読む日々

テーマばらばらの読書日記

早春賦

2018-12-11 | 小説・近代
山口恵以子「早春賦」



伯爵家に嫁いだ財閥の娘の苦悩と生き様。

するする読めて楽しかった。

綺麗で賢くて、生命力に溢れた主人公、菊乃。
美男の夫にお見合いの席で一目惚れ、幸せになれると思ったのに、子を産んだめかけはいるわ、亡き兄の嫁とはできるわ、自分は流産するわ、で大変。けれど、祖父や伯父のアドバイスで、家計を牛耳り、家の中でなくてはならぬ存在となる。

夫の死の直前、やっと分かり合える。
が、実子は得れぬまま、可愛がっていた女中との間に産まれた娘を自分の実子と届け、慈しんで育て上げる。

この方の描く強い女性大好きです!

満足度100

海うそ

2018-05-29 | 小説・近代
「海うそ」梨木香歩



明治終わりか大正時代。
東京の大学から、研究のため南九州の遅島を訪れ滞在し、島の廃仏毀釈前の史跡を訪ね、島の人と親しく関わりつつも、研究の答えが出ずに論文を書けなかった男性が、戦争を挟み、50年の時を経て偶然その島の開発に携わる息子にかこつけて島を再訪するお話。

再訪部分はごくわずか。大半は島での日々。これがまた魅力的。

ただ彼はその僅か前に婚約者と両親を相次いで亡くすという悲劇に見舞われている。

昭和の再訪でその死について語られている。

海うそとは蜃気楼のこと。
海うそが見える洋館に住む人は、父親が昔、島のお坊さんだったとのこと。

島に微かに残る昔の風習言い伝え地名。それらを紐解く物語でもある。

が。戦後は悉く変えられていく。

この年齢まで生きると、戦前戦後の価値観の変わり方がいかに激しかったのかよくわかる。

例えば昭和10年と50年ではまるで別世界だけど、
昭和50年と今では、さほど人の姿形や生活様式は変わらない。
洋服着てるし髪は美容室で整えるし、パンはふつうに食べるし、自宅に車あるし電話あるし、洗濯機使うし掃除機使うし。

これから国はどう変わっていくのだろう。


満足度90

峠の棲家

2018-03-20 | 小説・近代
岡松和夫「峠の棲家」



九州のどこかが舞台みたい。
昭和26年早春、春休みで帰省した大学生の安志は、末期の肝臓ガンで寝ている祖母の八重に頼まれ、祖母八重の出身地、日向村へ同行する。

ダムに沈む予定の村の墓地を気にする祖母。
村を訪ねてからみるみる生気を取り戻す。

安志が5歳の頃、父はこの村の先の滝へ結核の身で祈祷へ行き亡くなった。同行していた母は、夫を亡くし、息子二人を継母の八重に面倒を見させ、泊まり込みで看護婦をしていたが、その後空襲で家を焼かれ、だんだん心が折れていき、安志が中2の時に精神病院で最期を迎えていた。

八重は、峠の空き家に住みたいといいだす。
そして安志と暮らすうち元気になり、ある日、安志の両親が行った滝へ2人で行こう、と言い出す。

何か結論があるわけではない、昭和26年春の、死を前にした老女の、生まれた場所への邂逅のお話。だけどなんだか読むうちに自分が浄化されていくように感じる。

なかなか良い本。

余談。八重がたったまま用を足す様子、亡くなった祖母を思い出させる。

満足度90

雪つもりし朝

2017-11-24 | 小説・近代
植松三十里「雪つもりし朝 二・二六の人々」



2・26事件に関わった5人の人々のその日とその後。みんな少しずつ繋がってる感じ。先に出てきた人のその後が次の人でわかったり、とかそんな感じ。

義弟が身代わりになった岡田首相→その岡田から終戦時の首相を請われる、事件当日は妻のお陰で一命を取り止めた鈴木貫太郎侍従長→その鈴木貫太郎の妻、タカが教育係りを務め彼女を母同然に慕った秩父宮。同じく彼女を母と慕う兄、昭和天皇の怒りの凄まじさもわかる。可愛がった後輩が鈴木貫太郎を襲ったと知り困惑。→安保締結の首相、吉田茂の娘、麻生和子。当日は祖父の別荘にいて、祖父を庇いつつ難を逃れる。戦後は父を支えて生きる。→訳もわからず決起部隊の所属だった、ゴジラの監督の本多猪四郎。

どれも視点が襲われるがわであり、その体験を踏まえての、大戦、戦後の姿が描かれていてとっても感じるところがありました。
個人的には麻生和子さんが幼子を残して働き続け、安保締結後に帰国し、待ち続けた息子、太郎くん(麻生元首相ですね)の様子に涙が出ました。基本的に母と息子の話に弱い(^-^;

決起部隊が、秩父宮が味方してくれると思い込んでいた様子がわかりましたし、この事件を期に陸軍の派閥の均衡が崩れ、日米開戦に向かっていったのだ、とわかり、何とか避けられなかったのか、ということと、終戦を実現させるための苦労もわかりました。原爆落ちる前に何とかならなかったのか、と思っていたけど、終戦失敗したら冗談抜きで総玉砕か植民地だったのかも、と思うと恐ろしい。

なんだかさらにこの事件について知りたくなってきたかも。

どうしようもない時代のうねり、
も、あるんでしょうけれど。

満足度100



オウリィと呼ばれたころ

2017-11-17 | 小説・近代
佐藤さとる「オウリィと呼ばれたころー終戦をはさんだ自伝物語ー」



コロボックルで有名な児童文学者で近年亡くなられた佐藤さとるさんの自伝的物語。

父母の出会いや横須賀、横浜での幼い頃の生活、そして海軍の父がミッドウェー海戦で亡くなってからの生活が描かれた後、戦局混迷での過酷な日々からの疎開、そして旭川で迎えた終戦。進学で横浜に戻ってからのこと。

今毎日観ているドラマ「トットちゃん」と少し時代が被るので興味深く読みました。
今、気になるのは、日本の借金の額との対GDP比が終戦時を超えていること。終戦の時の、預金引き出し額制限や新円切り替えで庶民が味わった混乱が知りたい。

なんちゃって。

あと毎朝観ている朝ドラ再放送「花子とアン」も、花子が児童文学の賞を取るところをやっているのでその辺りも被ったなぁ。

本を書く人、って、やはりなにか突き上げて来たり、チャンスや流れがやって来たりして自然に書くようになるのかしら?

児童文学者だけあって、ものすごーく明快で読みやすい文章で、こういう本、大好き。