日々雑感

読んだ本やネット記事の感想、頭に浮かんでは消える物事をつらつら綴りました(本棚7)。

「1Q84」

2009-06-14 15:21:14 | 小説
村上春樹著、2009年5月発行。

ご存じハルキさん久々の書き下ろし長編小説です。
私は40代半ばのおじさんですが、今を去ること四半世紀前の学生時代には村上春樹の小説にはまっていた1人です。
特に初期三部作である「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」は繰り返し読みました。

その後しばらく、本は買うものの読まずに放置し本棚のインテリアと化していました。
初期作品は言いたいことをギュッと凝縮して生まれた作品という印象を持っていましたが、あるとき言いたいことを引き延ばして書いていると感じ始め、魅力を失ったのかもしれません。

でも、何故か今回は発売と同時に購入して夜ごとページをめくりました。
わくわくしながら読み進めました。
そこには昔と変わらぬスタイルの文章が並んでいて懐かしささえ感じました。
特に「羊をめぐる冒険」を読んだときと同じような気持ちになりました。

主人公とそれを取り巻く人たちに共通するのは「孤独」「自己完結」。
幸せとは言えない家庭を背負って幼少時を生きてきた人間はある限定した範囲内での幸せしか享受できず、次世代に幸せを渡すことは出来ない。どこでそれに妥協するか手探りする人生。

昔から彼の小説はこの空気が通奏低音となっています。

主人公が袂を分かって久しい年老いた父親と会話する場面があります。
「僕は自分を愛せない。人を愛せないから自分を愛せない。」
いやいやハルキさん、それは逆ですよ。
「自分が愛されてこなかったから自分を愛せない、そして他人も愛せない。」
のです。

彼の小説が万人受けするのは不思議です。
今となってはノーベル賞候補にもなるくらいだから、世界中の人たちに受け入れられていることになりますね。
前述したように孤独を背負って生きていく人々が世界中にたくさんいることの証明かもしれません。

ハルキさんは一流のストーリー・テラーです。
山下達郎が「40歳過ぎた人たちが聞けるポップスを造りたい。」と言ったように、
ハルキさんは「40歳過ぎた人たちが夢中になれる物語を書きたい」のでしょう。
実際この小説も、体の衰えを感じ、性行為にも少し距離を置いて見ることが出来るようになる40歳代で初めて良さがわかると思います。
20代の若者が読んでも今ひとつピンと来ないのではないでしょうか。



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