何年か前の話になりました・・・・
「薬を飲まなきゃ痛くなることは分かっています。
でも、飲まなきゃいけないというこの状況にしても、
体に 良くないものを飲むということも、いやなんです。」
医療用麻薬を飲んでもらえないから相談に乗ってほしいという依頼を受けた時、
Oさんは開口一番で、こう言われました。
Oさんの気持ちは、理解できる・・と言ってはいけないのかもしれませんが、
理解できる・・様な気がするのです ...
研修医時代を腎臓外科で過ごした私は、透析のシャントやグラフト手術を時々行っていました。
ある日、グラフト手術を自分が受けている夢を見ました。
透析のためのグラフトが腕の中に埋め込まれ、
こんなものが無ければ生きていけない自分が惨めだと思いながら、
医師にありがとうございましたと言っている自分がいました。
これは、透析の問題点としてではなく
あくまでも、夢を見た私ー個の単なる一つの感情にすぎないものではありましたが、
はっ と起きた時、
患者さんによいことをしていると思い込んでいた2 年目の医師の私は、
何も患者さんの気持ちをわかっていなかったと痛烈に感じました。
Oさんの気持ちは、
この時夢を通して感じた気持ちにとても近いものだと思いました。
少しわかる・・その上で、みほこさんの話をしました。
もう何年も前、
痛みが強く、抗がん剤治療に向き合えなかった20 代のみほこさんは、
急性期病院に移って緩和ケアコンサルテーションを始めたばかりの私に、
痛みの治療をしてほしいと直接依頼をされました。
当時は、緩和ケア=終末期医療でしたから、
若い入院患者さんから 直接依頼ということは、めったにないことでした。
みほこさんは言いました。
「緩和ケアの先生にお願いしたからといって
末期だなんて思っているわけではないんです。
ただ、痛くて治療を頑張れなくて・・
がんと相撲をとろうとしている私にとって、
土俵が整っていないと踏ん張れないんです。
痛みをとることは土俵を整えることでしょ。
私に力を貸してください」
そして、
Oさんに 続けました。
「薬に 飲まれないで、
薬に振り回されないで、
上手に使いましょう。
痛みがあるから薬を飲んでいるのではなく、
痛みがあって体が 休まらないし治療も辛いから
痛みどめを飲んで、がんに向き合う力を得ているのでしょう?
麻薬が最小限ですむ様に私は頑張るから・・」
Oさんは、ぽろぽろ 涙をこぼしながら何度も頷いてくれました。
一人ではないのだから・・・
応援団がいるのだから・・・
病院を変えて、新たなる先生に手術をしてもらいます。”この先生は腕がいい。”と言われても私からは基準がわからないのですが、診察を受けているうちに、この先生にお任せすれば治ると思えるのです。進行から言ってもとても安心できる状態ではないのですが、不安、恐怖心はないのです。
やはり、患者に対する言葉はとても大事に思えます。
マイナスのイメージを抱きがちですが、決して
そうではなく、体力を温存し、病気と向き合う
気力を引き出す前向きな治療なんですよね。
そしてまた、自分が…だったら、という感覚。
医師が見せ掛けだけでなく本当に隣に立つには
必要不可欠な考え方だと思います。
先生、いつも申し訳ありませんがひとつ意見を
お聞かせ下さい。がん終末期の患者さまが
変形性関節症という非がん性疼痛で苦しんで
おられ、オピオイドの使用を希望されている時、
先生はオピオイドの使用をどうお考えですか?
もちろんエビデンスなどないと思いますから、
最大限慎重に考え、先に他の方法を試みるのは
当然ですが。私のブログの掲示板に相談が
ありましたので先生ならどうお考えかと思い
お邪魔しました。オピオイドが不適切とお考え
であれば、何か良い方法はありますでしょうか。
ちなみにNSAIDsは使用中とのことです。
通常ステロイド局注、ダメなら手術が選択される
場面だと思うのですが。
明日から意識してケアに生かしてみます(^-^)
孤独だったOさんが一緒に頑張ってくれる先生がいることで、とても安心されて涙されたのですね。
Oさんの真のニーズはまさに応援団だったのでしょう。素晴らしい応援団に乾杯・・・。
感動しました。
そうなんです。
緩和ケアの目標は、その人が持つエネルギーを最大限発揮できるような状況に整えることなんですよね。
かぼちゃちゃさん
心のよりどころになるような医師に巡り合えてよかったです。何だかホッとできる・・という感覚、これもある種のスピリチャルな支援だとも言えるのだそうです。
こたろうさん
ご無沙汰しております。
>自分がだったら・・という感覚
後押しされたようで、嬉しい・・ありがとうございました。
疼痛になぜオピオイドが投与できるかというメカニズムを考えると、がんか非がんかということは問題にならないわけで、「日常生活に支障があるような強い慢性的な疼痛がある」と、ドパミンの関係で依存症にはならないと考えられます。であれば、がんであっても非がんであっても、オピオイドは適応になると私は考えます。ただし、非がんでは長期投与になるので、雑なレスキューの使い方をすると疼痛域をこしたコントロールになることがありえるのです。痛い思いをしたことが何度かあります。
Photo Pさん
頂いたコメントで、ああ・・そういうことだったんだなあと気づきました。
応援団という言葉。
実は、私が前の大学病院で孤軍奮闘していた時に、麻酔科の教授がかけてくれた一言だったのです。どんなに嬉しかったか。
その体験が、患者さんへの私の姿勢になりました。
数多くの厳しい経験が、一歩につながり、Photo Pさんの温かな言葉に、また成長していけそうです。
麻薬への恐怖心を持たないよう医療用麻薬という説明が目に付く現場に、もやもやを感じていた理由がわかりました。看護師という立場からですが、「できる限り一緒に向き合いたい」を伝えながら、患者さんの本当の不安に応えていく姿勢を貫きたいな、と改めて痛感です。有難うございました。
暖かなメッセージをありがとうございます。
伝えたかったことが伝わることが、こんなにも嬉しいことなんだなあということを、このブログを通して実感しています。私こそ、感謝です。
いつも先生の貴重な事例と、目からうろこの対応に感激させていただいています。
私もOさんのような事例を何度か経験したことがあります。
「小さいときに薬はできるだけ飲むなと教えられて育ったんだ。だから薬を飲まずになんとかならないのか」とある方は話してくださいました。もちろん無理強いで説得尽くめでその方が納得されるわけはなく、その方の「生き方」を尊重しつつ、けどその痛みには医療用麻薬を使ってもらったほうがいいんだけどなぁと看護スタッフで悩みながら関わりました。
病気と闘うための体力・気力のために薬でコントロールする…。当時の私たちにこの発想で患者さんを支えられていたら、と感服しています(机上の知識だけでなく、実践にそれをどう生かすかがほんとに難しいです)。
それと夢のエピソードから「患者さんの思いに気づく」というのもすごいですね!私も精進してそこに近づけるようにしたいと思います。
先生のますますのご活躍を応援しています☆
患者さんとの一つ一つの出会いに、感激し、涙し、学び、さらに次の出会いに生かしていくことを託されます。それをこうして分かち合うことができるのも、おおやんさんが同じ方向をむいていらっしゃるからだと思うのです。
さらに支えてくださるメッセージ、本当にありがとうございます。
照れます・・