1)大きな視点でみれば
他の様々な改革についてもそうであったと思うが、大きな制度改革が実行されればこれまでとは異なった問題が生じてくるであろう。それら副作用的なものへの対処が可能な環境になっていなければならないであろう。つまりは、経済的環境が順調な時期、ということが大前提となるであろう。例えば、消費税率アップということについて、かつての如く駆け込み需要とか若干の混乱などが起こってしまうとしてもそれを吸収できる程度には、全体として安定性がなければならない。
なので、仮に制度改正へと実施段階となっていくとしても、かなり綿密なステップを組み上げることと、急激な変化をできるだけ抑制できうる対策を事前に準備しておかねばならないだろう。年金制度ばかりではなく税制改正も含めて、ということになれば、中期的な実施プロセスが必要となるであろう、ということ。その方向性を検討する上でも、早急な意見集約とか検討結果が出せるものでもないであろう。それくらい大きなテーマであるということだ。
さて、この作業中にできうることは、一体何か?
それはずっと問題となってきた「デフレ」だ。失業率の改善はやや進んできたのだが、ここに来て逆戻りの感が出つつある。それは米国経済の迷走という見えない不安が根底にあるだろう。世界経済にブレーキがかかってくると、当然日本にも影響が出るかもしれない、ということで、新規雇用を絞ってきている企業等が割りと出始めてきた可能性はあるだろう。昨年来からの日銀の金融政策が緩和から引き締めへと方向転換し、この変化を多くの経済主体が明確に認識することで経済活動に影響を与えたであろうと推測される。そうした金融政策上の大きな誤りによって依然としてデフレが継続しており、「名実逆転」現象も続いたままなのである。これが解消されない限り、正常な経済成長過程には戻れない。その役割を担うはずの日銀は、政策的失敗を認めないどころか硬直的な官僚主義の悪弊とも言うべき「失敗の隠蔽」に狂奔しているのみである。
デフレ脱却チャンスを迎えた「ITバブル期」においても、日銀は過剰なまでの反応で引き締めへと動いて日本経済の回復機会を確実に潰した。そして今回(量的緩和解除~利上げ)もまた日本経済の好転を敢えて潰したことで、デフレ脱却への足がかりが失われようとしているのである。金融政策決定会合のメンバーは、昔であれば即刻「腹を切れ」(笑)と言われても当然であろう。彼らは独立性を盾にして、重大な失敗に関して責任を問われることが決してないのである。故に、反省もないのである。
「どのようにして成長率を上げるのか?」
誰にも答えの判らない問いをいつまでも発して、これに囚われている限り、結果は同じなのである。成長力の源泉は「人々のspirit」としか言いようがない。それを操作することなど難しいに決まっている。かといって、何もできないわけでもないだろう。たとえば梅田望夫氏のようなオプティミストがどんどん誕生してきて、旺盛な活動ができるように環境を整備していくことは可能だ。何故そうなるのか、なんて今のところ判らない。でも、人々が何かを信じて「やれる、きっと大丈夫、できるはずだ」という考えを持つに至れば、そうなるだろう。
付加価値にしても、何が大きな価値を生み出すのかなんて判らない。それは「絶対に大当たりする映画」とか、「人気沸騰のアニメ」とか、「ベストセラー間違いなしの本」とか、そういったものの法則性を見出すか筋立ての原則を発見するようなもので、「誰にも判らない」としか言いようがないのである。「どうやって?」と頭の悪い子どもみたいに同じ質問を繰り返している限り、前進はない。自分で考えずにすぐに答えを聞こうとばかりすることそのものが、ダメな証だ。みんなで色々とやってみるしかないんじゃないか。やってみたら、中にはうまくいくものが出てくるだろうな、ということ。付加価値なんてある種のサギみたいなもんで(笑、冗談です。これは言いすぎだ)、オレが球を投げても一円にもならないが、松坂が投げると600万ドルになる、みたいなもんだな。「ボールを投げることにそんなに価値があるか?誰がわざわざ大金払うんだよ!」とか言われたとしても、実際価値を生み出しているのは確かなんだから。
原価30円で手に入れた薬草を100円で売る人と、同じく1万円で売る人がいれば、後者の方が付加価値は大きいわけで。売る値段が「営業トークが違う」とかで変わるなら、「営業トーク」という能力に対して価値が付くことになるでしょう、多分。それは結局「自分の仕事はこれだけの価値があるものだから」と各人が思うのであれば、そういうことになるんだろうね。「スーパーカリスマ心理カウンセラー」が一回30分で2万円なのと、「無名平凡心理カウンセラー」が1回30分で2000円なのでは、「人の違い」ということでしかないもんね。
実質成長には何かと不明点が多いのだけれども、少なくとも名目成長は「会計上の規則」みたいな性質があるので、数字自体が大きくなっていくことはそんなに難しいわけではない。まずこれをどうにかせねば、いつまで経っても低成長率が続いていってしまうのですよ。その結果として、過去の債務が過重負担となり、借金苦のせいで今のような疲弊をもたらしたのですよ。これを正常化させない限り、日本の将来はありません。
2)高額所得者ほど社会保険料負担率は少ない
現行制度と同様の所得税と住民税であるとして、独身者のAさんとBさんを考えてみる。
