緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

がん治療が大きく変わろうとしています

2014年10月26日 | 医療

腫瘍免疫から離れていたこともあり、
これを聞いたとき、本当に驚きでした。

がん治療が大きく変わろうとしています。

画像の出典:
抗PD-1抗体によるがん治療の基礎と臨床応用
京都大学大学院医学研究科 本庶佑先生
のネット上で公開されているスライドより





がん免疫は、T細胞の攻撃が主体ですが、
担癌状態では、アネルジーになっていることは
昔から言われていました。

なぜ、アネルジーなのか・・ここが大きな疑問でした。

20年近く前、アメリカのラボで、
腫瘍の塊の中にあるリンパ球が
腫瘍のそばにありながら、
何もできないでそこにいる状況をみて、
なんてこった・・と思いました。

その機能をいくつかの方法でみてみましたが、
アネルジー状態でした・・

アネルジーを免疫寛容状態(免疫ブレーキ)といいます。
つまり、人の体が異物を攻撃できない、
いわば、しびれさせられたような状態になっていることを指します。




がんに罹患すると、
がんを攻撃すべきところ、
体はしびれて(ブレーキをかけられて)、
がんを十分攻撃できなくなっています。

このしびれさせられている原因を
突き止めて、それを解除することができれば、
自分の免疫力でがんを縮小されることが
できるようになる可能性がでてくるわけです。


つまり、免疫のブレーキが解除されると
効果的な腫瘍免疫が活性化されると仮定できます。







そのブレーキの一つが、
PD-1からはいるシグナルであろうと
1990年代に京都大学の本庶佑先生によって、
報告されました。
抗PD-1抗体でそのシグナルをブロックしてしまえば、
免疫寛容状態が、阻止され、
自分の免疫力でもって
がんを攻撃できるようになるわけです。







そして、その抗PD-1抗体が
メラノーマに対し、薬価収載が2014年9月にされました。

ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体ニボルブマブ

成人にはニボルマブ(遺伝子組換え)として、
1回2mg/kg(体重)を3週間間隔で点滴静注
20mg  2mL1瓶  150,200円
100mg10mL1瓶  729,849円

例えば,体重50kgの場合 100mg/回
これを3週間に1回とすると、
1年間では、約17回
73万円x17回 ≒ 約1,200万円/年




大変な高額です。
ただ、その評価は革命的だともされており、



世界的な革命技術として、米科学誌サイエンスの2013年の「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」のトップを飾った。今や米メルク、スイスのロシュなど世界の製薬大手がこぞってこの仕組みを使った免疫薬の開発を加速させている。
悪性度が高いメラノーマは5年後の生存率は1割前後という極めて危険ながんだが、米国、日本での臨床試験(治験)では「増殖を抑えるだけでなく、がん細胞がほぼ消えてしまう患者も出た」(河上教授)。
米国での他の抗がん剤と比較する治験では既存の抗がん剤を取りやめ、ニボルマブに切り替える勧告も出たほどだ。肺がんや胃がん、食道がんなど他のがん種に対する治験も進んでいる。
日本経済新聞記事
(2014,10,24)





これを投与しながら、
抗がん効果を発揮させていくとしたら、

いかに、自己免疫力を上げていくかということになっていくでしょう。

今まで効果が薄いと言われていた
一部のT細胞活性化療法との併用が
活躍することになるかもしれません。

一方で、そのことによって、
自己免疫活性まで誘導される可能性もあり、
免疫関連肺病変による死亡もあるようです。

人工的な免疫応答の活性化が
はたしてよいかどうかは、
慎重に見ていく必要はあると
私は考えています。
(あくまでも、私見です)






何よりも大切なこと
ブレーキを外すだけではなく、
責める力を高める・・つまり、自己の免疫応答を高めることです。

バランスよく食事ができる、
それには排便がきちんとあること、
夜は寝られる、
症状がなく、日常生活に差障っていないなどが重要となります。

つまり、早い時期から、症状緩和をはかり、
自己の心身をよい状態に保つことが
がん治療の結果を左右させるようになっていくでしょう。

がん治療における緩和ケアの意味が、
さらに、積極的な役割に変わっていく必要があります。





抗がん剤で免疫力を落としてしまう前に、
抗PD-1抗体を使って行くことが
鍵になる可能性もあり、
化学療法との順番は逆になるかもしれません。

つまり、この登場によって、
抗がん治療の進め方が
大きく変わっていくかもしれません。






本記事の出典および参考元:(後半は除く)
「抗PD-1抗体によるがん治療の基礎と臨床応用」
京都大学大学院医学研究科 本庶佑先生
(ネット上に公開されているスライドですが、
 本ブログ機能上、このスライドへのリンクができないようです。
 スライドタイトルを検索語として、検索をして頂くとリーチして頂くことができます。)


コメント (8)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« リレー・フォー・ライフ 201... | トップ | Relationship-centerd care »
最新の画像もっと見る

8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (55tantan)
2014-10-26 21:58:28
はじめてコメントさせていただきます。

身内や大切な友人を癌や悪性のリンパ腫で

見送りました。

日経の記事を読み、革命的だと思っていましたが、

その薬価の高価さにクラクラするほど驚きました。

かつて病床で友人たちは、子育ての最中だったので

l嵩む抗がん治療費にこれから教育費にかかるというの

のに私の病気でこんなに浪費して.。と涙を浮かべてに言

っていたことを想い出します。

しかし、こんなに高額では、手の届かない革命としか思

えません。絵にかいた餅のように.....。





返信する
55tantanさん (aruga)
2014-10-26 23:18:39
コメント、ありがとうございます。
医療費、この金額を見ると、本当にご心配になられて当然と思います。でも、ご安心ください。

