映画感想(ネタバレもあったり)

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映画『ヒヤマケンタロウの妊娠』なんか新しいことに気づいたみたい空気で喋ってるけどそれ女はずっとやってきたことだから

2022-09-26 | 映画感想
ヒヤマケンタロウの妊娠(2022年製作のドラマ)
原作 坂井恵理
監督 箱田優子 菊地健雄
脚本 山田能龍 岨手由貴子 天野千尋
出演者 斎藤工 上野樹里 筒井真理子 岩松了 高橋和也 宇野祥平 山田真歩 リリー・フランキー 細川岳 前原滉



『あのこは貴族』の岨手由貴子監督が入ってるプロジェクトということで、観ました。


菊地健雄監督もいて期待は高かったですが、その期待を超えてくるドラマでした。

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女性性の強い「妊娠」という役割を男性に移行してみたらどうなるか、という思考実験ドラマ。
無理やり新しい価値観を提案する訳でもないところにとても好感を持ちました。

そのかわりに、日々の微細な違和や齟齬が丁寧に(しかもコメディ風に)描かれていきます。
さすが手練れ集団っ!

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妊娠する既婚男性を「お母さん」と呼ぶ人が出てきます。

この現象は面白い。
男性であることに変わりはないんだから妊娠しても呼び名変えなくてもいいのに。
「お母さん」ってのは性別ではなく役割による呼び名だと考えている人がいる、ということなんですね。
男であっても妊娠したらお母さん。

お母さんと呼ばれたい男性もいるかもしれないか。

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妊娠した男性たちの悩みとして、妊娠することで男として扱ってもらえないというのが出てきます。

体が子供を産み育てるのに必要な変化をしていく様子を見て
「男なのに女みたいだ」とバカにする人たちが多く描かれます。
当事者自身も「男らしさがなくなるのが嫌だ」と苦しみます。
そこから「らしさって何だ」というテーマがこのドラマの最後まで語られ続けます。

やはりここでも、
妊娠する男性は「妊娠する男性」なだけではなく、「てことは女」ってなるんですね。

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妊娠した夫の妻の苦悩も描かれます。


「ほんとは私がやらなきゃいけないことなのに」と。
妊娠&出産という役割も男に奪われたら女は何をしたらいいの、と悩んでしまう。
「らしさ」や社会構造による悩みですね。
夫が産休・育休とるなら妻が働けばいいけど、男性と同じ収入を得るのは難しい、とか。

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ヒヤマは内省しながらいろんなことに気づいていって
それをのうのうと語るんだけど
女性たちからは
「なんか新しいことに気づいたみたい空気で喋ってるけど、それ女はずっとやってきたことだから」
と呆れる、というシーンがいくつかあるのが面白い。
何か新しいことに気づいたんじゃなくて
対話と想像が足りてなかった、
「らしさ」に縛られすぎてるんだよ、
という話。

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ヒヤマは広告代理店。


クライアントの企業イメージをアップさせるために様々な人種のモデルやLGBTQの人の写真を選んでいるシーンがあって
「貴社の先進的なイメージを訴求するためにこういう写真を使おうと思います」っつって人間たちの写真が並べられる。
企業イメージのために〝珍しい人〟が利用されている感じがちょっとしちゃって
ちょっとヤだな……と思いました。
でもこのドラマならちゃんとどっかで問題意識を感じるシーンが出てくるだろうと思ったらなかった。

これはミスか、
広告業界はこの暴力性にまだ気づいていないという示唆なのか。

↑この点はちょっと残念。



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