寓居人の独言

身の回りのことや日々の出来事の感想そして楽しかった思い出話

異次元世界からの招待(6)

2016年06月20日 10時28分09秒 | 寓話

「どうしたんだい。診察を受けたんだろう。何かあっ

たのか」

「診察は受けたし、精密検査を来週受診することにな

った。少し話しておきたいことがあるんだが時間都

合つけれるか」

「こみ入った話なら、職員食堂じゃまずいかな」


「そうだな、正門をでて右にすこし行ったところに

あるファミレスでどうだ」

「いいだろう。じゃ午後1時半頃にしょう」

 そういって電話を切った。食事時刻にしてはすこ

し遅いが我々の仕事の性質上やむをえない。それに

午後1時半過ぎという時刻は客も少なくなっている

だろう。だから込み入った話をするには都合がよい

こともある。

 佐々木は午前中を例の書類を再び開いてみること

にした。失踪者のリストを見ると職業に一定の規則

性はないことが分かった。というよりもこれだけ広

範囲の人材をどうやって選出したのだろうかと考え

た。これだけの人たちを集めれば何か一つのまとま

った国とは言わないが町くらいはできるのじゃない

か。

職業をカテゴリー分類して見てみると、

物理学者 36才男性 流体学専攻 広島県
生物学者33才女性:遺伝子専攻 京都府 
化学者34才男性:分析化学専攻 北海道
医師35才男性:外科および整形外科 千葉県
看護士29才女性 新潟県
建築工学29才男性 東京都
海洋工学35才男性 長崎県
水道工事設計管理者35才男性 大阪府
写真家30才女性 兵庫県
栄養士35才料理に詳しい主婦  沖縄県
企業の営業管理者52才女生 愛知県
廃棄物処理管理者33才男性 広島県
危険物空調管理者29才男性 東京都
電子工学関係の実務者33才男性 静岡県
中等学校教員34才女性 長野県
農業従事者28才男性  秋田県
統括業務 58才男性 京都府
企画・デザイン 43才女性 愛知県

  となっていた。

 佐々木はこれらの人たちに何らかの繋がりがある

のだろうかとジーッと見ていたがそれぞれ無関係の

ように思えた。居住地も日本中各所に散らばってい

た。これも何ら関係がないように思われた。これら

の人たちはその分野でも主導的な立場の人たちだろ

う。政府の調査期間に報告されている失踪者はこの

人たちの他にも数百人がいるという。それから謎の

失踪者は我が国だけではないだろうと言うことだ。

報道関係には漏れていないが、外国でも同じことが

起きていると考えるのが普通だ。

 佐々木は真剣に考えたがどうしても訳が分からな

かった。例えば誘拐するにしてもこれだけいろいろ

な職業人を選ぶのは大変だろう。 それが日本人だけ

でないとしたらどんな結果を導き出すことが出来る

だろうか。全く見当が付かなかった。しかしよく考

えるとこれらの失踪者は相互に関係がないように職

業、居住地をランダムにしているのかもしれないと

考えるのが妥当だろうと思った。それじゃあ何故と

いうところで思考が停止してしまった。

 佐々木は、馬場にどこまで話していいかを考える

ことにした。馬場良明は佐々木にとって最も信頼で

きる親友だから全てのことを話してもよいと思うが、

国家機密になることだからと北館主任教授に釘を刺

されているのでそうもいかない。それともし機密事

項を知ったと言うことで計り知れないことに巻き込

まれることもあるかもしれない。とにかく会って話

の成り行きで失踪者が多数いることと失踪者の出身

地が日本中に散らばっていることにとどめることに

した。

 


異次元世界への招待(5)

2016年06月06日 11時08分01秒 | 寓話

 と言って主任教授室を後にした。

 佐々木は分厚い資料を早く見たいと思いながら自分 

の室へ戻った。早速ファイルを開くとはじめに

 首相のプロジェクト参加依頼状

 内閣府係官のプロジェクトの主旨説明書

 プロジェクトの構成と目的

 プロジェクト参加の条件

  拘束条件

 守秘事項

 出張の必要な場合の条件

 報酬

 等々

 これまでの経緯

 失踪者の住所・年齢・学歴・専門・職業経歴

 失踪事案発生時の様子(日時)