日本の社会保障はがんばっていて、高額療養費還付金制度というものがあり、所得によって、毎月の支払う医療費は一定以上になるとお金が返ってくる制度があるのです。この限度額を、自己負担限度額といいます。

一月、3万5千400円から15万+(医療費-50万)X1%まで、収入によって、異なります。

例えば
非課税となるくらい所得がすくない方の場合は、一か月 3万5千400円以上になった医療費は、全部戻ってきます。
とりあえず、1回払ってしまってから、限度額以上のものが戻ってくるわけですが、あまりに高額であれば、1回払うのも大変となります。
その時は、限度額適応認定証を受ければ、その限度額だけを払えばよいこととなります。
つまり、その場合は、どんなに高額の医療を受けても、保険が認められている治療であれば、3万5千400円を超えて払わなくてもよいのです。

また、生活保護の方は、現在のところ、医療費はかかりません。

詳しくは、いろいろホームページにも記載されていますので、読んでみてください。
例えば、
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3030

ですから、正直、このような高額の薬剤が開発されると、国の健康保険制度を心配しています。


とはいえ、高額療養費還付金制度があっても、治療が長くなっていくと、家計にひびくと思います。ご友人の方のご苦労は大変なことだったと思います。

ここでお伝えしたかったのは、がん治療の一定の金額を超えると、大変ではありますが、治療間での大きな差は一定金額を超えると無くなるということです。
返信する
Unknown (55tantan)
2014-10-27 09:54:12
ありがとうございました。

患者側の負担が少なくなるということは、健康保険制度に

しわ寄せがいくということなのですね。

よく理解は出来ましたが、気持ちは複雑です。

返信する
早くして~。 (ぴょん)
2014-10-27 11:24:14
ハイ。高額医療費控除の手はずをとっている私です。。


化学療法を始める前に、私にもやってほしかった。

大腸ガンに適用になるのかどうか、解りませんが。。


でも、8クール予定で始めた化学療法も5クール目の途中まで、やって参りましたので。。

残りもめげずに、、、頑張ります。
返信する
Unknown (monk)
2014-10-30 00:05:37
ときどき、立ち寄ってお勉強させていただいてます。
母(86歳)が歯肉ガンとなり、姑息的手術(7月)の後、再発。8月の中旬より痛みが徐々に増してきて、今では唾や水を飲むのも苦痛という状態になってしまいました。
某大学病院頭頸部外科外来で、ロキソニン→ボルタレンと処方されてきて、今週はボルタレンも効かなくなってしまったため、大学病院の廊下に張り紙のあった「緩和ケア外来」の受診を希望すると、主治医に「緩和ケアチームは、入院患者の疼痛管理をする部署だ」と断られました。廊下の張り紙に「痛みに悩んでいるがん患者さんは主治医に相談して緩和ケア外来を受診しましょう」と書いてあると告げると、看護師さんが張り紙をはがして持ってきてくれました。そこで、やっと緩和ケア外来が受けられるようになったのですが、外来受診日まで2日あることから、つなぎでレペタン座薬0.2mgが処方されました。
夕方、座薬を入れると激しく嘔吐し、頭がグラグラして意識も不明瞭になりました。病院に連絡し、救急車で入院となりました。たまたまお薬が体にあわなかったということでした。
入院して、やっと緩和ケアの先生がついてくださることになり、ホっとしました。緩和ケアの先生は、何に一番苦しんでいるか?痛みはどのような時、どんなふうに痛いのか?ほかに困っていることはないか?など、丁寧に聴きとってくださり「きちんと眠れるように」「喋れるように」「食べる(せめて飲む)ことができるように」を目指して、処方を考えてくださるそうです。
「早い時期から、症状緩和をはかり、
自己の心身をよい状態に保つことが
がん治療の結果を左右させるようになっていくでしょう。」
このように考えてくださるお医者様が一人でも増えてくださると嬉しいです。
母の場合、もっと早い段階で緩和ケアにつなげてくださってたら・・・と思わないこともないけれど、これから少しでも痛みが楽になるかと思うと、救われた気持ちです。
緩和ケア・・・本当にありがたいです。
痛みがコントロールできたら、温熱療法や免疫療法など試みることもできますし、少しでも良い時間をともに過ごすことができますし・・・。
返信する
55tantanさん (aruga)
2014-10-31 21:03:26
御指摘の通りです。
本当に、どんどん高額になっていく新薬に、保険制度が破綻しないか心配になります。
お気持ちは、皆に共通していることだと思いました。
返信する
ぴょんさん (aruga)
2014-10-31 21:07:02
5クールまで来たのですね。
すごいです、本当に、よく頑張られましたね。
折り返しまで来たから、もう一息!
コメントお書きくださって、ありがとうございました。
お蔭で、私も元気が出てきました。
返信する
monkさん (aruga)
2014-10-31 21:17:37
私たち、緩和医療に従事しているものにとって、本当にありがたいコメントです。
私たちの仲間が、少しでも、心地よい状態をつくることに力を尽くしていることが伝わってきました。
中々、繋がらなかったということがあったようですが、そこで終わらなかったこと、また、緩和ケアにかかってほっとしてくださるご家族が増えてくださっていること、私たちのメッセージが届いているようで、本当に嬉しかったです。
ありがとうございました。
(折角頂いたコメントを、タイムリーにアップできず、申し訳ありません。とても、ありがたかったです。)
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

医療」カテゴリの最新記事