渡辺松男研究 5(13年5月) 『寒気氾濫』(1997年)橋として
参加者:崎尾廣子、鈴木良明、渡部慧子、鹿取未放
まとめ 鹿取 未放
39 生きて尾を塗中(とちゅう)に曳きてゆくものへちちよちちよと地雨ふるなり
★「生きて尾を塗中(とちゅう)に曳きてゆく」は中国の諺だった気がする。鹿取さんがいつか
歌っていらした。(慧子)
★「荘子」の「秋水編」にあります。『寒気氾濫』の出版記念会で辰巳泰子さんが
「荘子」を引用して褒めていらしたのをよく覚えています。日本語訳だけ、ちょ
っと読んでみます《日本語訳は後に記述》。この話から故事成語ができました。
まあ、そういう泥の中に尾を曳いているものの上に地雨が降っている。鈴木さん
の解釈の慈雨というのはいいなと思います。「ちちよちちよ」は鈴木さんのレポ
ートにあるように蓑虫の鳴き声ですけれど、枕草子なんかを参考にすると分かり
やすいかなあと思います《後に記述》。ちょっと蓑虫の子が哀れですけど。泥の
中に尾を曳いて生を送っているものに、ちちよちちよと慈雨が降りそそいでいる
って優しいですね。「ちちよちちよ」の部分は「枕草子」では蓑虫の親に向かっ
ての求めですけど、ここでは天から甘露のように地雨が降っている。(鹿取)
★「荘子」の亀っていうのは結局どういうものなんでしょうね。(鈴木)
★政治のトップとかに居座ったりしないで在野で思索しながら心豊かに自由に生き
ている人。(鹿取)
★実際、群馬県ではこういう場面を目撃することがあるんでしょうね。それを踏ま
えて詠んでいるから、言葉がとてもリアル。田舎の泥の中がありありと浮かんで
くる。そういう実景の背景に荘子だとかニーチェの「力への意志」だとかがある。
(鈴木)
【「枕草子」41】
虫は、鈴虫。 蜩。 蝶。 松虫。蟋蟀。はたおり。われから。ひを虫。螢。
みのむし、いとあはれなり。鬼の生みたりければ、親に似て、これも恐ろしき心あらむとて、親のあやしき衣(きぬ)ひき着せて、「いま秋風吹かむ折ぞ来むとする。待てよ」と言ひおきて、逃げていにけるも知らず、風の音を聞き知りて、八月ばかりになれば、「ちちよ、ちちよ」とはかなげに鳴く。いみじうあはれなり。
【「荘子」秋水】 (福永光司/講談社学術文庫) より
荘子が濮水のほとりで釣りをしていた。そこへ楚の威王が二人の家老を先行させ、命を伝えさせた(招聘させた)。「どうか国内のことすべてを、あなたにおまかせしたい(宰相になっていただきたい)」と。荘子は釣竿を手にしたまま、ふりむきもせずにたずねた。「話に聞けば、楚の国には神霊のやどった亀がいて、死んでからもう三千年にもなるという。王はそれを袱紗(ふくさ)に包み箱に収めて、霊廟(みたまや)の御殿の上に大切に保管されているとか。しかし、この亀の身になって考えれば、かれは殺されて甲羅を留めて大切にされることを望むであろうか、それとも生きながらえて泥の中で尾をひきずって自由に遊びまわることを望むであろうか」と。二人の家老が「それは、やはり生きながらえて泥の中で尾をひきずって自由に遊びまわることを望むでしょう」と答えると、荘子はいった。「帰られるがよい。わたしも尾を泥の中にひきずりながら生きていたいのだ」
参加者:崎尾廣子、鈴木良明、渡部慧子、鹿取未放
まとめ 鹿取 未放
39 生きて尾を塗中(とちゅう)に曳きてゆくものへちちよちちよと地雨ふるなり
★「生きて尾を塗中(とちゅう)に曳きてゆく」は中国の諺だった気がする。鹿取さんがいつか
歌っていらした。(慧子)
★「荘子」の「秋水編」にあります。『寒気氾濫』の出版記念会で辰巳泰子さんが
「荘子」を引用して褒めていらしたのをよく覚えています。日本語訳だけ、ちょ
っと読んでみます《日本語訳は後に記述》。この話から故事成語ができました。
まあ、そういう泥の中に尾を曳いているものの上に地雨が降っている。鈴木さん
の解釈の慈雨というのはいいなと思います。「ちちよちちよ」は鈴木さんのレポ
ートにあるように蓑虫の鳴き声ですけれど、枕草子なんかを参考にすると分かり
やすいかなあと思います《後に記述》。ちょっと蓑虫の子が哀れですけど。泥の
中に尾を曳いて生を送っているものに、ちちよちちよと慈雨が降りそそいでいる
って優しいですね。「ちちよちちよ」の部分は「枕草子」では蓑虫の親に向かっ
ての求めですけど、ここでは天から甘露のように地雨が降っている。(鹿取)
★「荘子」の亀っていうのは結局どういうものなんでしょうね。(鈴木)
★政治のトップとかに居座ったりしないで在野で思索しながら心豊かに自由に生き
ている人。(鹿取)
★実際、群馬県ではこういう場面を目撃することがあるんでしょうね。それを踏ま
えて詠んでいるから、言葉がとてもリアル。田舎の泥の中がありありと浮かんで
くる。そういう実景の背景に荘子だとかニーチェの「力への意志」だとかがある。
(鈴木)
【「枕草子」41】
虫は、鈴虫。 蜩。 蝶。 松虫。蟋蟀。はたおり。われから。ひを虫。螢。
みのむし、いとあはれなり。鬼の生みたりければ、親に似て、これも恐ろしき心あらむとて、親のあやしき衣(きぬ)ひき着せて、「いま秋風吹かむ折ぞ来むとする。待てよ」と言ひおきて、逃げていにけるも知らず、風の音を聞き知りて、八月ばかりになれば、「ちちよ、ちちよ」とはかなげに鳴く。いみじうあはれなり。
【「荘子」秋水】 (福永光司/講談社学術文庫) より
荘子が濮水のほとりで釣りをしていた。そこへ楚の威王が二人の家老を先行させ、命を伝えさせた(招聘させた)。「どうか国内のことすべてを、あなたにおまかせしたい(宰相になっていただきたい)」と。荘子は釣竿を手にしたまま、ふりむきもせずにたずねた。「話に聞けば、楚の国には神霊のやどった亀がいて、死んでからもう三千年にもなるという。王はそれを袱紗(ふくさ)に包み箱に収めて、霊廟(みたまや)の御殿の上に大切に保管されているとか。しかし、この亀の身になって考えれば、かれは殺されて甲羅を留めて大切にされることを望むであろうか、それとも生きながらえて泥の中で尾をひきずって自由に遊びまわることを望むであろうか」と。二人の家老が「それは、やはり生きながらえて泥の中で尾をひきずって自由に遊びまわることを望むでしょう」と答えると、荘子はいった。「帰られるがよい。わたしも尾を泥の中にひきずりながら生きていたいのだ」
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