映画感想(ネタバレもあったり)

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劇場版「きのう何食べた?」 息子が連れてくのが「嫁」ならいいけど「男」は無理 

2021-11-15 | 映画感想
劇場版「きのう何食べた?」(2021年製作の映画)
上映日:2021年11月03日製作国:日本上映時間:120分
監督 中江和仁
脚本 安達奈緒子
原作 よしながふみ
主題歌/挿入歌 スピッツ
出演者 西島秀俊 内野聖陽 山本耕史 磯村勇斗



近年の邦画はほんとに傑作が多くて新しい光を発している中、この映画ももしかしたら…と思ったのですが。。。

*****

連続ドラマが大ヒット。深夜ドラマなので視聴率は高くて3%でしたが熱狂的なファンを獲得し、
正月のスペシャルドラマを経て同時に劇場版制作の宣伝もして、秋に劇場版公開!という流れ。

ファンサ(ファンサービス)映画でした。ファンサービス映画。

西島秀俊の好青年っぷりと内野聖陽の可愛さを愛でたり、
2人がいちゃいちゃしたり仲違いするのを見たり、
ベテラン俳優2人が楽しそうにアドリブしているのを見たり、
笑って泣いてほっこりした気分になりたいんだろうから、そうしてあげよう、という映画。

もちろん、それでウィンウィンの関係が結ばれたのならいいですよ。

全体的にはコメディですから
スッキリと笑ってもらおうと思って作った映画を見て
ファンがスッキリ笑ったのならば、それはそれでいいと思います。
しかし、この映画を見てスッキリ笑えましたか?


目次

  1. 美容室の新人男性スタッフの人としてやばいレベルの言動→かっこいい
  2. ハゲいじり
  3. アドリブ多すぎ
  4. キスしない問題
  5. ★★★以下はネタバレ含みます★★★
  6. ホームレスの男性が殺人の罪で9年の懲役を食らった問題。
  7. 息子が連れてくのが「嫁」ならいいけど「男」は無理問題
  8. 2人が幸せなんだから多くを求める必要はない問題
  9. 回避できたと思いますよ
  10. 「男に戻ります」発言



美容室の新人男性スタッフの人としてやばいレベルの言動→かっこいい

「漫画だったら成立する(もしくはスルーできる)んだろうな」というシーンが多かったです。

漫画は自分のペースで読み進められるしコマのサイズや吹き出しの大きさなど漫画ならではの手法でバランスを保つことができると思います。

特にこの漫画はセリフが長いので、それを俳優さんにそのまま長々と喋られるとウンザリ度が高まってしまう。

美容室の新人男性スタッフが人としてやばいレベルの言動を繰り返すのが漫画でなら我慢できても、映画できっちりやられると辛い。。

しかもこの男が「かっこいい!」「優しいんだね」と周りから評価される流れは、僕以外の観客の多くも「え?」っていうリアクションでしたよ。



ハゲいじり

全体的には俳優さんたちが皆さん素晴らしいのでそれなりのレベルに達してしまうのですが、ハゲいじりのシーンは今なかなか成立させるのは難しいでしょう。。

「息子が連れてくるのが「嫁さん」ならいいけど「男」は受け入れられない……」というのがテーマになっている中で、
主人公側がハゲの人を目の前にして「あんな風になりたくない!」っつって笑いをとるのは、流石に引きましたよ。

「これどうなの??」と引っかかってしまう時点でスッキリとは笑えない。
笑っていいのかわかんないけど笑っちゃうっていうブラックなコメディもあるけど、この映画はブラックコメディじゃないですよね。

泣いて笑ってスッキリほっこり映画なのだろうから差別で苦しんでる側が差別的発言して笑いを取ろうとするのは、ちょっと難しい構造でしょう。

それともブラックコメディだったのかな。。



アドリブ多すぎ

アドリブ、笑いましたよ、楽しかったですよ。

西島の素の表情とか、内野さんのSっ気とか、楽しかったです。
しかし多すぎ。他のとこがちゃんとできていたなら良かったかもしれないですけど、取りこぼしているとこ掬いきれていないとこも多いのに、このアドリブ笑いの量は多すぎ。

真剣に作っているように見えないんよね。
他がきっちり誠実にできていたならよかったと思いますが。



キスしない問題

ゲイを描くときに濃厚なセックスシーンが必須だとは全然思わないし、
「ゲイ」と「エロ」を離した描き方をしたものがあってもいい。

濃厚セックスシーン=ゲイを描けているって訳でもないので。

で、この2人はキスしない。契約書に書かれているのか知りませんが絶対にしない。

屋外でキスしないのはわかりますよ。
史朗は特に人目を機にするタイプだし。

ただなぜ家の中でも絶対拒絶なのだろう。。

花見のシーンで、50歳の男性2人がレジャーシート広げて仲良く隣に座ってイチャイチャすることには一切抵抗なさそうなのに、
(↑これの方がだいぶ勇気いりますよ。。)
そこでもキスだけは絶対に拒絶。。。

