JR東日本は、山手線の品川駅と田町駅の間に新たに新駅を設置するということを発表した。
この区間もともとは山手線内でも駅間距離が長い場所であった。
それもそのはず、品川-田町駅間には東京総合車両センター田町センター(旧田町車両センター)と呼ばれる広大な車両基地があったからである。
田町センターは長らくの間、東海道線を中心とした車両の点検・整備の場として活躍したが、2014年3月に上野東京ラインの運転が開始されるの機に、規模を大幅に縮小することになった。
縮小した際に出る創出用地は、2020年に開催される東京五輪に向けて再開発が行われる。
その中心となるのが、山手線の新駅設置である。
前置きが少し長くなってしまったが、この車両基地の地下には高輪橋架道橋と呼ばれる1本の道路が通っている。
広大な車両基地に分断された東西を結ぶ唯一の道路でもある。
その道路が色々と個性的なので、再開発が行われないうちに行ってみることにした。
やって来たのは都営浅草線泉岳寺駅。
A4出口から地上に出て、第一京浜沿いにある高輪大木戸跡を過ぎると、一方通行の道路が並走する山手線の線路方面へと伸びている。
ここが高輪橋架道橋へと繋がる道路なのだが、まさか通り抜けられる道だとはわからないだろう。
少しばかり道沿いに進むと、ガード下の制限高を告知する規制標識が立っている。
その数字は1.5m。自動車なのでぴんと来ないかもしれないが、人間で考えると非常に低い。
日本人の平均身長は男性で1.71m、女性で1.58mだというから、平均身長を大きく下回っている。
気を引き締めて、先へ進むと、道路はクランク状に折れ曲がりながら、高架下へと潜っていく。
手前から山手線、京浜東北線の順に高架橋が並んでいる。
営業路線だけではなく、先述の通り車庫や新幹線の高架橋も連なっていることから、200m以上の距離があるのだ。
一番手前の山手線の錆びた高架橋には再度確認するように制限高1.5mの文字が書かれている。
ここからはこうべを垂れて歩かなくてはならない。
自転車に乗った地元の少年たちは、スピードをあまり緩めることなく突入していったから驚いた。
鉄骨剥き出しの橋梁のため、振動はもちろん風圧や走行音がそのまま伝わってくる。
レールはわずか5cmほど上にあるのだから当たり前のことではある。
どうにか真下を歩行中の高架橋に電車が来ないことを祈るしかない。
山手線は日中3分から4分間隔で走っているので、高確率でやって来るから怖い。
山手線を潜り終えると、京浜東北線の高架橋はやや高い位置を走っているため、小休止区間がある。
最初の山手線はお試し的な感じで、ここからが本番ということだろう。
TDLのスプラッシュマウンテンが序盤で少しだけ降下するのと似ている。
ここから先は継続的に高架線が続くので、外光は射し込まないトンネルのような区間だ。
カメラで撮影すると明るく映ってしまうが、内部は非常に暗い。
照射灯も1.5m以下の場所から照らしているためであろう。
道路は一方通行のため、歩道スペースは十分に確保されている。
上空から聞こえてくる轟音に脅かされながら、200m歩くのは正直つらい。
人気がないのも少し不気味だが、かといって向こう側から人が頭を垂れて歩いてくるのも怖い。
奥へ進んでいくにつれて、少しづつ天井が低くなっているようにも思えてくる。
この道は以前、水路であったらしく、それを道路へと転換したらしい。
それならこの低い高さも頷ける。
コンクリートで埋め立てられてしまって、水はけは悪いらしく、入り口付近には「冠水注意」の標識もあった。
抜け道として利用されているためか、自動車は頻繁に通る。
特に多いのはタクシーで、昔は自動車上部に取り付けられた社名表示灯がこの高架橋で無残にも散る事故が多発した。
そのため、「行燈殺しのガード」の異名を持っていたらしい。
現在では、この道路を通ることができるように表示灯を改良したタクシー会社もあったという。
東京都下にまだ、このような場所が残されていることが不思議である。
ちなみに、この制限高1.5mという数字は国内で最も低いわけではなく、大阪には1.4mや1.2mといった強者が現在でも残っているという。
自動車の通ることのできる道としては、都内で最も低いであろう。
新駅設置と再開発によって、今後の動向が気になるところではあるが、ひそかに残ってくれることを期待している。