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北見藩藩主の北見重興は、新参の伊東成孝に藩政を任せ切りにしており、「病重篤。」を理由に、代々の家老衆によって隠居させられる(所謂「押込」)。重興は藩主の別邸・五香苑の座敷牢に幽閉され、佞臣の成孝は切腹した。
実は、此の「押込」には裏が在った。重興は記憶が途切れたり、不可解な言動をしたりする事が在り、其の原因が悪霊に在ると考えた成孝は、真相を調べる為、重興に近付いた様なのだ。然も悪霊には、「御霊繰(みたまくり)」なる謎の言葉が関係しているらしい。作事方の家に生まれた各務多紀は、運命の糸に導かれる様に事件に巻き込まれ、若き医師の白田登、従弟の田島半十郎、元江戸家老の石野織部等と、重興を救う為、奔走する事になる。
最新の医学を学んだ理知的な登は、重興は心の病と考えて治療を続けるが、五香苑では超自然現象としか思えない怪異が続く。
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宮部みゆきさんと言えば売れっ子作家の1人だが、上梓した作品に大長編が多いのが特徴。彼女の作品は幾つか読んでいるのだけれど、どうにも自分とは“肌合い”が良くなかったりする。其の要因は幾つか在るが、失礼を承知で言うならば、「無駄な記述が多く、全体的にくどくどしい。」というのが最大の要因。
宮部さんが文壇デビューしたのは1987年で、今年デビュー30周年を迎えた。其れを記念して上梓されたのが、今回読了した「この世の春」で、上&下巻合わせて800頁の大長編。江戸時代を舞台とし、「解離性同一性障害(多重人格傷害)」をテーマとした作品だ。
範疇で言えば、「サイコ&ミステリー」という事になるのだろう。実際、読み始めた段階ではそう感じたのだけれど、読み進めるに連れて「ん?」という感じになった。おどろおどろしい内容では在るのだが、「怖さに深みが無い。」のだ。で、最後はラヴロマンスみたいな落ちで、「宮部さんは此の作品で、一体何を描きたかったのだろうか?」という疑問が残ってしまった。
矢張り、全体的に冗長さは否めない。極端かもしれないが、3分の2位の分量でも充分構成出来たろうし、其の方がすっきりしたのではないだろうか。