緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

年末近くになると思い出す患者さんのこと

2017年12月10日 | 医療

50代女性の消化器癌の患者さんでした。

転移で肝機能障害を呈し、
すでに、ビリルビンは上昇していました。
アンモニアの数値を探すと120以上でした。
(解剖学的に両者が平行して動くことがあります)

アルブミン1.8、白血球18000程度、その内、リンパ球は3%、
CRP20以上、血小板は2万台でした。

診察前でしたが、これを見ただけで、
急変の可能性が高いことが推測できました。




ベッドサイドに行くと、
予測したより、患者さんの意識は鮮明で、
しっかりとお話しされました。




私は、もう長くありません、だから、
家に帰りたいのです。




何か、

ある・・・



良くわからなかったのですが、
即答できないものを感じました。


多くの方が、日単位になるほど厳しい状態になると、
こんな状態で退院はできませんとおっしゃいます。
特に、比較的若い患者さんは、家族に負担をかけるからと、
さらに、入院を希望されます。

なぜ、この患者さんは帰らなければいけないと
おっしゃるのだろう・・


率直にお尋ねしました。



家族と過ごしたいから・・と。




さらに、疑問を感じました。

とても、悪い状況でしたので、
ご家族と落ち着いて過ごすことは
多分難しいだろうと思いました。
アンモニアが高値であることを考えても、
意識が混濁し、眠った時間が
増えるだろうと思われました。

元気な方であれば、ここでさらに
お話を伺うのですが、

そうなんですね・・
とだけお伝えし、
病室を一旦出ました。




緩和ケアチームの看護師さんも、
一緒にこの話を聞いていてくれました。

やはり、何か違うと感じていました。

病棟看護師さんに声をかけ、
このことを伝え、どう思いますか?
と、たずねました。
日々、看護師さん達は、ケアの時間を通して、
様々なことをご存じなのです。

でも、病棟看護師さん、


病状が厳しいことが
あまり伝わっていないのかもしれません

とのこと・・



それも、何か違うような感じがしました。





悪いので、帰りたい・・・






さらに、カルテをみました。

最初、がんと分かってから、
治療が開始されるまで、
来院をしていない期間が
あることがわかりました。

がんであることを受け止められない患者さんが
治療をすぐに始められないようなこともあります。

人には、大変なことが起こった時に、
防衛しようと反射的な心理的動きを生じることがあり、
その一つに否認を認めることがあります。

がん治療の開始時に否認状態にあったのでしょうか・・

ただ、この大変な時期になっても、
きちんとご自分の気持ちをストレートに
伝えてくださっているのですから、
否認ではないと思いました。

がん治療の開始時も否認ではない別に理由があったのかも・・

細かく、ずっと遡り、様々な記載をみたところ、
カルテには、「ご家族のことで治療に来院されず」
とのみ、書かれていました。




主治医は手術中でした。

緩和ケアチームの看護師さんが、

先生、医療ソーシャルワーカーさん、
以前、介護保険申請で関わって
くれていたようですよ。


と調べてくれました。

すぐに、電話をしたところ、
幸い担当していた方がいらっしゃいました。




10代のお子さんがいらっしゃって、
ご自身のがんが見つかったころ、
ちょうど、そのお子さんの悪性腫瘍が見つかり、
ご自身の治療はすえおき、
お子さんの治療の看護に付き添ったことがわかりました。
お子さんの完治が見えてきて、それから
ご自身の治療に移られたのでした。

病状が厳しく、日単位かもしれないと
ソーシャルワーカーさんに伝えたところ、

そんなにお悪いのですか、年末はお元気で、
年が明けてどのような状況かなあと思ってました。
ですから、きっと、お子さんに、
そこまで悪いことを伝えていないのかもしれない・・
と。




やっと、理解できました。
身体的に悪いからこそ、ご自身のことを
お子さんに伝えて、きちんと別れしなければ・・
そう思われているのではないかと。



ベッドサイドにもう一度戻りました。

やはり、そのようでした。


実は、このコンサルテーションを受けたのは、
金曜日のことでした。
さらに、この日の採血データをまだ、
ご家族には説明されていませんでした。
ここから、在宅へ移行する準備をし、
ご自宅に移ることができるのは、
どう考えても、時間が足りません。

そこに、ちょうど、主治医が戻ってきてくれて、
話し合うことができました。

最善の道としては、
個室を確保して、
そこにお子さんを含め、
ご家族で一緒に
過ごしていただくことではないか・・

それをご本人にお伝えすること、
ご家族への連絡や説明は、
主治医や病棟看護師に動いてもらえるよう
バックアップに回りました。

きっと、その日曜日には
大切な時間を病棟のスタッフが
支援しなければいけなくなるだろうと
思ったからでした。

土曜日、ちょっとだけのぞき、
月曜日。
患者さんの病室は、
すでに空室となっていました。





間に合ったと言うほどの
時間はなかったかもしれません。
でも、あの時点で、
緩和ケアチームが主治医、病棟看護師と一緒にできた
精いっぱいの事でした。

ある年の年明け、早々の金曜日、
年が明けるのを待って、
緩和ケアチームに依頼すれば、
何か打開できるのではないかと
依頼をしてくれたこともわかりました。

もつれ込んだ糸をほどきたいときに、
緩和ケアチームに依頼すれば
何か糸口が見つかるかもしれない・・
そう思っていただけたことは、
緩和ケアチームとしては、
本当にありがたいことです。





そして、このケースを通して学んだことは、
患者さんを理解し、
アクションを起こさなければいけないときに、
患者さんだけではなく、取り巻く家族と患者さんを包括して、
患者さん・家族全体を見て、
問題の整理をしなければいけないということでした。




木を見て、森も見る。

木をケアするために、
森全体をケアする。

年末近くになると、思い出します。


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2 コメント

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記事を読んで… (るぶ)
2017-12-11 14:59:07
先生、凄く記事を見て感じました。

そして、私の母とそう年齢の変わらない患者さんのお気持ちがいかばかりか…と感じました。子の看病を優先されたのは親の心であると感じます。

でも、お子さんもまさか、お母様がそうなっているとは思えなかったと感じます。最期をきちんと看取って上げれただけ親孝行ができたのではないか…と感じます。

それでも、先生の行動力を初め、主治医との連携、緩和ケアの看護士さんとの連携が早かったからこそ、ご家族の大事な時を見す見す逃すことがなかったと感じます。

命の尽きる前に、何かをしたいと患者さんが望んだことをしっかりサポートができる体制を作ることの重要性を感じました。

では。
返信する
るぶさん (aruga)
2017-12-12 01:08:55
温かなメッセージ、ありがとうございます。
心に響きます。
返信する

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