「あ。お前、山際じゃないか」
「え。そういうお前は....、えーとそうだ鈴本じゃな
いか。そうだ鈴本だ。なんでお前がここに」
「おれはボランテイアでお手伝いに来たんだ」
「そうか、有難うよ。何しろこの有様だから本当に助かる
よ」
「大変だったな。しかし無事でよかったな。そういえばこ
こは山際の実家のあるところだったな」
「そうなんだけどな、この地震と津波で町が跡形もなく無
くなってしまった」
「ご家族は無事なんだろうな」
「それがな、学校へ行っていた妹は無事だったんだが..」
「そうか悪いことを聞いてしまったな」
山際と鈴本は東京の大学の同期生だった。山際は大学の
後期試験が終わったので実家へ戻ってきていた。山際は両
親と妹に大学ことや友人のことそこには鈴本のことも含め
て話していた。山際はこの町が好きだった。大学を卒業し
たらこの町で学校に勤めたいと考えて勉強していた。それ
で大学では教育課程を専攻していた。鈴本とは大学の1年
次からバスケットボール部で頑張ってきた仲間だった。
2011年(平成23年)3月11日14時46分、東北太平洋
沖でマグニチュード9.0問巨大地震が発生した。その地震で
交通路は寸断された。そして数十分後、高さ10メートルを
超える津波が東北地方の太平洋沿岸を襲った。山際の実家
のあった街もこの津波に襲われて甚大な被害を受けた。
山際は、母校の小学校へ恩師を訪ねていた。そこで地震
が発生し、続いて津波の襲来を知り恩師たちと一緒に学童
を町の高台へ導いて避難誘導した。そのために学童の被害
は一人おなかった。山際の妹は山手に歩こうと学校へ行っ
ていて無事だった。
山際は学童の誘導が住むとその足で実家へ向かったが、
襲ってきた津波に阻まれて実家へ行けなかった。実家の屋
根が津波に流されているのを見て、山際は津波に飛び込ん
で両親を助けに行こうとしたが周りの人たちに引き留めら
れた。山際はあふれ出てくる涙を懸命にこらえていた。周
囲の人たちも一人残らず言葉を失ってその光景を見てた。
山際は町の避難所に妹と身をよせた。津波が引いた後す
ぐに妹と二人で両親を探しに行った。津波は20メートルを
超えたと発表されていたが、破壊された家は瓦礫となって
高台の近くまで一面に広がっていた。山際と妹は、どこか
ら手を着けたらいいのかわからず呆然としていた。妹と2人
で見に行った実家のあったと思われるところはコンクリー
トの土台が残っていただけで周囲一帯に何もなかった。
救援の自衛隊が来て、行方不明者の捜索が始まったがが
れきの山に阻まれて遅々として進まなかった。
そして今日も瓦礫の山を片付けながら両親はじめ行方不
明者をさがしていたのだ。そこでばったり鈴本に会ったと
いうわけだった。
鈴本は大学のバスケットクラブの仲間とこの町へボラン
テイアとして気のやってきたのだった。鈴本たちは、この町
へやってきて町の様子を一目見てその有様に体が凍り付い
てしまった。自分たちに何かできることがあるのだろうか
と自信を無くしてしまった。中にはこのまま東京へ帰ろう
と言い出すものも出る始末だった。そのとき避難している
高齢の女性が避難所で配られたお茶とお握りをもってやっ
てきた。
「これは避難所でいただいたものですがどうぞ食べてくだ
さい」
「え。ありがとうございます。おいみんな、避難されてい
る方から差し入れだ。良く味わって食べるんだぞ。お礼を
言ってな」
「おす」
といって学生たちはおれいをいった。そして鬼木路を食
べ始めた。女性は苦しい心を隠して学生たちをじーっと見
ていた。学生たちの中には突然目に涙を貯めたものが出て
きた。
その学生は東京へ帰ろうといった学生だった。 学生た
ちは町の人たちと話し合いをしたり他のボランテイアとも
協力して瓦礫の山をか続け始めた。そして今日、偶然山際
と出会ったのだった。
「そうかあ、山際の実家はこの町だったんだな」
「そうなんだ。両親に少しは親孝行をしようと思っていた
矢先にこのありさまになってしまった。残念だ」
「俺には何といって慰めたらいいのか言葉がないんだが。
元気を出して頑張ってくれ。俺初めみんなも応援するから」
「うん。ありがとう」
こうして山際と鈴本たち、瓦礫の山に取り組みだした。
行方不明者たちは次々に発見されたが、山際の両親はまだ
見つからなかった。
懸命の捜索が来る日も来る日も続けられた。4月になっ
て鈴本たちが東京へ戻る4日前、瓦礫の中から子供を庇っ
たような格好で母親と思われる人が見つかった。続けてま
だ若い女性が見つかった。そしてこれ以上の捜索は不可能
と思われたとき夫婦と思われる高齢者が見つかった。その
2人はしっかりと腕を組んでいた。しかし、山際の両親は
じめたくさんの方々がまだ見つかっていなかった。東京へ
戻る鈴本達にはそれが心残りであった。
鈴本たちが東京へ戻る日が来た。山際初め町の人たちは、
みんなで鈴本たちに感謝の気持ちを込めて振り返り遠ざか
っていく鈴本たちを手を振って見送った。