 その他の参考事項

  佐々木はこれらの書類を読んでいくにしたがって、

これは大変なことを引き受けてしまったと感じてき

た。過去の拉致失踪事件とは全く性格の違う事件が

多発していることを初めて知った。しかもその原因

はもとよりどんな目的でどこへ行ったのか全く不明

だと言うことに一種の恐れを感じた。しかし何があ

ってもこの失踪事件の謎を解けという内部からの衝

撃が湧いてきた。

  ファイルの最後にある参考事項に目を通していくと

、佐々木は何か自分の感じたことと似ていることが

書かれているのに気がついた。何人かの人はどこか

らか雑音が聞こえてきてその雑音が次第に日パンに

発生しだしたので家族にそのことを話しており、家

族の勧めで耳鼻科の専門医師を受信していた。その

耳鼻科医師の診断は各種検査を行ったが聴覚系の基

質的な異常は発見されなかったと報告されていた。

またある人は身体少なくとも衣服の上から接触され

ている感覚を持ったという。これらの人たちも精神

科を受診しており、精神的には何も異常が発見され

なかったと報告されていた。これは佐々木澄夫自身

の場合とほとんどいや全く同じ現象ではないかと思

った。自分もいつか失踪することになるかもしれな

いという予感を持った。 

  佐々木は自分に起こっていることを出来るだけ詳細

に記録しておくことにした。そして友人の馬場にも話

しておいた方がよいと思い昼食を一緒に食べたいと電

話をかけた。


異次元世界への招待(4)

2016年06月01日 23時59分35秒 | 寓話

 翌日、佐々木は北館主任教授に政府のプロジェクトに

参加したい旨を伝えに行った。北館主任教授は、

「ありがとうございます。私の役目を果たすことが出来ま

した。早速政府の担当者にその旨を伝えます。政府の仕

事、特にこの仕事をやるようになりますとかなり頻繁に

会議が開かれることになるように聞いています。そこで

授業のことですが、今何コマ授業を担当していますか」

「はい、講義の方は毎週2回です。それと大学院生の研

究指導、これはゼミナールも含まれていますがと卒業研

究の四年生のぜミナールがあります。それぞれ毎週1回

です」

「結構授業を担当していますね。わかりました、授業の方

は佐々木先生の推薦される方がいましたらその方にお願

いしましょう。しかし大学院生の研究指導は先生に担当

して頂かなければならないでしょう。時間割の都合があ

るようでしたら申し出て下さい。それと四年生のゼミナ

ールは...」

「四年生のゼミナールは大学院生に見て貰うことも可能で

すが」

「そうお願いできるようでしたらそうしていただけるとた

すかりますね。肝心なところは先生に押さえて頂かなけ

ればならないでしょうが、大きな問題がないようですね。

授業に関しては全面的に支援することが出来るでしょう。

ご安心下さい」

 佐々木は政府プロジェクトがそんなに急に発足するとは

思っていなかったし、かなり切迫している問題が発生して

いるのかもしれないと思った。それはそうだろう。優秀な

若手の研究者が何の理由も無く数十人が失踪すること自体

があり得ない話なのだから。それにしてもこんなにとんと

ん拍子にことが進行するとは思ってもいなかった。いった

い何が起きているのだろうか。少し不安を感じたが、未知

なるものへ挑戦することにはなれているし、訳の分からな

い変事を解明してやろうという気持ちの方が強かった。

「北館先生よろしくお願いします」

「佐々木先生、あなたは自然科学者だから未知なるものへ

の挑戦を恐れることはないでしょうが、何かとんでもない

ことが起こりつつあると言うことはいえると思います。言

うまでもないことですが常に冷静に行動することを期待し

ています。それではこの資料に目を通しておいて下さい。

今週中か来週初めには政府の方から招集があるとおもいま

す。よろしくお願いします」

 北館主任教授は分厚い資料の綴じ込みファイルを佐々木

に渡した。

「できる限りの努力をしますのでよろしくお願いします」

 「お願いしますよ」

 佐々木澄夫は渡された資料を持って立ち上がった。

「それでは、失礼します」

 と言って主任教授室を後にした。

 


異次元世界からの招待(3)

