かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 83

2023-07-28 09:37:24 | 短歌の鑑賞
2023年版渡辺松男研究⑩(13年11月)まとめ 
    【からーん】『寒気氾濫』(1997年)36頁~
    参加者:崎尾廣子、鈴木良明(紙上参加)曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部慧子
    司会と記録及びまとめ:鹿取 未放

83 赤ん坊花びらのような声を呑みはじめての重き月を見にけり

       (レポート)
 けり:①今まで知らなかった事実に初めて気づいたことを、感動を込めて述べる
    ②事実を前にして詠嘆を込めて述べる
③過去に存在した事実を回想して述べる
    ④伝聞の気持ちを表す(…たそうだ)        新潮社国語辞典

 掲出歌の「けり」は、上の句の描写から②だと思う。「赤ん坊」が喃語であろうその「声を呑み」とはすごい事実だ。(慧子)
※三輪山の背後から不可思議の月たてりはじめに月と呼びしひとはや
                山中智恵子『みずかありなむ』  

      (当日発言)
★表現の美しさに感心するばかりです。(崎尾)
★先に「けり」ですが、慧子さんの揚げた②でいいと思うけど、「見にけり」の
 「に」は完了の助動詞だから、直訳すると「見たことだなあ」となります。私
 はこの歌大好きで、赤ん坊のかわいらしさがとってもよく出ていると思う。
 「声」は聴覚なのに「花びらのような」という視覚イメージで比喩しているこ
 とで、桜かな、花びらのようにやわらかくてつやがあって美しい声を出してい
 る赤ん坊の愛くるしい全体像が読者に手渡される。ほっぺもくちびるも愛らし
 い赤ん坊が、初めて月を見てびっくりしてふっと声をのんだ一瞬が捉えられて
 いる。重き月というのは、美しくて大きくて神秘的な感じ、それを赤ん坊は体
 感した。赤ん坊も大事だけど、赤ん坊を通した月への賛歌でもあると思う。さ
 らに月を通して存在というものを問うている、美しくて、優れた名歌だと思
 う。存在という重いテーマを、こんなふうにかわいらしく詠って、渡辺さんっ
 てすごいと思う。(鹿取)
★慧子さんが揚げられた山中さんの歌も、言葉の不可思議、月や天体や存在の不
 可思議を美しく詠いあげていてうっとりする大好きな歌です。(鹿取) 

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