緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

大腸菌は永遠に生き、人は何故死を獲得したのか

2006年05月26日 | 医療

ミシガン大学にいた頃、遺伝子治療でがん免疫療法の研究を行っていた。遺伝子の運び屋には大腸菌を用いる。(昨日、tanupさんがコメントに書いてくれたvehicleとは、この運び屋という意味である。)大腸菌の遺伝子は、ゴム輪のような輪っかをしており、分裂をしてもこの遺伝子、遺伝子異常を起こさない。

実は、大腸菌は死なないということ皆さんはご存知だっただろうか。
栄養や酸素、水分といった環境が整えば、永遠に生き続ける。
何故か・・
遺伝子異常を起こさないから。

生物は進化の過程で、遺伝子情報が複雑化し、輪っかから線状になっていった。そして、有性生殖をするようになり、線状の遺伝子は分裂などの過程で、切れたり、くっついたり、遺伝子変異をみるようになっていった。
このような遺伝子異常をもったものが永遠の命を持つと、遺伝子異常はさらに集積し、種は滅亡してしまう。線状の遺伝子を持ったもので種の滅亡を逃れたものは、実は死を獲得したものであった。

ヒトという種が絶滅しないで今も続いているのは、個々の死があったからである。遺伝子異常は集積することなく、個々の死でもって終わる。
今、私がここに生きていられるのは、過去の見ず知らずの人や隣人の死があったからである。他の人の死で今生かされている。人は絶滅から逃れるために死を獲得したのである。

X染色体の足の部分にはテロメアという死がプログラミングされた部分がある。細胞が分裂する度に、そこは短くなっていく。教会のキャンドルは、人の一生をあらわすというが、まさしく、テロメアはキャンドルのように時間と共に短くなっていくのである。

いずれ、私も次世代につなぐために死んでいく。それは、罪悪なことや不幸せなことではない。ヒトの点として生を受けたものとして自然で、必要な役割なのである。
ただ、ただ、悲しいことなのだが・・

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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なるほど (aruga)
2006-05-30 00:37:10
シシルシュの神話だったっけな??ゼウスの怒りをかったシシルシュは、山のてっぺんに大きな石の玉を乗せるまで死なせないという罰を貰ったのだそうな。ゼウスはいつも頂上手前で石を奈落に突き落として、シシルシュに永遠の命を与え、死ねないことの辛さを説いた神話なのだとか。

大腸菌はわっか遺伝子なる性もない、分化していない生物だから、幸、不幸は感じてい無いのだと思う。良く出来てると思うよ・・
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Unknown (tanup)
2006-05-29 12:02:41
最初の感想は「死なない大腸菌は幸せか?」でした。

うーん、今日のはなし、なんか引っかかる、でもそれが何なのかが・・・脳のキャパが限界です。

また教えてね。
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