イン・ザ・ハイツ(2021年製作の映画)In the Heights 上映日:2021年07月30日製作国:アメリカ上映時間:143分
監督 ジョン・チュウ
脚本 マーク・クライン
出演者 リン=マヌエル・ミランダ ダーシャ・ポランコ ステファニー・ベアトリス ジミー・スミッツ コーリー・ホーキンス アリアナ・グリーンブラット アンソニー・ラモス マーク・アンソニー スーザン・プルファー
ちなみにラ・ラ・ランドよりこちらの方が企画は先に動いていた。
ひっさびさに映画館でボロボロ泣きました。
宣伝を見た時は『ラ・ラ・ランド』っぽいヤツねと思ってた程度で、好評は聞きつつもなんか気持ちが乗ってなかったんですが、観てみたらびっくり傑作っ!
そろそろ公開終わっちゃうっぽいんで急いで観に行って!慌てて観に行って!
メインキャスト全員アジア系俳優『クレイジー・リッチ』のジョン・チュウ監督作
メインキャスト全員アジア系俳優で二億ドルのヒットとなった『クレイジー・リッチ』のジョン・チュウ監督なんですね。
アジア系の物語に集中した映画でした。
なるほど。
だから移民の話っつってもアジア系もイスラム系も出さなかったわけね。
今回は南米移民の話に集中したものだった。
「コンプラに気を使ってますよ」的にLGBTQを一応入れておく、なんてこともしない!
(出演者やスタッフに該当者がいたりはするでしょう)
キューバ!プエルトリコ!メキシコ!って国名も国旗もバンバン出していく。
だからこそ濃厚な南米感と南米移民の歴史をじっくりと観ることができました。
ラテン音楽とヒップホップとミュージカル
音楽史、特にミュージカル史に明るいわけではないので以下は予想ですけど、、
1957年に、若者文化や移民2世を描いたミュージカル『ウエスト・サイド物語』が上演されたとき、きっと当時の若者は「オレたちの話だぜっ!」って興奮したんじゃないでしょうか。
今作『イン・ザ・ハイツ』もひたすらに南米移民の話をしながら、ラテン楽器によるリズムと歌とラップが盛り沢山に披露されます。きっと「ついにオレたちの文化がミュージカルになったぜっ!」と若者に迎えられたんじゃないでしょうか。
音楽史的にも、
例えば北米でいうとアフリカ大陸の黒人霊歌から始まってブルースになりキリスト教と混ざってゴスペルとなりゴスペルとブルースとジャズが融合してR&Bになりさらにソウルが生まれ、みたいに人が動くことで地理的な要因や土着文化の影響を受けて音楽は変わっていく。
今作『イン・ザ・ハイツ』でも、
脈々と続くラテン音楽とヒップホップが融合しラップが乗り、全体としてはいわゆる北米文化であるブロードウェイらしい音楽として成り立っている、という歴史も現在感も大衆感も包含した新しい音楽になっていたんだと思います。
世代感ギャップがありそうなストリート文化
スプレーアートが実は冒頭の海辺のシーンとラストシーンをつなげる重要な役割を担っていたり、
南米の女性の偉人紹介パートでもスプレーアートでしたし、
傷のついたレコードの針が飛んで何度もループする音がラップになっていて、これも過去と現在が繋がっている、ということを示唆する演出になっていました。
スプレーアートやラップ(ヒップホップ)などの世代感ギャップがありそうな文化だけど、当然歴史として繋がっているものとして描いているのも感動的でした。
プールパート、BARパート、お婆ちゃんパート素晴らしかったですね
前半はちょっとつまんなくて、、こう言う感じでずっといくのかと思ったんだけど、
まずプールダンスでのダンサーさんたちの熱気にやられてしまいました。
そしてBARでのダンス。
ビキビキのラテン音楽とラテンダンスをその道のプロたちがバッキバキに披露してくれる。
ラ・ラ・ランドで言うところの狂人たちですよ。
狂人たちが命燃やしてるとこをベストな撮影で見せてくれる。
最高。
で、お婆ちゃんパート。泣いた泣いた。。。
移民ってほとんどの場合騙されてますよね。。
「幸せになれるよ〜」「働いただけお金もらえるよ〜」「仕事いっぱいあるよ〜」って。
嘘かホントか確かめる術もない時代(今でもそうですね。フェイクニュースが溢れてホントのことが探しにくい)に、一抹の不安を覚えながらも希望を抱いて国境を超えてきた人たち。
しかも、2世とかですからね。ほとんど祖国を知らぬまま親に連れてこられた子たちがすでに祖父母世代になっており、一度も祖国の地を踏んだことのない世代も多くいてアイデンティティの確立や差別に苦しんでいる。
どこでも私たちは私たち
↑この、無重力シーンていうか、重力の方向無視シーン。CMなどで観た時は「あぁこういう感じね。CG頑張ったシーンね」ってなくらいの印象で逆に盛り下がったんですけど。
このシーンはだいぶラスト近いシーン。
それまで散々喜びと悲しみと生と死と過去と未来を描いてきてからのこのシーンなので、ものすごく希望を感じました。
当然このシーンは原作ミュージカルではないでしょうよ。
映画ならではのオリジナルとして追加されたのでしょう。
私たちはどこにでも行けるしどこ行ったっていいし、どこに行ってもここにいたって私たちは私たちというメッセージが映像から伝わってくる。
ラストネタバレは以下に。
映画の冒頭からミステリーがありましたね。
ちょっと脂の抜けた感じのウスナビが子供達に語っています。
カリブっぽい海辺で。
ウスナビは海辺の小さな商店を営んでいるっぽい。「昔は都会で戦っていたけど今は祖国の田舎で落ち着いて暮らしてるよ」っぽい空気。
そんなセリフはないけれど。
ある時話を聞いている1人の女の子「パパ」とウスナビのことを呼びます。
むむむ。
ウスナビの未来には娘がいるのか。
誰と結婚したのだ。
というミステリー。
で、最後の最後までウスナビは祖国に帰る気マンマン。
いい感じなってるバネッサはそのままワシントンハイツにいる。
なぜならウスナビから店を譲ってもらったから。
その店でファッションデザイナーとしてやっていくと決めてるから。
じゃウスナビは誰と結婚するんじゃ。
バネッサは、スプレーアーティストのピートが使った養生用の布の模様にヒントを得て、それを使った素敵な女性服のデザインに成功!
いよいよウスナビは誰と結婚するんじゃ。
ウスナビがアメリカを発つ日、バネッサは店に呼びそれを見せる。そこにはピートもいる。
ピートは店の壁にウスナビの故郷の海辺の景色を描いていた。
「そうか!ここが僕の祖国だ!」と急に思ったウスナビは出国を取りやめ。
ちなみに宝くじ9万6000ドルは、デモ活動も頑張っているソニーの学費として弁護士に預けた。確か大学に行けるような裁判も起こす。判決に10年かかるかもみたいなこと。高い壁だが挑戦する、と。
ウスナビが海辺で子供達に語っていた場所は実はワシントンハイツの店の中。背景の海はピートがスプレーで描いた海だった。
ウスナビの娘の母親はバネッサ。ウスナビとバネッサは結ばれておりました。
おわり