結局、ロマン主義は多くの新しい問題を提起しながら、中途半端な形で霧散していく。それを弱さと問えるならば、湖畔詩人たちの転向やシェリーの実行力のない哲学や美学、キーツの没個性的な理念への逃避は、その「弱さ」の現れと言えるかもしれない。
『ドンジュアン 』でロマン主義に不可欠の「方向性」をバイロンは故意に示さず、反面、壁に跳ね返されない「強さ」を貫き通した姿勢は、認識の詩人らしく、同時代の詩人たちの言動の弱点は的確に捉えながら、彼らの方向性が辿る結末をすでに予感した次世代への布石であったのかもしれない。詩人のその姿勢を、構造主義を完全に否定するものではなく、その基本的思考に同意しながら、修正を施すものとしてポスト・構造主義と読んだように、評者は「ポスト・ロマン主義」と呼びたいのだが。
出典:坂口周作「ロマン主義からポスト・ロマン主義へ : バイロンの 『ドン・ジュアン』 を読む 」 『英文学思潮 』(青山学院大学)74巻,2000