
奥様を肺癌で看取った方が、膵臓がんと診断を受けました。
ご本人の希望で、外科と緩和ケアの外来とを併診するために受診されました。
やりたいことが沢山あるんです。
だから、抗がん剤で動けなくなってしまうのは避けたいんです。
年老いたお母さま、精神的に崩れやすい娘さんを、奥様が亡くなった後も支え続けていらっしゃいました。
説明しました。
肺癌の化学療法と、膵癌の化学療法は少し違います。
外科の主治医が検討している抗がん剤は、最初の開発段階では、生存期間の延長ではなく、痛みが少なくなるなどQOL維持の効果を見るような臨床試験でした。結果的に、予後も長くなることもわかりましたが、副作用はイメージされているものとは違うと思います。
一緒に私も考えていきますから、まずは、始めてみませんか。
耳を傾けてくださいました。
まずはやってみることを決心してくださいました。
そして、外科の主治医もそうしたご本人の気持ちをしっかり受け止め、投与間隔などが緩やかなレジメを選択してくれていました。
入院することもなく、最初の外来から1年以上、急速に腫瘍マーカーが低下し、治療が続いています。
一旦始めていた医療用麻薬もやめることができました。
そうこうしている内に、ゆっくりと腫瘍マーカーが上昇し、痛みも再度出現し、医療用麻薬を再開しました。
色々なことがありつつも、化学療法のレジメをややきつめのものに変えてみることの条件を自ら考え、決め、もし、それが難しくなった時にはどうするかについて、話し合っています。
最近読んだ論文です。
2007-2015年の間、ステージ3/4の比較的進行した膵癌の65歳以上の患者さんに対し、医療用麻薬を投与した場合、医療用麻薬を用いなかった群より、生存期間が長かったというものです。
Opioid Prescription Is Associated With Increased Survival in Older Adult Patients With Pancreatic Cancer in the United States: A Propensity Score Analysis
JCO Oncology Practice: 18(5), 357, e659-e668
JCO Oncology Practice: 18(5), 357, e659-e668
通常、痛みが出るというのは進行している状況だから、医療用麻薬を投与していた方が潜在的に進行を意味していて予後が短いと考えがちなのですが、そうではないことが示された貴重な論文です。
米国がん登録、メディケアリンケージデータを用いたレジストリ研究(特定の疾患の医療情報の収集を目的として構築されたデータを用いた研究)で、 5770人と大きな数を対象としていることも特徴です。
化学療法や放射線治療、手術、緩和ケアといった痛みや医療用麻薬の処方に影響を与えること(これを交絡因子といいます)は影響がない状況に調整され、その結果、全生存期間の中央値は、医療用麻薬投与群 6か月、非投与群 4か月(p<0.0001)と有意差を認めました。そして、医療用麻薬投与を受けていた患者さんは、緩和ケアの専門診療を受けている傾向が認められました。
この2か月間の差は、”医療用麻薬投与”と”疼痛が緩和されること”の二つが影響を与えていると思われます。
化学療法や放射線治療、手術、緩和ケアといった痛みや医療用麻薬の処方に影響を与えること(これを交絡因子といいます)は影響がない状況に調整され、その結果、全生存期間の中央値は、医療用麻薬投与群 6か月、非投与群 4か月(p<0.0001)と有意差を認めました。そして、医療用麻薬投与を受けていた患者さんは、緩和ケアの専門診療を受けている傾向が認められました。
この2か月間の差は、”医療用麻薬投与”と”疼痛が緩和されること”の二つが影響を与えていると思われます。
2016年頃から、痛みなどは免疫機能にとって良くない影響があり、除痛など(脳内報酬系の維持)は免疫に良い結果をもたらすことが報告されています。(Nature等)
こうした論文の紹介を、
8月27日 10時10分~11時10分 オンライン開催
「より質の高いがん疼痛緩和を目指して
‐予後にも影響する鎮痛療法:
オピオイドの選択からケ ミカルコーピングまで」
で話す準備をしています。
論文を読んだ時、真っ先に思い浮かべたのが、この外来の患者さんでした。
抗がん剤治療と鎮痛療法を行うこと、治療主科と緩和ケア外来が併診していること、治療だけではなく、生活の問題点を一緒に考えながら、社会的支援を添えていくこと。
患者さんにとって、腫瘍が縮小する、腫瘍マーカーが低下する、痛みが緩和される・・そうしたことをさらに超えて、
生きるとは、家族とは・・大きな問いへの探索の日々です。
がんも、治療も、すべて、
「人生の鍵を握っているのは、あなた自身。
だから、あなたが選んだことに間違いはない。
だから、大丈夫。」
(冒頭の写真:Susanne Jutzeler, Schweiz,によるPixabayからの画像)
緩和ケアの外来は、これからも、あなたが人生の鍵を握っていることに気づいてもらうことの手伝いを続けていきたいと思います。
dandy-hidechan52のおたかさんです
緩和ケアという文字からはホスピスがまずイメージされて、そういうケアと思っていました
でも治療による延命も一緒にするのですね
今日もとても勉強になりました
お訪ね下さり、また、コメントを頂き、本当にありがとうございます。
そうなんです。
がん治療中のケアもし、そのケアが延命にもつながるのです。
苦痛を少なくして、楽に生きることが、がんの長生きには大切なんです。
伝わっていたことがわかって、本当に、嬉しかったです。
頂いたコメントのお陰です!
aruga
色んな治療がありますよね。
色々と、考えさせられたことを思い出しながら、この記事を読ませていただきました。
傷みを和らげるだけのあの頃とはずいぶんと変わったのですね。
生きることにつながる延命ケアがあること・・・
うれしいですね。
そしてなにより、e3693さんみたいに寄り添ってくださるお医者さんがいてくださることが
もっと うれしいです。
がんも、治療も、すべて、
「人生の鍵を握っているのは、あなた自身。
だから、あなたが選んだことに間違いはない。
だから、大丈夫。」
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私の病は癌ではありませんが、心に刺さります。
病を抱え、お医者様に頼るしかない‥そんなとき、先生のような志を持ったお医者様に出会えることは、本当に幸せな事だと感じます。
また、何よりも大切なのは、患者自身の「命」なのだと気づきます。
患者は受け身でもありますが、生きるのは本人ですから。
これからも、陰ながら応援させていただきます。
いつもありがとうございます。
コメント、ありがとうございます。
別れた後も、いろいろなことを教えてくれるいのちのつながりですね。
素敵な方だったのですね。
aruga
何もかわってはいないのです。
あきらめたケアと思われていたホスピスケアも、緩和ケアも同じで、苦痛を一生懸命取り除こうとすること、それがひいては予後の延長につながっていたというだけなのです。
ホスピスでのボランティアを行ってくださっていたのですね、
poreporeさんが患者さんに向けてくださっていた微笑みも、患者さんの予後の延長効果につながっていたのだと思います。
ボランティアさんの力は本当に大きくて、本当にありがとうございました。
aruga
いつもコメント、ありがとうございます。
胸が熱くなります。
今日の元気も、いただいたコメントの応援のおかげだったかもしれません。
患者さんが主役であり続けられるようサポートしていきたいと思います。
こちらこそ、本当にありがとうございました。
aruga
その通りだと思うとお書きくださり、
もう、胸いっぱいです!
そして、緩和ケアに関わっている医師を評価してくださり本当に嬉しいです。
明日の誕生日を前に温かなプレゼントを頂いた感覚です‼️
本当に、ありがとうございました。
aruga