ちょっと時間がないので取り急ぎ。
以前、日本経済の停滞原因はTFPの低迷とか何とかあったよね。
イルカはサメになれない
これの関連で、原田泰氏らが書いてたペーパーで見たことがあって、それをご紹介と思う。
資源配分効率から見た戦前期日本の成長と変動
これは例の生産性論争の時、見つけたんですよ。勉強させてもらえて有り難いことです。あと、過去の歴史から色々な教訓を学ぶのは、大事ですよね、やっぱり。
後ほど追加したいと思いますが、とりあえず。
追加です。
このペーパーの中で「4. 乖離と全要素生産性の変化で昭和恐慌を説明できるか」という項があるのですが、そこでの記述を一部取り上げたいと思います。
『表2(1)に見るように、22-29年に順調に成長してきた経済が、29-31年に昭和恐慌に陥った。このような成長率の変動の大部分を説明しているのはTFPである。すなわち、1922-1929年の年平均成長率2.84%が29-31年にはマイナス3.65%へと6.49%ポイントも低下したことの大部分は、TFPが1.01%からマイナス5.25%へと低下したことによって説明される。
次に、全要素生産性を一定とし、実質賃金と労働の限界生産性の乖離がなかった場合の29-31年の仮想的な成長率と現実の違いに関しては、表2(2)のようになる。これによれば29-31年の平均成長率は3.73%と現実値に比べて大きいのみならず、29-31年の2.84%よりも大きくなる。これは実質賃金の低下により雇用が増大することとTFPが一定であるとしているからである。すなわち、この場合には、昭和恐慌は存在しなかったことになる。
しかし、TFPの低下はきわめて大きいので、TFPをソロー残差としたままでは、実質賃金の乖離がなくても生産は大きく低下する。だが、TFPがこの期間に急減したことを説明する要因を見出すことは困難であり、TFPの低下が昭和恐慌の原因であると結論付けるのも難しい。』
昭和恐慌における分析ではTFPの低下が観察され、成長率低下の大部分を説明されうるようである。バブル崩壊後の期間においても、同じくTFP低下が観察されるようであり、これにより成長率低迷を説明する試みがなされたということなのであろう。考え方としては、同じように思われる。成長率低迷があれば、その変動原因となっているか否かは正確に判らないまでも、TFP低下が観察される、ということなのであろう、と理解した。
続いて、「5. 経済変動の要因は何か」から引用してみる。
『以上要すれば、マネーサプライの変動が、実質賃金と労働の限界生産性の乖離とソロー残差と現実の生産と推計された生産との乖離の変動を引き起こしていると言えそうである。もちろん、因果関係を逆転させて、生産性の変動が金利を安定化する金融政策のもとでマネーの変化となったと論じることは可能である。しかし、そのためには、金融政策とは関係のない生産性の変動や実質賃金と労働の限界生産性の乖離が生じたことを説明しなければならない。しかし、そのような説明の試みはなされていないようである。』
ここまで見てくれば、TFP低下が原因であると考えることは難しい。むしろ観察される現象の一つであるとみなすのが妥当なように思われるのである。何故なら、もしも成長率低迷の最も重視するべき要因として「TFP低下」があるのであれば、金利政策の必要性そのものが感じられないからである。日銀はそもそもいらないのではないか、とさえ言えるかもしれない(これは言い過ぎか)。景気動向などに左右されて金利を調節する意味合いは殆ど感じられないからである。景気後退期になれば、TFP低下を防ぐ(高める)政策を常に選択すればよいということである。それが「原因に対する対処」ということになるのではないか。
仮説として、
◎成長率低下(低迷)の主な原因は、TFP成長率低下である
ということが言えるのであれば、金利政策の主な意味合いというのは何になるのであろうか?