男同士のキスってそんなにヤなの?って思っちゃう。

そんなに嫌がること?
そんなに画面に映しちゃいけないこと??
と思っちゃう。


★★★以下はネタバレ含みます★★★








ホームレスの男性が殺人の罪で9年の懲役を食らった問題。

本人は仲間のホームレス男性が池に落ちたのを助けようとしたと主張しているし、他のホームレスたちもそれを証言したけれども、「誰もホームレスの言うことなんて信じない」ってことで、結局殺人の罪で懲役9年。

判決を受けた男性は控訴しても無駄だろうからと控訴しないことを希望している。
修は「控訴しましょう!」と推している。

史朗はそもそもこの事件に対してそんなには頑張っていなかった(そういうシーンが無かった)し、
この判決が出た後も「まぁしょうがないよね」的な発言をする。

それを修に「法律に携わるものとしてその発言はどうなんすか!」的なことで叱られてからやっと
「声を上げることは無駄じゃないことを示さないとな!」的なことを史朗は言って、「もうちょっと頑張ろう!」ていう流れになる。

被差別者であるホームレス男性は「声をあげても無駄(どうせ聞き入れてもらえないから)」と言っているのに対して、
同じく被差別者であるゲイ男性(史朗)が「声を上げることは無駄じゃない」って言うのは良い展開。

が、しかし、この後この事件一切映画に出てこない。。
頑張っているシーンなどない。
控訴することになりました、も何もない。。

しかも最悪なことにその後のエピソードが史朗が賢二を尾行するってやつだから、
「もうちょっと頑張ろう!」とか言っていたのに
サッサと仕事を切り上げて恋人を尾行するコントシーンが連続するので、引く。

史朗は割と傲慢なキャラではあるんだけど、あまりにも酷く映ってしまう。冤罪で9年懲役くらった事件の後に一切そのリカバーがなく、尾行コントされてもついていけない。。

主人公が無計画に悪く映ってしまっているので失敗です。
「声を上げることは無駄じゃない」ってセリフが口だけになっているのでこれも失敗です。



息子が連れてくのが「嫁」ならいいけど「男」は無理問題


この映画の主題ですね。

久栄(史朗の母)は結局賢二を拒絶したまま終わりましたね。すごいね。やっぱブラックコメディなのかな。
きっと漫画はまだ続くんだろうし、映像作品も続きを作るつもりなんだろうけど、この映画はこの映画だけなんだからもうちょい明るい未来を指し示すようなラストにしてよ。

久栄はこの映画の最初から最後まで何も変わってないからね。。賢二を拒絶するとこからスタートして拒絶したまま終了。

「あなたはあなたの家族を一番に考えて」って名台詞っぽい言い方で言うけど、そりゃそうでしょうよ。

「あなたはあなたの家族(嫁&子供)よりも実家のことを考えて」なんてセリフは毒親以外は言わないでしょうよ。
「あなたはあなたの家族を一番に考えて」なんて普通のことを名台詞っぽく言わないでほしい。




2人が幸せなんだから多くを求める必要はない問題

「性的マイノリティをめぐる社会問題に切り込んでいかない」という選択はいいとしても
その結果として「社会はいろいろあるけれど2人が幸せならそれで十分だよね」っていうオチは危険。

先ほど「声を上げても無駄、無駄じゃない」問題が放置(ていうか遺棄)されていたのもあって、
「2人が幸せなんだから多くを求める必要ないよね」感がありすぎるラストで、すごく問題。

実際劇場出た時に観客の1人が「あんなにいい彼氏がいれば十分だよね」と言っていた。

性的マイノリティの差別問題が「贅沢な悩み」「権利権利うるせーな」になっちゃうので、ほんとやめてほしい。




回避できたと思いますよ

久栄が賢二をスッキリと完全に受け入れられない状態であっても、何か少し融和するような形で終われたと思うし、

ホームレス男性の控訴問題を誠実に扱うことで、
「2人で幸せであることは、社会問題に声を上げることの妨げにならない」ってメッセージに繋げることができたと思います。

全体的にもっともっと誠実な作りにできたと思います。




「男に戻ります」発言

賢二は男なのに、ドラマクランクアップの時に内野聖陽が「男に戻ります」と発言した問題。

この映画がちゃんとしていればある程度は取り返しがつくのではないかと思っていましたが、残念無念。

製作陣の考えが浅いことが、この映画でむしろはっきりとわかってしまいましたね。

僕はもしかしたらこの映画は、50歳超えの人気俳優2人がゲイカップルを演じる映画として、連続ドラマよりもネクストレベルに達した映画になるのでは、と期待していたのです。

『ミッドナイトスワン』とそんなに遠くないレベルで時代を逆行する映画になってしまっていると思いますよ。

近年の邦画はほんとに傑作が多くて新しい光を発している中、この映画ももしかしたら…と思ったのですが。。。

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