緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

コンセプチュアル・スキル(Conceptual skill)

2012年06月03日 | 教育

緩和ケアチームの質的向上の要素を、
どういう言葉で説明すればわかりやすいのだろう・・

自分たちのことも含め、模索していました。




最近、医療から離れたところで、色々な調べものをしていた時、
出会った言葉。
見事にこの一言にまとまっていました。

コンセプチュアル・スキル(Conceptual skill)






MBA領域の言葉です。

ハーバード大学ロバート・カッツは
マネージメントには3つのスキルが求められると言っています。

1)テクニカル・スキル
職務遂行能力で、専門的知識や技能をさします。

2)ヒューマン・スキル
対人関係能力で、コミュニケーション力、ナゴシエーション力です。

3)コンセプチュアル・スキル(Conceptual skill)
概念化能力で、抽象的な考え方や物事の大枠を理解し、
知識や情報などを体系的に組み合わせ、
複雑な物事や課題を概念化することにより、
物事の本質を把握する力。

もう少し、具体的に言うなら、
何が正しくて、何が間違っているかを整理したり、
複雑な選択肢から最適なものを選択、
解決策を導きだす、
論理思考力、問題解決力、応用力です。




緩和ケアチームで経験したことがある具体的な例で考えてみます。

痛みが取れない患者さんの相談を受け、
診察をしてみたところ、

ある患者さんは、神経障害性疼痛に対して、鎮痛補助薬が必要だった
ある患者さんは、混乱(せん妄や認知症)があり自分の不快を言語化することが難しく、”痛い、痛い”と表現されていた
ある患者さんは、腸管狭窄による蠕動痛で、排便管理が行えるのか腸管の動きを止めざる負えないイレウスの状態かの判断がまず必要だった
ある患者さんは、身体的な疼痛もあったが、退院すると家族に迷惑をかけると感じ、次のステップに進むことが不安で疼痛を強く感じていた
ある患者さんは、退院するより病院にいた方が楽に生活できたため、除痛目標がとても高く、こんなんじゃ退院できないと言われつづけていた

まだまだ色々な例はありますが・・

「痛み」といっても、鎮痛薬の調整、他の薬剤調整、心理支援、環境調整
家族調整、社会的な支援・調整など
沢山のマネジメントやコーディネートが必要となります。

鎮痛薬だけ増減すれば解決するようなことは
緩和ケアチームへくる依頼には少なく、
問題は複雑です。

これを見極めるには、
身体的な疼痛評価方法をしっているだけでは足りません。
また、単に鎮痛薬の投与方法をしっているだけでも
解決しません。

患者さんやご家族を包括的に(全体をとらえ)理解し、
問題を具体的に整理し、
よりよい方向を示し、ガイドできること。

これには、このコンセプチュアル・スキルが求められるのだと思います。

これを磨くのは、本当に大変です。

人にはそれぞれ持って生まれた性質があり、
人の心や痛みにどうしても届ききらない人もいないわけではないでしょう。

こうしたことが、医師の中でも、
専門分野の選択にも関係してきます。





ここまで書いて、ふと思い出しました。
10数年前に勤務していた大学病院で
外科医から、「自分たちは技術屋ですから」と言われたことがありました。
当時は、大変驚きましたが、
ある意味、この外科医は、自分をよく知っていたのだなあと思いました。





とはいえ、このコンセプチュアル・スキルをどうやって磨いていくか
我が身も含めて、それを、どう教育に取り入れていくか・・
ポートフォリオ+内省の反復でしょうか。

今から思い返すと、一番鍛えられたのは
子育て、家庭と仕事の両立の中で
患者さんと悩み続けたことだったように思います。
無駄ではなかったなあと、
今だ過渡期にありながら思うこのごろです。

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3 コメント

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iいつまでも学び (ALL)
2012-06-03 20:42:41
お世話になっております。
いつも素敵なお話をありがとうございます。

がん患者になって、未熟ながら、私がケアさせて頂いた患者さん方の言葉、表情の意味することに新たな気づきを得ております。
当時の自分の、更なる未熟さを痛感し、その方々に申し訳ない気持ちもありますが、せめて気づけて良かったと思っております。

年齢を重ねると、分からなかったことを突き付けられて戸惑う場合もあるかと感じておりますが、今は、まだまだだなと思えることにちょっぴり安堵し、未知に不安があっても期待が深まります。

先生が「過渡期」とおっしゃることに尊敬をあらたにしております。

私も、少しづつでもこのスキルが身につくことを意識して精進したいと思いました。

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Unknown (緒方賢一郎)
2012-06-03 21:31:17
4月から赴任した病院では患者さんに会うことなく病院の一室で情報を持ち寄り話し合うスタイルの緩和カンファをやっています。自分の中では違和感があってこの「コンセプチュアル・スキル」が全くないことがその違和感の元であることが今回ハッキリしました。大変勉強になりました。
返信する
Unknown (aruga)
2012-06-03 23:13:03
ALLさん

ALLさんと同じように自分の未熟さに気づくことができていることに、まだ捨てたものではないかもと思います。
気づけることは、伸びしろがあることかなって思います。お互いにがんばりましょうね。

緒方賢一郎さん

コメントありがとうございます。
患者さんに会って、診察があって、話を聞いて、初めて問題点が見えてきますものね。先生の緩和ケアチーム、もしかすると、先生の赴任が一石を投じて一段登れるかもしれません。
違和感を感じたとき、そのままにしないで、何かな?って考え続けることは、とても大切なことだということを教えていただいたように思います。
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