経済変動によって生じる物価変動に対する、パッシブな物価コントロールというようなことであろうか。そもそも「景気が悪ければ金利を引き下げる」とか「景気が良くなれば金利を上げる」ということ自体が、「根本的に間違った説明」になってしまうように思われる。教科書をよく知らないから、このような疑問を生じてしまうのかもしれませんね。
例えば、「血圧が低下する」という現象が観察される場合、原因はいくつも存在している。大雑把に言うと、
①心臓から送り出される血液量(心拍出量)が減少する場合
②通り道である血管の狭さ(要するに容積、血管抵抗)が変わる場合
③循環血液量が減少する場合
のようなものがあります。これらのどれかが起こっていれば、「血圧低下」として観察される、ということなのです。原因が別ですので、対処も異なってきます。①の場合は、心不全とか心筋梗塞のような心臓のポンプ機能に問題が生じた場合なんかが多いです。②は血管が拡張するようなホルモンや薬物の影響とか、自律神経系の反応とか、一部のショックのような状態の時に起こります。③は代表的なものは出血ですね。
基本的に電流、電圧、抵抗の関係性とほぼ近いでしょう。ここで、「血圧低下の原因は~である」という仮説を考えることにしましょう。観察された現象が、「血管拡張」すなわち「血管抵抗の低下」であったとしましょう。
すると、仮説として
「血圧低下の原因は血管抵抗の低下である」
と言える、という主張をするということになります。この仮説自体が間違っている訳ではないのですが、これだけでは病状を改善することは難しいかもしれません。血管拡張を改善する為に「血管収縮薬を投与すればよい」と短絡的に考えてしまうかもしれませんが、それが必ずしも良い結果をもたらすとも言えないのです。更に考えるべきことがあるのであり、それは「何故血管抵抗が低下してしまったのか?」ということを探求しなければならないのです。ひょっとしたら、感染症が原因かもしれないし、神経系の障害が原因かもしれません。
つまり、
「血圧低下の原因は感染症である」
「血圧低下の原因は神経障害である」
「血圧低下の原因はショックである」
のような表現が必要なのです。観察された現象としての「血管抵抗の低下」と言うだけでは、不十分なのです。勿論、患者を目の前にした場面では、全てが正確に分らないままであっても治療を行っていかねばならないでしょう。血管拡張が実際起こっていることを直接観察なんかできない状態で、消去法的に可能性を絞り込んでいくしかないのです。
そういうわけで、元の仮説、「成長率低下の主な原因は、TFP成長率低下である」というのが、十分な説得力を持っているのか疑問に思われるのです。
以前、日本経済の停滞原因はTFPの低迷とか何とかあったよね。
イルカはサメになれない
これの関連で、原田泰氏らが書いてたペーパーで見たことがあって、それをご紹介と思う。
資源配分効率から見た戦前期日本の成長と変動
これは例の生産性論争の時、見つけたんですよ。勉強させてもらえて有り難いことです。あと、過去の歴史から色々な教訓を学ぶのは、大事ですよね、やっぱり。
後ほど追加したいと思いますが、とりあえず。
追加です。
このペーパーの中で「4. 乖離と全要素生産性の変化で昭和恐慌を説明できるか」という項があるのですが、そこでの記述を一部取り上げたいと思います。
『表2(1)に見るように、22-29年に順調に成長してきた経済が、29-31年に昭和恐慌に陥った。このような成長率の変動の大部分を説明しているのはTFPである。すなわち、1922-1929年の年平均成長率2.84%が29-31年にはマイナス3.65%へと6.49%ポイントも低下したことの大部分は、TFPが1.01%からマイナス5.25%へと低下したことによって説明される。
次に、全要素生産性を一定とし、実質賃金と労働の限界生産性の乖離がなかった場合の29-31年の仮想的な成長率と現実の違いに関しては、表2(2)のようになる。これによれば29-31年の平均成長率は3.73%と現実値に比べて大きいのみならず、29-31年の2.84%よりも大きくなる。これは実質賃金の低下により雇用が増大することとTFPが一定であるとしているからである。すなわち、この場合には、昭和恐慌は存在しなかったことになる。
しかし、TFPの低下はきわめて大きいので、TFPをソロー残差としたままでは、実質賃金の乖離がなくても生産は大きく低下する。だが、TFPがこの期間に急減したことを説明する要因を見出すことは困難であり、TFPの低下が昭和恐慌の原因であると結論付けるのも難しい。』