2016年05月22日 14時51分17秒 | 寓話

「母さんどうしたの。何か急用があったの」
「ああ、澄夫かい。別に急用と言うこともないんだけ

どね。父さんの法事をどうしようかと思ってね。チョ

ット相談したかったんだよ」

「そうか今年は7回忌だったね。もうそんなに時間が

過ぎたんだね」

「そうなんだよ。それでどうしようかね」

「母さんに任せるって言うことも出来ないから、僕の

方でなんとかするよ。そのうちに打ち合わせに家に帰る

から」

「そうしてくれると助かるよ。それでいつ帰ってくる

んだい」

「そだなあ...。すぐというわけにはいかない事情

があるんだけど、今月中には帰ることが出来ると思う」

「何しろ来月のことだからね、出来るだけ早く帰ってき

ておくれね」

「わかった。また近いうちに電話するよ。母さんも身

体に気を付けてくれよな」

「それからね。もう一つあるんだよ。前から言っていた

ことだけど、お前の結婚の話なんだけどね。まだその気

がないのかい」

「その話は、家に帰ったときに話すよ。じゃ、また電話

掛けるから」

 佐々木は父の7回忌か、はやいものだなーもう7年も

経ったのだと少し感傷的になってしまったが、そんな時

間はなかった。北館主任教授に言われた政府失踪者調査

に参加するかどうかを考えなければならない。各分野の

専門家が突然失踪している。しかも世界的な規模で発生し

ていると言うことは確かに重大なことだ。敗戦後の日本

から誘拐したような話ではなさそうだと思うが実態は全

く不明だと言うことだ。何のために失踪するのだろうか。

今自分一人で考えてもデータが何にもないので考えよが

いことに気がついて佐々木はそのプロジェクトに参加し

て原因と目的を解明してやろうと決心した。

 このことは口外するなと言うことなので親友の馬場に

も相談できない。明日北館主任教授に参加したい旨を伝

えることにしてその件は今日は棚上げすることにした。

 佐々木は今日届いた専門学会誌を取り出してパラパラ

とページを繰っていたが疲れが出てきて眠ってしまった。


異次元世界からの招待(2)

2016年05月15日 23時15分20秒 | 寓話

 佐々木は2日間休んで溜まっていた仕事を片付ける

ために研究室へ戻った。事務机に向かうと同時に助教

の高橋都がノックをして返事も待たずに入ってきた。

「佐々木先生お帰りなさい。先生のいらっしゃらない間

に数本の電話がありました。お相手の連絡先をメモに

書いておきましたんでよろしくお願いします。それか

ら北館主任教授がお戻りになりましたらなるべく早く

連絡してくれるようにとのお話でした」

「あ、そうですが。ありがとう。」

といって渡されたメモ用紙をサッと見てから北館主任

教授に電話を掛けた。

「北館先生、今戻ってきたところです。留守にしてい

て申し訳ありませんでした。それで何かご用でしょう

か」

「そう、これから直ぐにお会いできませんか。都合が

よろしければ私の部屋までご足労お願いしたいのです

が」

「分かりました直ぐ先生のお部屋へ伺います」

 佐々木は何か急用が出来たのだろうかと考えながら北

館主任教授の部屋へ急いだ。主任教授室のドアをノック

するとすぐどうぞと変事があった。

「失礼します。佐々木です」

「佐々木先生、お待ちしていました。どうぞこちらへ来

てソファーに掛けて下さい」

と言いながらソファーを指さした。

「佐々木先生、早速ですが実は政府のある高官があなた

の業績を目に留めて何とか政府に協力して欲しいと言っ

てきているんですがね。

何でも近頃世界中で頻繁に人が突然行方不明になってい

るというのです。それで我が国の政府も調査に乗り出し

たのですが、失踪届が出ている方だけでも数十人が行方

不明になっているそうです。それらの方々は丁度あなた

と同じ年代の方が多くしかも多分野にわたる専門家が多

いというのです。それで政府は本格的な調査を始めると

いうのです。1950年代以降の某国による拉致事件との関

連も含めて調査するというのです。それでこの大学から

もあなたに出向して欲しいと依頼があったのです。今お

話しできるのはここまでです。佐々木先生如何でしょう

か」

「今伺った話では何ともお返事のしようがありませんが、

一両日考えさせていただけませんでしょうか」

「もちろんですとも。しかし出来るだけ早くお返事を下

さい。政府もいそいでいるようですからね」 

「わかりました」

「ところで佐々木先生、何か身体の調子が悪いと言うこと

は無いでしょうね。チョット噂を聞いたのですが」

「はい。肉体的に何も異常はありませんが」

「と言いますと何か他にありますかな」

「いえ、たいしたことではないのですが。少し異常感覚

に襲われることがありますので同級生の馬場准教授の紹

介で神経科を訪ねたのですが、何も異常が無いというこ

とで来週火曜日に精密検査を受けることになりました」

「佐々木先生に限って大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。私自身も気のせいかななどと思

っているのです」

 佐々木は北館主任教授室を退出した。自室に戻ってメモ

に書いてあったものを見ると4件の内3件は取材申し込み

で再び連絡するというので待っていればよいものだった。

残りの一件は故郷にいる母からのものであった。母へは家

に帰ってから電話することにして事務処理に専念した。

  夜9時過ぎまでかかって事務処理を終わった佐々木は自

家用車に乗って大学を後にした。マンションに着き部屋に

入るなり母に電話を掛けた。

 


