば、更新など期待できるはずもなく、それをもって「現に一度も更新されてないじゃないか」という指摘を行うのは、不適切である。トートロジーのようなものではないか。更新する気がないのに、労基署に指導されたりしたので形式的に雇用関係を締結する為に使われた手口なのであって、訴える側は「更新されないのは、おかしい」という主張であるのに、「だって、一度も更新されてないからだ」という理由を返すのか?
最高裁は「はじめから企業側は雇う気がなかったのは明らか」なのに、合意してサインしたのはお前だろ、ということを言っているわけである。この契約は有効なんだ、と。
これは、消費者金融が「借り手は合意してサインしたんだ」の論理と何が違うのか?違法金利だろうと、違法契約だろうと、「契約書は合意してサインしたんだから有効」というつもりか?
もしも労働者が「期間の定めがあるのでサインできません」と回答したら、「じゃあ、働く気がないんだね?ということで、雇わないから、よかった、よかった」と企業側に有利に処理されて終わりじゃないか。
本件判決では、
・特定製造派遣は存在しなかったのに、法的身分は派遣労働者
・1年以上の派遣労働禁止だったのに、1年以上派遣労働者のまま
・労基署申立後の不利益処分を受けた
・責任回避の為の雇用契約であることが明白であるのに、これを肯定
ということで、あまりに企業側に有利な判決であると言わざるを得ない。
強引かつ無理な論理の積み重ねでしかないような判決である。
正義は、一体どこへ行ってしまったのか?
僅かに補足意見がついていたのみである。
医療界の判決には、無闇矢鱈と杓子定規に「違法」認定、取り立てて僅かな違法性解釈も採用するわけだ。しかし、何故か労働者派遣法違反は、「違法である」という認定を回避するわけである。
身分犯やビラ配りみたいな、稀な法の適用とか違法認定を検察と法務省と一体となって喜んで遂行するような根性を持っていながら、一方では大企業の困ることには「暗黙の謙抑」が働くのか知らないが、やけに偏向したような判決が出される、と。
これが、日本の法を司る最高裁なのだそうですよ。
あまりにも残念である。