それでは次は やっぺいちゃん の登場です。
やっぺいちゃんは奥様と二人暮らし。
アルツハイマー型認知症で要介護3、80歳。
奥様も要介護1で、お二人とも要介護同志でした。
やっぺいちゃんは私と同郷で、
小学校も中学校も同じで、つまり大先輩にあたる人でした。
職業は画家で全国のあちこちをスケッチしてまわっていました。
アルツハイマー病になられてからも絵は描き続けておられました。
ただどこのデイサービスにもつながることが出来ず、
ケアマネジャーさんがほとほと困っておられました。
そのやっぺいちゃんがどうしてみちしるべに来られるようになったかは、
次の機会に詳しくお話しすることにして、
今回はいかに送迎車に乗っていただいかのお話をいたします。
お迎えに上がるのは9時半を過ぎた頃でした。
やはりこちらのお家にもヘルパーさんが入っておられました。
とはいってもデイサービスの送り出しのためではありませんでした。
朝の食事作りがメインでお掃除や洗濯などの家事援助をするためでした。
お迎えに上がるといつも朝食中でした。
そしてテレビはやっぺいちゃんの大好きな時代劇でした。
「暴れん坊将軍」であったり、「子連れ狼」だったりと、
それはそれは時代劇ファンにはたまらない番組でした。
やっぺいちゃんの家の駐車場に車を止めると、
右後部座席のドアを全開にしたままチャイムを鳴らします。
そして玄関に入り、靴箱からお出かけ用の靴を出して、
きれいにそろえて並らべます。
靴ベラも同じようにすぐそばに置いておきます。
それから「おはようございまあ~す!」と言いながら、
食事をしているリビングまで入ります。
やっぺいちゃんは私の顔を見るなり、
「やあ、社長、一緒にご飯たべっべ」
と手招きをされます。
私はテレビの横の席に座っておしゃべりしながら、
時代劇がコマーシャルになるのを待ちました。
そのときが送迎車に乗っていただくための唯一のチャンスでした。