異次元世界からの招待(1)

2016年05月13日 12時18分25秒 | 寓話

 佐々木澄夫のそれは初め些細な違和感から始まった。

例えば何かの声が聞こえたような気がするといったこ

とや肩先をつつかれたり着ているものを抓まれるよう

な感じの場合もあった。その現象が起きるのは通勤途

中のマイカーの中であったり、夜寝ているときであっ

たり場所や時刻は決まっていなかった。

 こういうことは他人に話すと何か悪いことが起きる

ということを母から聞いていたので妻にも他人にも話

さなかった。この時代にそんなことを信じているわけ

ではなかったのだけども特に他人に話すことでもない

と思っていただけだった。しかし、この現象がしばし

ば起こるようになったのでとうとう親友の馬場良明に

相談してみようと馬場に電話を掛けて大学構内の食堂

で会うことにした。「初めは1年ほど前に起きたのだ

けど特に気にもならなかったので無視していたんだ」

「俺は全くそんな経験をしたことがないがなー」

と馬場良明。さらに続けて、

「誰にでも起きるというならそれはもう怪奇現象とし

かいえないがな。しかしお前だけに起きるということ

は単なる気のせいじゃないのか」

「他人には話したくなかったから他の人のことは解ら

ないけれども」

「それは若しかしたら何かに当たったとか接触したと

かと言うことじゃないのか」

「いや。いつも一人でいるときに起きるんだぜ。少な

くとも直ぐ近くには誰もいないときに起きるんだ」

「どうだ、一度心理分析を受けるとか、精神科の医者

に相談してみるか。俺の仕事仲間に丁度いいやつがい

るぞ。紹介状を書いてやろう」

「チョット待ってくれよ。そんなに急ぐこともないだ

ろう。もう少し様子を見てみたい」

「様子を見るなんていうのは俺たち医者が何が原因か

解らず診断できないときに使う言葉だぜ。悩みが大き

くなる前に病院に行ってこいよ。本当は俺が見てやれ

ればよいのだけどな。俺は内科の医者だから専門外と

いうわけだ」

 といって馬場は直ぐに紹介状を書き、その精神科の

山下十郎助教授に電話をかけてくれた。友人とは嬉し

いものだと思った。

 馬場に紹介された精神科の山下助教授は佐々木澄夫

と同年配で、職業がらか人懐かしい方だった。佐々木

は馬場に話したとおりのことをまた話した。医師は時

どきうんうんとうなずきながら静かに聞いてくれた。

 私が話し終わっても山下助教授はしばらく目を閉じ

て沈黙していた。佐々木が落ち着かなくなる前に医師

は目を開けて話し出した。

「これは医師の守秘義務に関わることですのでお話しし

て良いかどうか迷っています。でもあなたのお話と全

く同じように思いますのでお話ししましょう。その方

はAさんと言いますが、1週間ほど前にも佐々木さん

と同じような経験をしたと言って相談にお出でになり

ました。Aさんは1年ほど前から誰もいないのに背中

を押されたり、何か訳のわからない外国語のような言

葉のようなあるいは単なる音のようにも感じるものが

耳からではなく突然頭の中に聞こえるようになったと

いうことでした。それで私はAさんの生活歴を少し調

べさせて貰いました。結果は簡単に言えば、精神的に

何か圧力があったとか事故などは全くなくごく普通に

生活していたようでした。佐々木さんの場合は耳から

聞こえたのですか」

「いいえ私の場合は少し前に嫌な低い雑音が聞こえて

それから不思議な感じのする音が聞こえてきました。

接触感の前には雑音はありませんでした」

「そうですか。Aさんの場合と少し違っているようです

ね。正直に申し上げますが、今の状態では何とも言えま

せん。Aさんと同じように心理分析を受けて頂くことと

耳鼻科と五感検査室の検査を受けていただけませんか」

「分かりました」

「それでは予約をしましょう。出来れば1回で両方受診

できるようにしましょう」

「ありがとうございます」

「都合の悪い曜日がありますか」

「いいえこういうことですから出来るだけ早い日にお

願いします」

「分かりました。 少し外の待合室でお待ち下さい」

「はい、お願いします」

 というわけで佐々木澄夫はこの件に関心を嫌でも持つ