(税額が正確に判らないので、大体の収入水準ということになると思います。Aさんの国民健康保険料が若干異なるかもしれませんが、大して変わらないであろうと思います。Bさんは最高等級なので影響を受けません。)
税金と社会保険料以外の「残り」を全額消費に回すものとします。
○Aさんの年収180万円(+税金)=(所得税+住民税)+国民年金163200円+国民健康保険130800円+残り1506000円
社会保険料294000円は収入の約16.33%、この他に消費税5%分75300円を払っているので、実質使えるのは1430700円(約79.48%)。
○Bさんの年収1800万円(+税金)=(所得税+住民税)+厚生年金620000円+健康(+介護)保険848700円+労働保険108000円+残り16423300円 (税込みだと2千万円くらいになるでしょうけど、分母は1800万円として計算します)
社会保険料1576700円(約8.76%)と消費税5%分で約821000円、実質使えるのは15602300円(約86.68%)。
こうして見れば、高額所得者の社会保障負担比率は軽減されており、Aさんは労働保険がないとしても負担割合は多いのです。これを保険料ではなく消費税15%としたならどうなるか比較します。
・Aさん180万円=実質使用分1530000円+消費税270000円
・Bさん1800万円=実質使用分1530000円+消費税2700000円
当たり前なのですが、消費税15%で同一なので同じ比率分だけ負担することになります。Aさんの負担額で見れば、約37万円くらい社会保険料負担がありましたが、10万円くらい軽減されることになります。Bさんの負担額は若干増えていて、約30万円くらい増税効果があります。
但し、高額所得者は貯蓄に回す比率が大きいので、全額消費に回すものとは考えられませんから、直接税の累進性を強化するといった工夫が必要になると思います。そうでなければ現行制度の社会保険料+消費税合計額の2397700円を下回ることが可能になりますからね。例えば200万円貯蓄して1600万円消費に回すと、消費税15%分で240万円であると現行制度と同じくらいですから、もうちょっと多く貯蓄に回せばいいということになりますので。それと、Bさんがもっと高額所得者である場合には、社会保険料負担率は更に低下していることになります。
他には、資産総額に応じて配当課税や利子課税を強化するというのも有効になります。日本では税率が一律適用となっていますが、諸外国では異なる税率適用があります。更に、贅沢品や高額商品への消費税率を高くして、食料品や日用品の課税率を低くする(現行~8%程度)ことも必要だろうと考えています。
高額所得者は殆どが大都市部に集中していること、人口比ではごく少数に過ぎないこと、などから、実施は障害が少ないと考えられます。例えば住民税率を大幅に引き上げてみたとしても、実質的には殆どが都会での話、という面が強いのではないかと思います。こうした課税強化について抵抗すると考えられるのは、特に政治的影響力の大きい人々(政財界人)であり、これまで社会のルールを作ってきた側にいた人たちということになるでしょうか。
彼らに対抗する方法とは、ズバリ「票」です。株主の議決権と違って、納税額で票の大きさが決まっていませんからね。誰でも1票なのです。故に、ごく少数の大金持ちや特定階級の人々を突き崩せるのは、名も無き人々の票です。言うなれば、大株主に対抗するために、小口株主でもみんなの委任状を集めて票数で勝つ、みたいなものですね。なので、権力階級に勝つ方法というのが、無名の一般大衆の「投票力」なのだ、ということを、もう一度多くの人々に自覚して欲しいですね。特に若い世代の方々にこそ、考えてもらいたいのです。現状の高齢世代にいいように負けている状況というのは、票の動員力による違いなのです。
3)大企業こそ高額所得者である
法人について触れておきたいと思います。企業であっても、いってみれば人間みたいにみなしたものが法人ですので、ごく少数の「高額所得者」にはそれなりに課税を強化するという理由は有り得そうに思われますね(笑)。何故大企業の言い分だけが通ってしまうのかというと、少数ではあるけれども支配下領域が広いのと(関連会社、下請け会社や業界全体など)、政治中枢への距離が非常に近いので密接である、ということです。発言力の大きさが大きい、ということだけであって、彼らが必ずしも正しい主張をしているとか、日本全体の意見を代弁しているわけでもありません。政官業構造の中でうまくやってきた、ということはあると思います。
大企業は法人の中の僅か0.3%くらいでしかありませんが、日本の法人全体の富の多くを占めているでありましょう。これはまさしく0.3%の超高額所得者たちが、どれくらいの収入や資産を持っているか、みたいなものと似ているのではないでしょうか。集中しているところから取るのが望ましいですね(笑)。「法人税を下げろ、下げろ」と財界人たちが言ってきたことは、一体全体何の効果があったであろうか?これまでの教訓としては、あまりメリットがなかったどころか、大きな誤りであった可能性すらありますね(笑)。
・法人税引下げで投資効果は大きかったか?→NO
企業投資はあまり活発にはならず資金需要もダメ。04年以降からようやく設備投資が増えたくらい?
