私は目の前の光景を一瞬で把握しました。
ですから奥様に、
「何があったのですか?」
とは一言も聞きませんでした。
ただ、フリーズしている二十歳ぐらいの女性ヘルパーさんに、
「おつかれさまです。もう大丈夫です」
と小声で一声かけました。
そして、おもむろにベッドサイドに立つと、
ベッド柵にしがみついている坂上さんに
こう呼びかけました。
「坂上さん、今日はお銀ちゃんとお風呂に入る日だよ!」
するとどうでしょう。
いきなりガバっと起き出して、
閉じていた目は大きく開いて、
眉間のしわは消えて、
上のパジャマのボタンをはずし始めました。
「あ、お銀ちゃんは外の車に乗って待っているから
このまま車に乗っちゃおう!」
そう聞くやいなや、すぐにベッドから降りて、
パジャマ姿のまま玄関へ歩き出しました。
そして、玄関に行くと、
「坂上さ~~~~ん」
と若い女性スタッフが思いっきり甘い声で、
車の中から叫びました。
坂上さんはこれまで見せたことのない俊敏さと機敏さでくつに履き替えると、
吸い込まれるように送迎車の中に消えていきました。
奥様に、
「1番目にお風呂に入って着替えていただきますね」
とだけ話すと、
私も一目散に運転席にすわって発車させました。
この間、1分もしない出来事でした。
瞬く間に送迎車に乗って行ったご主人を
奥様はどう見ていたでしょう。
呆気にとられていた表情を今も思い出します。
ところで「お銀ちゃん」て誰なのでしょう?
「お銀ちゃん」の正体は明日あかします。
今夜はこの辺で。
おやすみなさい。。。。