ことになってしまった。

「佐々木さん。どうぞお入り下さい」

 と看護士に呼ばれた。

「はい」

 といって佐々木は再び精神科の診察室へ入った。

「佐々木さん、来週の火曜日午前9時に心理分析室へ行

って下さい。そのあとで耳鼻科で精密検査をしていただ

きます。結果は更に1週間後の火曜日に9時にここへお

出でください」

「はい、わかりました。ありがとうございました」

 佐々木は礼を言って、退室し病院の外へ出て馬場に電

話を掛けた。馬場は電話に出ることが出来ないと看護士

がいうので、相談が終わって帰るところだと伝えてくれ

るように頼んで電話を切った。

 


彗星「Ochou」効果(5)

2016年05月10日 10時38分22秒 | 寓話

「月の軌道がずれると地球の潮汐関係に影響が出ること

が考えられます。その結果海流に変化が生じ、さらに気

候に影響する可能性があると考えられます。そこで彗星

「Ochou」を何とか出来ないかという問題が一つ、何と

かというのは軌道をずらすとか破壊して質量の小さなも

のにするかと言うことです。しかしこれらはリスクが大

きく実行が躊躇されます。が綿密な計算をしてシミュレ

ーションを重ねればどれくらいの確率で可能かというこ

とが明らかになればと考えています。そこでお集まり頂

いた皆さんにはアイデアを出して頂き計画を立てて頂き

たいのです。よろしくお願いします。いろいろ質問があ

るでしょうが丁度昼食の時刻が来たようです。午前中の

話はこれまでにして食道へご案内しますのでおくつろぎ

下さい」

 曽根は初めて会った人たちとも直ぐにうち解けて今度の

ことを話し合った。そのために食事は何を食べたか解らな

いうちに終わってしまった。

 アイデアを出し合いそれを検討し20日が過ぎる頃によう

やく一つの案が決定された。日本で検討した「Ochou」の

軌道を変更する案は早速、地球科学アカデミーへ送られた。

 地球科学アカデミーは各国からの提案について専門家会

議を開き慎重に検討した結果、日本の案を修正して実行さ

れることが決定された。

 その頃「Ochou」は木星周辺を軌道を変えながら進んで

いた。SSATとルナー市の観測データと各地の観測所から

集められたデータを解析した結果、地球に向かっているこ

とが明らかになった。そのために国連と地球科学アカデミ

ーの名の下に「Ochou 」の軌道変更計画が実行に移され

ることになった。

 この処置は報道規制されていたので一般人の知らない間

に実施された。ルナー市に臨時基地から発射されたロケッ

トは「Ochou」に向かって近づいていった。一般市民はよ

うやく明るさを増した「Ochou 」を夜毎見上げて話に花

を咲かせていた。

 ロケットは「Ochou」に命中し目的を達成した。その後

「Ochou」は速度を上げながら太陽への軌道を突き進み衝

突した。太陽は衝突後少し時間をおいて大爆発した。そし

てスーパーフレアーを発生した。スーパーフレアーは水星

 軌道まで達したが水星を飲み込むことなく落ち着いていっ。

 スーパーフレアー爆発によって大量のヘリウム3が地球

方向に飛んできた。地球上ではコンピューターが大打撃を受

けたがそのことを予想して地中深く掘られた鉱山や炭鉱の

中に主要機器を移しておいたので1年もかからずに復旧す

ることが出来た。

 ヘリウム3はヒマラヤ山脈などの高山地帯でも大量に採

掘できるようになった。地球上のエネルギー供給は今後数

千年は安定供給できることになった。

 その結果、ルナー市の採掘現場は当分の間休業閉鎖され

た。その代わりに取りあえず観光基地として開発され、低

料金で所得の高低に関わらず初めは抽選で行くことが出来

るようになった。人々はこれを「Ochou」効果と呼ぶよう

になった。

 「Ochou」効果によって、国連と地球科学アカデミー、

それに人権擁護団体や各宗教団体などが自分たちの利益を

優先することなく一致協力して人口漸減計画を実行するこ

とになった。人々は彗星「Ochou」の一生を無駄にするこ

となく平和な地球を築いていくことを誓い合った。

 