昭和恐慌における分析ではTFPの低下が観察され、成長率低下の大部分を説明されうるようである。バブル崩壊後の期間においても、同じくTFP低下が観察されるようであり、これにより成長率低迷を説明する試みがなされたということなのであろう。考え方としては、同じように思われる。成長率低迷があれば、その変動原因となっているか否かは正確に判らないまでも、TFP低下が観察される、ということなのであろう、と理解した。
続いて、「5. 経済変動の要因は何か」から引用してみる。
『以上要すれば、マネーサプライの変動が、実質賃金と労働の限界生産性の乖離とソロー残差と現実の生産と推計された生産との乖離の変動を引き起こしていると言えそうである。もちろん、因果関係を逆転させて、生産性の変動が金利を安定化する金融政策のもとでマネーの変化となったと論じることは可能である。しかし、そのためには、金融政策とは関係のない生産性の変動や実質賃金と労働の限界生産性の乖離が生じたことを説明しなければならない。しかし、そのような説明の試みはなされていないようである。』
ここまで見てくれば、TFP低下が原因であると考えることは難しい。むしろ観察される現象の一つであるとみなすのが妥当なように思われるのである。何故なら、もしも成長率低迷の最も重視するべき要因として「TFP低下」があるのであれば、金利政策の必要性そのものが感じられないからである。日銀はそもそもいらないのではないか、とさえ言えるかもしれない(これは言い過ぎか)。景気動向などに左右されて金利を調節する意味合いは殆ど感じられないからである。景気後退期になれば、TFP低下を防ぐ(高める)政策を常に選択すればよいということである。それが「原因に対する対処」ということになるのではないか。
仮説として、
◎成長率低下(低迷)の主な原因は、TFP成長率低下である
ということが言えるのであれば、金利政策の主な意味合いというのは何になるのであろうか?
経済変動によって生じる物価変動に対する、パッシブな物価コントロールというようなことであろうか。そもそも「景気が悪ければ金利を引き下げる」とか「景気が良くなれば金利を上げる」ということ自体が、「根本的に間違った説明」になってしまうように思われる。教科書をよく知らないから、このような疑問を生じてしまうのかもしれませんね。
例えば、「血圧が低下する」という現象が観察される場合、原因はいくつも存在している。大雑把に言うと、
①心臓から送り出される血液量(心拍出量)が減少する場合
②通り道である血管の狭さ(要するに容積、血管抵抗)が変わる場合
③循環血液量が減少する場合
のようなものがあります。これらのどれかが起こっていれば、「血圧低下」として観察される、ということなのです。原因が別ですので、対処も異なってきます。①の場合は、心不全とか心筋梗塞のような心臓のポンプ機能に問題が生じた場合なんかが多いです。②は血管が拡張するようなホルモンや薬物の影響とか、自律神経系の反応とか、一部のショックのような状態の時に起こります。③は代表的なものは出血ですね。
基本的に電流、電圧、抵抗の関係性とほぼ近いでしょう。ここで、「血圧低下の原因は~である」という仮説を考えることにしましょう。観察された現象が、「血管拡張」すなわち「血管抵抗の低下」であったとしましょう。
すると、仮説として
「血圧低下の原因は血管抵抗の低下である」
と言える、という主張をするということになります。この仮説自体が間違っている訳ではないのですが、これだけでは病状を改善することは難しいかもしれません。血管拡張を改善する為に「血管収縮薬を投与すればよい」と短絡的に考えてしまうかもしれませんが、それが必ずしも良い結果をもたらすとも言えないのです。更に考えるべきことがあるのであり、それは「何故血管抵抗が低下してしまったのか?」ということを探求しなければならないのです。ひょっとしたら、感染症が原因かもしれないし、神経系の障害が原因かもしれません。
つまり、
「血圧低下の原因は感染症である」
「血圧低下の原因は神経障害である」
「血圧低下の原因はショックである」
のような表現が必要なのです。観察された現象としての「血管抵抗の低下」と言うだけでは、不十分なのです。勿論、患者を目の前にした場面では、全てが正確に分らないままであっても治療を行っていかねばならないでしょう。血管拡張が実際起こっていることを直接観察なんかできない状態で、消去法的に可能性を絞り込んでいくしかないのです。
そういうわけで、元の仮説、「成長率低下の主な原因は、TFP成長率低下である」というのが、十分な説得力を持っているのか疑問に思われるのです。