緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

ESMO/ECCO 2011 in ストックホルム

2011年09月27日 | 医療

ESMO(欧州臨床腫瘍学会)/ECCO(欧州癌学会)/ESTRO
へ出席するために、ストックホルムにいます。

ASCOは参加したことがあったのですが、
ESMOは初めてです。

高齢者のがん治療について、
シンポや教育セッションが沢山設定されていました。
〇〇がん、〇〇がん・・とするのではなく
高齢者の〇〇がん治療の選択、~といったタイトルが並びます。
小児がんの妊娠、出産、2次がん発生リスクなど
がん発生時期によるセッションが組まれているのが面白いと感じました。

乳がん、前立腺がん、肺がんのセッションが多いのも特徴と思われました。
実際の欧州のがんはこの3つが今増えているようです。
新規性は感じられず、今年5月のASCOもそうだったように、
薬剤のラインナップはそろったという印象でした。
前立腺のラジウムが新しいものかと思いますが、
企業戦略を感じます。

むしろ、ヨーロッパでの支援ネットワークや
長期にわたる相互支援、
進行がん患者支援など内部充実傾向を感じました。

急性緩和医療の教育セッションは、
45分で、疼痛、呼吸困難感、鎮静等を一気に話していましたが、
新たな知見はありませんでした。

あ・・ 一つありました。
痛みを4つに分けるー身体的痛み、精神的痛み、社会的痛み、スピリチャルペインは
スピリチャルをspiritual pain と言わず、
existential aspects (実存的な側面) という言葉を使っていたことは
勉強になりました。
今までも、霊的な苦痛・・と言われても、ピンとこなく、
実存的な問題といった言葉に置き換えていましたが、
existential aspects という言い方は
適切だなあと思いました。

オーラル指定演者で
呼吸困難感の症状緩和のセッションを聞きました。
ラシックスの吸入は、よく知られている一つの方法です。
文献的な検討の発表で、
日本人の文献2本と他の3本の紹介がありました。
他のRCTでVASではせいぜい9㎜程度の改善と言ってる一方で、
日本からの1本は~90㎜の改善を認め、
デザインの問題、交絡因子の考察の甘さを指摘され
他の1本はケースシリーズであったことから、一蹴・・
残った2本の検討から、
結局、呼吸困難感を呈している患者への
フロセミド吸入療法は推奨しないという結論をだしていました。

ポスター発表に、立っていた時、
隣のトルコの腫瘍医と話をして、驚いたことが・・
トルコでは、
オピオイドは、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルが投与できるようですが、
なんと、モルヒネ、オキシコドンの速放剤が発売されていないのだそうです。
速放剤の眠気などの問題で・・と言っていたので、
当初、依存の問題で政策医療的な措置なのかと質問したら
そうではなく、単に、製薬企業が興味を示さないためとのことでした。
骨転移の突出痛などへの対処はどうしているか聞いたところ
徐放剤で間に合わなければ、
入院(それも一般病棟、腫瘍病棟や放射線治療科病棟など)し、
注射でのコントロールになるようでした。
で・・治療患者の待機期間が延びるのでは?と聞いたところ
それが、問題なんだ・・と。
安価なモルヒネ末ですから、
オピオイドが医療に導入されるときは、
まず、モルヒネ末からかと思っていたのですが、
そうではない国もあるのだと驚きでした。
とはいえ、これは、月曜日午前のボードNo.309の医師から聞いた話の範疇にすぎません。

それぞれの国の事情を聴いたうえで
ディスカッションをしなくてはいけないのだなあと
強く感じた出来事でした。

ESMO - European Society for Medical Oncology (ESMO)

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6 コメント

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学会 (えび)
2011-09-27 19:24:03
国や地域によって 薬剤に関しても
本当に色々ですねぇ

ストックホルムで学会、
どうも以前の仕事で
ホテルが取れなくて苦労したことを
思い出しますなぁ

もう肌寒くなっているかと思いますが
スウェーデンの秋も楽しんでくださいませ
返信する
えびさん (aruga)
2011-09-28 04:28:02
ストックホルムは観光都市だけあって、ホテルは沢山ありますが、学会のように人が集中する時は、本当にとれませんね。
同じホテルに観光でいらっしゃったと思われる日本人のご夫婦に、なぜかホテルが取れなくて、本当に大変だったと声をかけられました。

光と水にあふれていて、本当にきれいです。滞在中に、随分紅葉が進んだように感じました。
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キンモクセイ (わかめちゃん)
2011-10-01 12:24:14
学会お疲れさまです。
時差ボケは大丈夫ですか?

晴れた土曜日、いつもよりゆっくり歩いて大学まできました。

キンモクセイのにおいが、ほのか~に感じられました。
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わかめちゃん (aruga)
2011-10-01 22:55:41
コメントありがとうございます。
頂いたコメントに、ほんわか包まれるような暖かな秋を感じました。
明日、明後日と気温はぐっと下がり、北海道は紅葉が始まるようです。
日本の四季は、心豊かにしてくれます・・
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呼吸困難の治療 (toru)
2011-10-03 22:47:23
今年出版された日本のガイドラインでも、呼吸困難に対するフロセミド吸入療法やモルヒネ吸入療法は「推奨しない」と記載されていますね。副作用も無く、症状が緩和されるのなら良い方法なのかな、と思っていたのですが、、、。たまたま、先日行った院内の緩和ケア勉強会のテーマが呼吸困難だったので、タイムリーな話題でした。いつも勉強させて頂いています。
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toruさん (aruga)
2011-10-06 23:59:58
コメントありがとうございます。
ガイドラインと一人一人の患者さんの苦痛への取り組みとのすり合わせは、耳を傾けることなしには、できないことだなあと思います。
いつも、お立ち寄りくださりありがとうございます。これからも、どうぞ、よろしくお願いいたします。
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