彗星「Ochou」効果(4)

2016年05月06日 22時17分17秒 | 寓話

 曽根は久しぶりに妻と一緒にハワイへ来たので周辺

の島を観光することにした。妻も喜んで観光に同行し

た。

「まるでお上りさんみたいね。見るものが全部珍しくて

楽しいわ」

「そうだね、お長さんには苦労の掛けっぱなしだったか

ら、この位は当たり前だろう。もっと希望があったらそ

ういってご覧出来るだけのことはするからね」

「ええ、私はもう幸せ一杯で、もう何も言うことないわよ」

「欲がないんだね」

「だって私には大切な人がいつも直ぐ近くにいるんですもの」

「そういわれると照れてしまうな」

 そんな他愛もないことを話ながらハワイ旅行を満喫して

いる曽根修だった。

  日本に帰った曽根のパソコンに沢山のメールが入ってい

た。その中に東京第1天文台の虎谷文爾教授から重要な話

があるので帰国したら直ぐ知らせて欲しいというメールが

あった。曽根は何事かと思い虎谷教授に電話を入れた。

「私は曽根修ですが、虎谷先生から帰国したら直ぐ知らせ

てくれと言うメールをいただきましたので電話を掛けまし

た」

「あ、曽根修さんですね。虎谷教授がお待ちかねです.今

変わります」

「曽根さんですか。お待ちしていました。実はハワイの会

議の数日後に、トスカーニ国際天文学会長から大変な情報

を頂きました。あなたの発見された彗星「Ochou」の軌道

が地球の近傍を通過する可能性が高くなってきたというの

です。

「Ochou」の実態がまだ不明なのにどうしてそんなことが

予想できるのかとお思いでしょうが、研究集会では社会的

影響を考えて報告から外したというのです。この情報は極

一部の方しか知らないことをご承知頂きたいと思います。

それであなたにも東京へお出でいただきお手伝い下さらな

いかと言うことなのですが。如何でしょうか」

「ずいぶん急なお話ですね」

「そうなんです。申し訳ありません。ことは緊急を要する

ことなので、出来るだけ早くお返事下さるようお願いしま

す」

「解りました.妻と相談します。お返事は明日にでもいたし

ます」

「よろしくお願いします」

 曽根は自分に出来ることは何かを考えた。そして妻のお

長に相談した。

「大変なことのようですけれども、あなたがやら無ければ

ならないことはあなたがやらないといけないわね」

「今の私に何をやらせようと言うのだろう」

「行ってみれば解ることだわ」

「家のことは大丈夫かい」

「いつものことですから心配しないで」

「じゃ行ってくるよ」

 曽根修は東京第1天文台の会議室へ入った。そこには日

本のコメットハンターの仲間数人と岡山や長野の天文台で

研究・観測している天文学の専門家がいた。その他にプロ

グラマーもいた。初めて会う人も数人いたのでお互いに自

己紹介して挨拶を交わした。

  虎谷教授が入室すると会議室内はすぐに緊張した空気に変

わった。

「私は天文台の虎谷です。お忙しい方々に緊急にお集まり頂

いたので挨拶はこれで終わります。早速ですが、お配りした

資料は世界でもまだ公開していないものですから取り扱いに

はくれぐれもご注意下さい。

「さてそちらにお座りの曽根修さんが発見された彗星「Ochou」

の軌道計算は世界中で行われていますが、ごく最近の推定に

よりますと太陽系の外惑星軌道に沿って進んでおりますが、

あと4ヶ月ほどで木星近くに達しそこで軌道を変えて地球と

火星の間を通って地球の近傍を進み太陽へ突入すると考えら

れています。それで、この後1ヶ月くらいの内に「Ochou」

が地球近傍を通過する際にどのような影響が地球に及ぶかに

ついてご検討頂きたいと思います。

「なお本日お集まりの皆様には当天文台内に上等とはいえま

せんが宿舎を用意してあります。そこにはラウンジあります

のでいつでも議論をしていただけるようになっています。な

おここでの生活に必要なものは揃えてありますが不備、不足

のものは係の者に申しつけて下さい。旅費を含めてこちらに

滞在する間経済的負担は一切ございません。

「それでは進行係の佐々木秀一教授をご紹介します」

「私が佐々木秀一でございます。虎谷先生に倣って挨拶は抜き

で本題に入らせて頂きます。

「先ず映像をご覧下さい。UASAの追跡衛星から送られてき

たものです。「Ochou]は表面が氷に覆われた岩石からでき

ていることが判明されました。「Ochou」と太陽系各惑星と

の引力関係はほぼ解明されました。それによると「Ochou 」

は木星に引き寄せられた後木星のテザーリング効果によって

地球に影響が出るかもしれないほどの近傍を通過し太陽に向

かうという可能性が高くなってきました。そちらに居られる

長野天文台の正永恒彦博士の計算では地球自体には直接的な

影響は出ないと予想されますが、月の軌道に影響があると予

想されます。これはトスカーニ学会長のグループも同様の見

解を示しています」

 佐々木博士はここで卓上の水をコップに注ぎ口に含ませた。

 


彗星「Ochou」効果(3)

2016年05月05日 16時13分40秒 | 寓話

 こうして研究集会は、4つの部会に別れて議論される

ことになった。

 曽根は「Ochou」の軌道と初源について興味を持って

いたので主としてその関係の部会に出席した。どちらの

部会も激論が行われていた。

 5日間の集会があっという間に過ぎていった。そして

それぞれの部会は暫定的な結論を出して報告書を作成し

た。報告書は各国語に翻訳して公表するかどうかを全体

会議で検討した結果各国の政府に送付するにとどめるこ

とになった。

 第1部会の報告で目を引いたのは、「Ochou」の軌道

は今後も迷走することが予想される。その理由は太陽系

惑星の配置がばらばらになる状態が今後長期間継続する

からというものであった。それは「Ochou」の軌道がは

っきり定まらなければ太陽系惑星に接触する可能性もあ

ると言うことであると追記されていた。

 第2部会の報告では「Ochou」の初源は軌道が明確に

なっていないために現在のところ不明と報告されていた。

但し、”エッジワース・カイパーベルト”や”オールトの雲”

