緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

一番嬉しかった言葉

2009年02月25日 | 医療

2年前の記事の再掲です。
最近、良く似た出来事がありました。



前の大学病院に勤務していたとき、
大学病院から緩和ケア病棟に移られ、
お母様を看取られた娘さんに話をして頂いたことがあります。 


一番嬉しかった言葉を尋ねたところ、

「退院し、ホスピスに向かおうとしていた時、
 担当の看護師さんが、“がんばって”と言って下さったことが本当に嬉しかった・・・」

皆、えっ?という顔をしていました。
 
”がんばっている” 患者さんや家族は、
もうがんばれないくらいがんばっているのだから、
”がんばって”という言葉は避けるべきだと医療者は教えられていました。

娘さんはこう続けられました。 

「がんばってと言っていただいた時、
 がんばれる力が残っていると言って頂いたんだ、
 私にがんばりを期待して頂けたんだ、
 まだ、あなたはがんばれるのよ、そう言って頂けたと思えたんです。」

はっとしました。 

学問の中で教えられる言葉にとらわれてはいけない、
がんばってという言葉は、がんばりなさいという意味だけではなく、
あなたは、まだがんばれる力が残っているのよという
可能性や保障の意味があったのだと教えられました。 

特に、これからホスピスに向かおうとしている患者さんにとっては、
穏やかさに対する期待値より、残るは死という感覚だったのかもしれません。 

だからこそ、まだがんばれるのよって言ってもらえたことが支えになったのでしょう。

言葉は生きていると感じた出来事でした。


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16 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
封印解きました。 (kappa)
2006-08-26 23:38:44
やはり僕も、教科書的に、『がんばって』は封印していた時もありました。



でも、やっぱ、頑張っている人や、頑張ろうとしている人、いらっしゃるんですよね。

そういう方に、『頑張って』を言わないことは、逆に、その方の意欲や、支えを削ぐ事になって仕舞うんじゃないか?

…と考え、『がんばって』の封印は解きました。



先生の仰る通りですね。

言葉は活きていている。

『言霊』なんだな~って思いました。
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Unknown (tanup)
2006-08-27 01:54:22
そうそう私もいつも「頑張って」が禁句とされていることに「???」と思っていました。なんでもかんでも「頑張って」で済ませてしまうことへの警鐘なんだろうねと受け取っていましたが。本当に心のこもった言葉は通じますよね。
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Unknown (tomato)
2006-08-27 14:24:32
辛いものを抱えている人が、ぎりぎりの処でがんばっている時でも、意識のある間は自分に負けたくないと言う気持ちはあると思います。信頼関係があって「がんばって!」という言葉が相手に負担にならず、受け入れられるのではないでしょうか。がんばっている人に対して緩和ケアが体と心を穏やかに解きほぐし、その人の持てる力を最期まで看取っていただきたいと願います。3年間の療養中に一番感じたことは、有賀先生のような感性を特に医療関係の方々には身に付けていただきたいと切に思いました。でも、経験だけでなく資質でしょうか・・・期待します
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コメントありがとう! (aruga)
2006-08-28 00:18:17
kappaさん

絶対ダメといわれ続けたことをやってしまうと、訴訟・・とまでは行かないけれど、結構ドキドキものでしたよね。大丈夫って自信と、それまでの関係性が大切なのですよね。



tanupさん

外から見ていると、医療の世界ってなんか変って感じることあるでしょう?ご指摘のように機械的に言ってしまうことに問題を生じるのですよね。



tomatoさん

ありがとうございます。私は、子供を通して、患者の家族の立場を経験できました。育児は本当に大変でした。でも、私も少し成長させてもらえました。
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気持ちの変化 (Buona)
2006-08-29 20:31:02


長い年月「頑張る」=耐える、無理をすると云うような感覚で好きな言葉ではありませんでしたが、夫が病と出会ってから、

今頑張らなくて何時頑張るのとの想いが沸き起こり不思議なほど心の中で自然な

言葉になりました。

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頑張るの意味が時間とともに変わってくるものなのですね。 (aruga)
2006-08-29 23:15:02
今ある力を100としたら、以前は、頑張るという言葉から、120の力を期待される言葉だったのでしょうね。今は、100の力があるなら、それに近づくように踏ん張りなさいというような意味合いでしょうか。もしかすると、100ではなく、今が60なら60分でいいから60で踏ん張ってましょうというような意味かもしれないですね。60から20になりそうなときに、今を維持しようよってことかも知れないですし。
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頑張れる力 (えび)
2009-02-26 08:26:49
その言葉を投げられた人が
どのように受け止められるか。

「これまで散々頑張ってきたのに
これ以上何をがんばれというのか」という
患者さん・ご家族の気持ちがある、と
いくつかの本などで見聞します

でも それも杓子定規ではいけない
ということですね

“がんばれる力が残っていると言って頂いたんだ、 私にがんばりを期待して頂けたんだ”
そう捉えられた方のお話、どこかでも
聴いたこともあるような。

頑張れる時は頑張って、
ちょっと…という時は 無理しない
なのかなぁ
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Unknown (himawari)
2009-02-26 11:44:31
私は夫のがん治療や母の痴呆介護の際に同じ「がんばって」が嬉しい時とそうでない時の両方を経験しています。
私の場合、言葉をかけてくださる方との関係とその時の私の気持ちの沈み具合かと思いました。私の辛さをわが身の痛みのように思ってくださる方からかけていただく「がんばって」はありがたい方が多かったように思います。
逆にあまりがんばりすぎないでがありがたい事もあり・・・
私自身は「がんばって」という言葉がタブーではないと思っていますが、自分が使う時にはどっちの言葉がいいんだろうか気を使っていますね。
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コメントありがとうございます (aruga)
2009-02-26 23:48:38
えびさん
>杓子定規ではいけない
本当にそうだと思います。
緩和ケア病棟にいた時、一日のうちに、ある患者さんのご家族とDNRの話をし、また違う患者さんのご家族とDNRの話をしなければいけなかったことが重なって行くと、同じ単語、同じ文章がいつの間にか口から出ていて、ハッとしたことがありました。
がんばってというのが良い時かなあと、そういう視点で相手を見つめるということこそが大切・・というメッセージ、心に響きます。

himawariさん
我が身のように思ってくれる人の言葉は、陽性反応ですね。その時の状況をも感じ取って初めて、言葉に抑揚がでて、メッセージになるのでしょう。
himawariさんの実際の体験が、自分が使うときは・・という温かい言葉に繋がっていると気がついた時、真に素敵だなあと思うのです。
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こんにちは (ラベンダー)
2009-02-27 16:44:28
はじめまして。私は広島に住む高校2年生です。
今、学校のパソコンを使う授業で私は「緩和ケア」についてのテーマを取り上げていろいろと調べものをしています。それをまとめ上げて論文にしなければいけないんです
そこで、よろしければ「緩和ケア」についての問題点とか利点とか…よろしければでいいので教えていただけませんか?
いきなり勝手なお願いをしてしまってごめんなさいm(_ _)m コメント待ってます。
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