宮澤賢治が残した作品の数々・・・惹かれるけれど今ひとつピンとこない・・・とずっと感じてきました。
「セロ弾きのゴーシュ」が好きで、当時つき合っていた女の子にプレゼントしたのは中学生の頃、今から45年も前のこと。
10年ほど前に、宮澤賢治を理解する一つのヒントを見つけました。
あるテレビ番組で、「賢治は自然の声を聞き会話ができる第六感の持ち主だった」との解説を耳にしたのです。
それから先日見たドキュメンタリー番組で、哲学者の梅原猛氏が
「宮澤賢治は植物を中心において文明を考えている」
「西洋の科学万能文明には限界があり、賢治の思想を取り入れる必要がある」
とコメントしていました。
ああ、なるほど。
彼の作品の不思議な登場人物達が少し理解できるようになった気がしました。
そして今回、以下のドキュメンタリーを見て目からうろこが落ちました。
■ 「宮澤賢治 銀河への旅 〜慟哭の愛と祈り〜」
<内容紹介>
「宮沢賢治には、恋焦がれるように慕った同い年の男性がいた」。「風の又三郎」「銀河鉄道の夜」などの代表作誕生の背景に、一人の男性との深い交流が明らかになる。残された賢治の手紙、ノート、資料を改めて読み解き、新たな宮沢賢治像を浮き彫りにする意欲的なドキュメンタリー作品。案内役に俳優・向井 理を迎え、賢治の思索の行程を追体験する。岩手の美しい景色やドラマを織り交ぜ、賢治の心の風景に迫った。
「宮沢賢治には、恋焦がれるように慕った同い年の男性がいた」。「風の又三郎」「銀河鉄道の夜」などの代表作誕生の背景に、一人の男性との深い交流が明らかになる。残された賢治の手紙、ノート、資料を改めて読み解き、新たな宮沢賢治像を浮き彫りにする意欲的なドキュメンタリー作品。案内役に俳優・向井 理を迎え、賢治の思索の行程を追体験する。岩手の美しい景色やドラマを織り交ぜ、賢治の心の風景に迫った。
盛岡高等農林学校の学生寮(自啓寮)に住んでいた賢治は、
2年生の時に新入生を同室に迎え、
その中に保阪嘉内という青年がいました。
不思議な青年で、
「トルストイのような人生を送るために農業学校に来ました」
と真剣に話すのです。
トルストイは晩年、財産を農民に譲って自分は旅に出て、旅先で人生を閉じています。
さらに嘉内は、農家・百姓こそ人間の生きる道である、と豪語します。
寮の懇親会で、同室の賢治と嘉内達は寸劇を発表することになりました。
「人間のもだえ」と題するその脚本を、嘉内は数日で書き上げました。
賢治と嘉内は神さまの役です。
賢治は黒塗りの神さま、
嘉内は赤塗りの神さま。
才能あふれる嘉内の光り輝く言葉に賢治は魅せられ、
二人は意気投合して同人誌「アザリア」を作り始めました。
しかしその同人誌に掲載した嘉内の文章が物議を醸し、
「彼は危険思想の持ち主」と学校側から非難され、
退学処分となり故郷に帰る羽目になりました。
賢治と嘉内の突然の別れ。
嘉内の故郷は山梨県の山間部(現在の韮崎市)。
少年期から豊かな才能の持ち主だった彼は、
賢治に出会う前からスケッチや文章を残しています。
その中に、「風の三郎」という風の神さまの祠や、
「ハレー彗星」のスケッチがありました。
ハレー彗星のスケッチの端に「夜行列車のようだ」という言葉が添えられていました。
そう、これらは後の賢治の作品である「風の又三郎」「銀河鉄道の夜」の原案となったのです。
作品の結末は「突然の別れ」という共通のモチーフです。
賢治にとって、嘉内の存在はそれほど大きく、影響を受けたのでした。
又三郎は赤い顔をして髪の毛も赤いですよね。
その赤塗りの容姿は「人間のもだえ」で嘉内が演じた神さまです。
賢治の前に突然現れ、風が吹くように消えていった嘉内がモチーフ。
では黒塗りの賢治の姿は・・・
「春と修羅」の修羅に使われることになります。
賢治は嘉内に叶わぬ恋心を抱いていたのでした。
そのような視点で賢治の作品を読み解くと、見事に謎が解けていきます。
ああ、そうだったのか・・・
賢治の作品には、
スーパーネイチャー体感力という縦糸と、
嘉内への秘められた恋慕という横糸が織り込まれ、
不思議な魅力と深みを持たせていたのですね。
嘉内は兵隊を経たのちに地元山梨県で百姓になり、
後進を育てる立場になって貢献しました。
しかし41歳の若さでガンで逝去。
死の床の枕元には、賢治とやり取りした手紙の数々が整理して置かれていたそうです。
賢治も晩年、嘉内の影響で百姓になりましたが、
まもなく結核をこじらせ、37歳で逝去。
大正時代にはかなく消えたプラトニックなボーイズラブ。
きっと二人は、あの世で仲良く畑を耕していることでしょう(^^)。
<追加>
もう一つ、宮澤賢治関連の番組が録画してあるのを見つけ。こちらも視聴しました。
■ 偉人たちの健康診断「宮沢賢治 トマトと童話の不思議な力」
[BSプレミアム] 2019年10月10日
「銀河鉄道の夜」「注文の多い料理店」など37年の短い生涯で多くの傑作を残した作家・宮沢賢治。生前ほとんど評価されることはなかった。それなのになぜ賢治は死の間際まで童話を書き続けたのか?そこにはある深刻な病との戦いが深く関わっていた。さらに最愛の妹の病床で賢治が行った「童話の読み聞かせ」に驚きの健康パワーが秘められていることが明らかに!女優・木村多江さんの朗読で知られざる宮沢賢治の魅力に迫る。
【朗読】木村多江
【出演】関根勤,カンニング竹山,西田ひかる,山下聖美,植田美津恵
【司会】渡邊あゆみ
こちらでは、賢治の生涯がひたすら美化・理想化されて扱われていました。
貧しい中で勉学に励み、新しい知識を貪欲に得る努力を氏、妹をいたわり、農業を貴び・・・
「銀河鉄道の夜」も妹のために書いたというストーリー仕立て。
賢治の人間くささを知った後では、“よい子のための教科書”的な建前に終始した浅い内容と感じざるを得ませんでした。
番組の中で嘉内への手紙が何回か紹介されていましたが、
「保阪」が「保坂」と間違って表示されているし・・・(^^;)。
同じNHKなのに、情報のやり取りはなかったのでしょうか。