を起源とするものではなく、未知の太陽系外縁天体の可

能性が高いと推定されると書かれた。

 第3部会の報告は「Ochou」の質量は、開会の挨拶で

W.C.トスカーニ会長が話したとおり 3E14kg で誤差範囲

は±1.3%と報告された。これまで発見された彗星の中で

最大のものということになった。これは一般の氷型彗星

よりも遙かに大きな質量を持っていることが高くなった。

 第4部会の報告は、さらなる観測と明確な軌道計算を待

たなければ明確なことをいえないが。太陽系内で迷走する

ことによって惑星軌道に何らかの影響を与える可能性があ

ると報告された。さらに太陽との衝突の可能性もあると示

唆した。これは日本の若い科学者が2014年に報告したこ

とと関連がある可能性が高い。その報告では、773年に巨

大物体(彗星)が太陽と衝突したことが原因でスーパーフ

レアが発生し、地球へ大量の炭素14が降り注いだと推測

されたというものである。同様の現象が現代文明に大きな

影響が出る可能性があることを付記した。

  曽根修は研究集会の会場を出ようとしたところで一人の

外国人に呼び止められた。

「ハロー、アー、ユー、ミスターオサム・ソネ?」

「イエス、私は曽根修ですが。あなたは?」

「私はアメリカアリゾナから来たイエンセン、カゾーリ・

イエンセンです。あなたにお会いできて大変嬉しいです。

私はあなたと同じように彗星発見に大変興味を持っていま

す。曽根さんのこの度の発見は偉大ですね。私たちコメッ

トハンターにとっても歴史に残る発見です」

「あなたが、あのカゾーリ・イエンセンさんですか。お目

にかかれて光栄です。アメリカのコメットキングと異名を

持っていらっしゃる方ですね」

「曽根さん、あなたはこの彗星についてどんな感想を持っ

ていますか」

「私はこれまでのように普通の彗星を発見したものと考え

ていました。それがこんなに大きな問題になったことを困

惑しています。これからどうなるんでしょうか」

「私も同感です。こんなに長期間観測していて未だに詳細

が不明というのはとにかく異常ですね」

「何しろ質量が普通の彗星とは比べられないほど大きいで

すから、災害の原因にならなければ良いと思っています」

「全くその通りですね。それに現在の惑星配置がばらばら

なのも心配の種です」

「アメリカ合衆国は追跡衛星を打ち上げましたが、「Ochou」

にたどり着けることを祈っています」

「そうですね、宇宙基地SSATでも全力を挙げて観測をし

ていますし、ルナー市でも観測センターを急遽設置したと

聞いています。万全と言うことはないですが追跡にはかな

りの体制が整ったと思います」

「お話はつきませんが、これから人と会う予定が入っていま

すので失礼します。またゆっくりお話しできる機会を持ち

たいと思います」

「これは失礼しました。是非一度お目にかかりたいと思っ

ていましたので呼び止めてしまいました」

 曽根はアメリカのコメットキングと呼ばれているカゾ-

リ・イエンセンに会えたことを嬉しかった。

 この研究集会は定期的に開くこと、それからいつでも緊

急に開くことが出来ることを決めて散会した。しかし議論

はつきずいろんな場所でいろんな研究者たちが立場話をし

たりあるいはロビーで腰掛けて議論を続けていた。

 


彗星「Ochou」効果 (2)

2016年05月04日 15時48分57秒 | 寓話

 その頃の最大の話題は地球の総人口が2048年ついに