・株価は大きく上昇したか?→NO
企業利益が多くなるはずが、逆に大きく下がった。日経平均でもTOPIXでも見てみたら?海外企業に負けるだの、株主がいなくなって株価が下がるだの言っていても、外国人投資家がボロ安値で大量に仕込んだだけ。騙されて持合解消を進めた結果、海外企業に買収されてもいいのか、まで言い出す始末(爆)。法人税率と企業成長力はあんまり関係なさそうかもね、と。
・納税額は増えたか?→NO
空前の企業利益とか言いながら、納税額は大幅ダウン。財政再建の足を引っ張る張本人が大企業(笑)。10兆円規模で企業が持ち逃げした結果、税収悪化を招いた。そのツケを国民全体の課税強化、保険料上げ、などで払わせた。それが自らに回り回ってきて、売上高減少などに繋がったのかも。
法人税の国と地方の取り分を工夫するとか、税率について自治体独自に設定可能でなければ、意味がない。田舎で法人が少ない地域こそ、法人税率は低くてもいいし、国税を払う理由なんてないように思うね。大企業が法人税下げろ、とか言うなら、本社を法人税の安い田舎に移転すればいいだけなんだよ(笑)。人気の高い地域(例えば東京)ほど高い税率でもよく、人気のない地域は安い税率で呼ばないとダメに決まってる。新興企業を育てようと思えば、田舎ほど低い税率でも十分なんだよ。ゼロだった税収を少し増えるだけでも得なんだから、田舎でしか営業してない企業はちょっぴりの法人税であってもいいのです。それより雇用効果とか消費人口増なんかの効果が期待できるから大幅に得になる。工場や店舗などがあるとか、雇用されてる人が住むから住民税とか固定資産税とか増えるし。
なので、大都市圏以外の地方ほど安い法人税にできるから、本社を移転するだけで法人税率を下げられることになるよ>大企業どの
あと、社会保険料の事業主負担分の問題を書いておこう。
厚生年金の適用事業所から意図的に外れていたりすることは多々ある。これまで摘発は困難だったが、徴税は厳しいのでかなり捕捉されているだろう。なので、保険料なんかではなく税として徴収する方が、強制力は発揮しやすい。事業主の未払いで年金保険料が未納扱いとなってしまったりする問題も防げる。雇用保険詐欺みたいなものも防ぎやすくなると思います。
現行制度では、年金保険料が約15%まで上がってきましたので事業主は7.5%くらい払いますし、健康保険と介護保険あわせて9.43%の半分払うことになります。合計では約12.22%です。労働保険関係では、事業主負担分が雇用保険0.9%、労災(0.45~11.8%の幅があるが、大体は0.5%程度)0.5%として合計で約1.4%となります。社会保険料分は、ざっと13.62%くらいは払っていることになります。
ただ、非正規雇用者の多くは適用から漏れていることが多いので、これまでの「適用になる人とならない人」という区分をなくし、「給与総額」に対して一定の料率を適用して払わせるということを想定しています。給与計算などは簡略化されるでしょう。法人税などとは全く別の税ということで、新税を作るということになります。大企業ではやや高い税率、中小企業ではそれより低めにしてもいいと思います。大企業は15~18%、中小では13~15%くらいでしょうか。これは全ての事業所に適用になります。年金だけ先に制度を変えていくのであれば、この新税の料率はそれに応じたものとなります(他の医療保険や労働保険関係は当面残ることになる)。
保険料方式から切り替えたとしても、企業にとっては必ずしも増税ということにはならないでしょう。既に納めている事業主負担分程度の税を払ってくれ、ということですので。しかも、これまで払ってこなかった企業や非正規ばかり増やしていた企業の多くは別に払わされることになり、若干ではありますが懲罰的な面があるかもしれません。
まあ、全部をいっぺんにやると企業でも困るところは出てくるので、順番にやっていくといいと思いますね。まずは労働保険関係から始めてはいかがでしょうか。料率が小さいし面倒な労働保険料の事務から役所は解放されるでしょうから、労働環境の指導などにもっと労力を充てられるようになるのでは?事務組合とかの経費削減にも繋がります。
参考記事:
年金一元化を再び取り上げる