映画感想(ネタバレもあったり)

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映画『西部戦線異状なし』(1930) 政治家や将軍やらを下着姿にさせて戦わせるんだ 

2023-01-12 | ネタバレあり

西部戦線異状なし(1930年製作の映画) ALL QUIET ON THE WESTERN FRONT 製作国:アメリカ上映時間:136分
監督 ルイス・マイルストン
脚本 マックスウェル・アンダーソン デル・アンドリュース ジョージ・アボット
出演者 リュー・エアーズ ウィリアム・ベイクウェル ラッセル・グリーソン


「戦争が起きた時はこうしよう。
広いところにロープを張る。
そして王様や政治家や将軍やらを下着姿にさせて戦わせるんだ。」byカット
マジでそうして。
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同じく戦争映画である
第1回アカデミー賞作品賞『つばさ』(1927)と比較しても
第3回アカデミー賞作品賞であるこの『西部戦線異状なし』(1930)は特段に映画としての技術が向上してますね。
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冒頭の字幕。

「この物語は告訴でも告白でも冒険物語でもない。
死と向き合う人間には冒険などはない。
これは砲弾から逃れたが戦争によって破滅させられた若者たちの物語である。」
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呑気な街の暮らし。
出征していく軍服の男たちを街の人が手を振って送り出す。
誰も戦地の惨劇など知らない。
(1900年初頭の話。銃後の市民が戦地の情報を知らないのも無理はない。でも現代では世界のどこでも戦争の情報は知れる。)
年末までに勝利を納めるのだ。
君らの命は国家のものだ。
祖国のために戦うことを誓うのだ。
教師が生徒たちに教え込む。
母は軍服を着た息子を見て苦しむ。
父は嬉しそうに息子を讃える。
息子は母の思いを知るが、世の中に飲み込まれる。
「大義名分のもとで個人的な野心は捨てるべきだ!」と教師
若者たちは軍隊に志願する。
明らかに狂ったような描写。
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↑この感じは2022年版でも踏襲されてますね。
2022年版の「ママの言いなりか?」と揶揄されるのはここの引用だったんですね。
ドキュメンタリー映画『彼らは生きていた』でも語られていたけど、
若者たちは全く実情を知らされておらず、全員ピクニック気分。
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上官は郵便屋のおじさん。
みんな親しみをもっていた彼だったが、一点して厳しい上官になっており、整列させられる。
「自分の将来など考えるな!お前らは兵隊になるんだ!」
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軍隊訓練をさせられる若者たち。
「体が汚れた!許せない!」
夜中、上官を捕まえてリンチして袋に入れて水たまりに落とす(すげーな…)。
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前線近くの宿舎には古参兵たちがいた。
その1人がカット。
カットが近所から豚を一頭盗んでくるシーンはコメディシーン。
カットら古参兵が若者たちの父親役となり導いていく。
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「ベームが死んだ!友達だ!」
「彼はもう死体だ」
塹壕が攻撃を受け、発狂していく若者達。
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そもそも何で戦争が起きたんだ?
国が国を侮辱したんだ
ドイツの山がフランスの平野を侮辱したのか?
誰かが相手を侮辱したのさ
なら俺は関係ない
きっとイギリス人が悪い
違うな戦場で初めてイギリス人に会った彼らも初めてドイツ人と会ったはずだ
はじめて会ったのにお互いを憎しみ合うはずがない
皇帝自身が戦争を望んだのかも
俺は望んでない
資産家が儲かる
戦争が起きる時はこうしよう。広いところでロープを張る。そして王様や政治家や将軍やらを下着姿にさせて戦わせるんだ。
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爆撃シーンがいっぱいあるんだけど、、
当時の映画撮影って特効の安全基準とかなさそうで、、
爆薬の量も凄いし妙に人と近いし、木とか石とか飛んでくるし。。
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弾孔でのフランス兵士との(地獄の)交流も1930年版も2022年版にもあるんですね。
「死んでしまった。これで俺より楽になれる。軍服を着てなければ友達になれたのに。」
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ラストネタバレは以下に



1930年版にはフランス美女とのラブパートがあるんですね。 ロマンチックなシーンにしてるけど、娼婦宿のように使っただけ。
2022年版ではオミットしてて良かった。
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途中で休暇で実家に帰って家族と団欒したり、 中打ち上げみたい場でみんなでビール飲んだり ゆるいシーンも多い。
でももちろん大事で、 銃後で生きてる人たちと前線で命を賭けて戦ってきた兵士たちの差を見せつける。
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「彼は命を捨てろと言ってる。今では子供まで戦地に送ってる。我々は敗戦に向かってる。あなた方はまだわかってない。泥に塗れて寝て食べて常に死と隣り合わせ。あなたには決して理解できない。明日戦地に戻る。休暇はあと4日あるがもう我慢できない。」
ポールは、机上の空論で軍事作戦を語る年寄りや若者を煽動し続ける教師たちに呆れて、戦地を選んだ。
戦地に戻ると16歳くらいの子供たちが兵士として連れられていた。
2022年版でラストに出てきた少年はこれを表してたんですね。
「若い奴が増えた。荷物も持てない。すぐに死ぬ」
「ドイツはじきに空(カラ)になる」
ポールとカットが久しぶりに出会う。
ポール「後輩に命の大切さを話したら臆病者だと言われた。またアンタと会いたかったんだ。少なくともここには嘘がない」
カット「フランスには飛行機も戦車もある。ドイツには全てが足りない。」
爆撃を受けてカットは足の骨を折ってしまう。
ポールがカットを背負って帰る。
帰る途中、再度爆撃を受ける。
破片が首に刺さりカットは死亡。
それを知らずにポールは「戦争が終わったら一緒に何かしよう」と話す。
塹壕にいるポール。
塹壕の外に蝶がいる。
蝶を捕まえようと手を差し伸べるポール。
銃声。
ポール死亡。

戦地に向かう兵士たちの背中。
1人ずつ振り返り顔を見せる。
『彼らは生きていた』でもあった映像に似てる。
透過したもう一つの映像は、白い十字架の墓碑が一面に広がる平野。
おわり


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