かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 2の170

2019-05-12 19:40:37 | 短歌の鑑賞
    渡辺松男研究2の23(2019年4月28日実施)
     Ⅲ【交通論】『泡宇宙の蛙』(1999年)P109~
     参加者:泉真帆、岡東和子、A・K、T・S、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放


170 母体行そは水母ぞと言いし子がたちまちに黄の宙をおよげり

         (レポート)
 167番(住専さえ知らざりしわれら軍閥さえ知らざりし茂吉 吹越(ふつこし)の空)の「住専」を詠んだ歌を受け、ここでは「母体行」も詠う。一首は母体行の行の字のある〈行灯水母〉に着想を得たのだろうか。クラゲの子がきな臭い宙にどんどん増えるさまがユーモラスに描かれており、大手銀行(母体行)が住専を通じて住宅ローンや不動産ビジネスへ融資を行うために、住専を子会社としてどんどん増やして行った様子をシニカルに詠っている。(真帆)


           (当日意見)
★「母体行」について住専に関連してもう少し説明していただけますか。(鹿取)
★「住専」を通じて個人などの貸し付けしていた、母体の銀行。メインバンク。(真帆)
★住専の事件の時、母体行って盛んに言われたんだけど、私はそのことをすっかり忘れていて、
 また、住専の歌からちょっと離れた位置にあることもあって、「母体行」って母の胎内に帰っ
 て行く歌かと長い間読んでいました。住専の問題が明るみに出て莫大な損失が問題になった 
 時、その処理をどうするか2つの案が出たんですね。1つは母体行、つまり住専の設立母体 
 になった銀行が穴埋めすべきだという説と、2つめは貸し手責任論で貸し付けをした銀行な
 どが補填しろというもの。結局折衷に落ち着いたようなことがネットには書いてあります。
    (鹿取)
★この歌集は1999年発行なので、住専が問題になった1995年頃のリアルタイムで作ら
 れた可能性が高いです。母体行、母体行というのを聞きかじってか、新聞などで目にしてか、
 子供が母体行って水母のことよと言って宙を泳ぎだした。松男さんだから何が起こっても不
 思議じゃないのでそこは分かるけど、なせ「黄」なんだろう?(鹿取)
★じゃあ、宙を泳ぐのは子供ですか?(真帆)
★子供だと思います。自分の子供とは限りませんが。(鹿取)
★字面からそう思ったんでしょうかね。似ているから。(岡東)
★事件の社会性なんかは子供には分からないから、母体行と水母の「母」の字の共通性が子供
 にそう思わせたんでしょう。文字の共通性に気づけるのは小学生くらい?あんまり大きいと、
 つまり中学生ぐらいだったら、宙を泳ぐっても嘘っぽくなってしまう。(鹿取)
★私の意見は違います。行灯水母から水母を想像したのは松男さんで、そこで着想を得た。母
 体行そは水母ぞと言ったのは水母の子。それがどんどん増えていく、住専の子会社自身が増
 えて、きな臭い宙を泳いでいる。一首目の皇が出てきますが皇室のコウは「黄」の字も書く 
 そうです。(真帆)
★いや、真帆さんの子会社が増えるって意見も面白いですね。でも、水母は水の中を泳ぐけど宙は
 泳がない。同様に現実には子供は宙を泳げませんから、この歌がリアルの事実だとは思っていな
 いです。子供が言ったというのも設定ですから、母体行と水母の関連も作者が気づいたんでしょ
 う。でも私は書いてある通りに、子供が宙を泳いでいる姿をイメージして読みました。なぜ「黄」
 なのかは分かりませんが。(鹿取)


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