100億人を突破したことだった。そのために地球の環境

問題は一段と悪化してしまったが根本的な対策は議論さ

れなかったことを取り上げていた。一部の環境学者や人

口問題研究者は環境悪化の最大の原因は人口の急速な増

加にあると説き、人口増加抑制方法を議論すべきだと熱

心に説いてきたが、人間の基本権利を侵害すると言う人

権論者や宗教者の猛反対を受けていつの間には消えてし

まった。人口増加速度が速くなって各種資源の枯渇が問

題になったが、為政者たちの将来は虹の橋を渡るように

良くなるという談話をマスコミに発表して一般市民を安

心させていった。

 しかし100億の人口を養うために各種の資源を可能な限

り再利用してきたが、地球の地下資源特にエネルギー資源

の枯渇が30年後に訪れるとことが決定的になった。もちろ

んソーラーエネルギーはじめその他のエネルギー生産方法

もフル回転で電力を供給していた。しかし異常気象の多発

によってソーラー電力供給は順調とはいえない状態だった。

 そのため世界中の科学者は地球科学アカデミーと国連主

導で新エネルギー供給源として核融合の研究に全力を傾け、

何とか安全なヘリウム3を使用する核融合炉が完成したの

は2053年だった。

 核融合炉の燃料として必要なヘリウム3の供給をどうする

かが次の問題になった。アラスカ、シベリアやゴビ砂漠の地

下に埋蔵されていることが明らかになっているヘリウム4を

採掘しその中からヘリウム3を分離する方法が有力とされた。

その他に最も有力な資源は月にあることが解っていた。地球

科学アカデミーによって組織された月資源の詳細な調査と採

掘計画が実施された。その結果、月の表面付近には太陽から

のヘリウム3が大量に存在することが確認された。その採掘

のために月基地ルナー市が建設された。

 ルナー市は太陽から飛んで来て岩石に蓄蔵されたヘリウム3

を採掘するための技術者とその協力者が居住することになって

いた。ルナー市の建設は2056年から建設が始まった。一方化

学者たちも協力して月の岩石からヘリウム3を取り出す方法・

技術を完成した。

 初めの新彗星の研究集会から3ヶ月後に開かれる予定だった

ハワイ・マウナケアで開かれる第2回目の研究集会が時期を早

めて急遽開かれることになった。マウナケア特設会議場には続

々と研究者が集まってきた。

 開会冒頭、W.C.トスカーニ国際天文学会長は次のように挨拶

した。

「時期を早めた研究集会にも関わらずこんなにも多数の研究者

の方々にお集まり頂きまして大変喜ばしいことと思います。

「この研究集会の開催時期を予定より早めましたのは多くの方

は既にご存じのことですが彗星「Ochou」以後「Ochou」呼ば

せていただきますが、「Ochou」の異常行動が明らかになった

からでございます。「Ochou」は初め彗星と考えられたいまし

たが、その後の観測結果を総合すると非常に異常な行動を取っ

ていることが解りました。第1に移動速度が変則的であること

が解りました。第2に周回軌道がふらふらと迷走していること

が明らかになりました。そして第3に「Ochou」の質量が彗星

としては異常に大きいことがはっきりしたことです。「Ochou」

の質量は概算値ですが3E14kgと推定されています。

「以上のことから「Ochou」が今後どのような行動を取るかに

ついて検討して頂きたいと思います。かような理由で研究集会

の開催時期を前倒しさせて頂きました」